歓迎という名の罠
その夜、
領主館の高層階から完成した教会を見た。
灯された明かりは昨日より強まってるように見えた。
行きたくないなぁ。
だけど、王命には逆らえない。
《フェイク》で、
・俺は、絶対に『殺せない』
・『神術』では俺の『魂を燃やせない』
・『おどり』では『MPを減らせない』
という対策はしている。
いざとなったら瞬間移動で逃げられる。
だから、なんとかなると思う。
「はぁ……」
行くしかないかぁ。
「お供いたします」
執事がついてくる。
「ついていく」
エリナがついてくる。
さすがに、エリナは連れていけないな。
「ローラ!」
「はぁい」
「エリナを守ってやってくれ」
「了解ですわぁ~」
もっとごねるかと思っていたのだが。
こいつは瞬間移動もあるらしいし、任せて大丈夫だろう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
教会の前に来た。
索敵魔法で、教会の中を探る。
ドアを開けた瞬間を狙っているのだろう。
矢を射る準備をしてる幼馴染。
ドアの側にデカいハンマーで殴るつもりの幼馴染。
ミミレ神官の代わりに、ウルスらしき姿。
思いっきり、待ち伏せしてるじゃん。
そういう「歓迎」はいらないのだが。
ミミレ神官は、奥の部屋でくつろいでやがる。
それなら、こちらも裏をかくまでだ。
俺は執事の手をガッチリ握る。
「そういうご趣味が?」
「違うわ」
「ガッチリ握らないと、同時に移動出来ないんだよ」
瞬間移動魔法で神官の部屋に突撃する。
ミミレ神官は飲みかけの紅茶を吹きだした。
俺の顔をめがけて。熱いんだけど、マジで。
「ご招待に応じて参りました」
「そ、そうですか。なんでいきなりこの部屋に?」
そう話していると、ウルスが乱入してきた。
こいつも瞬間移動を使えるらしい。
まぁ、この体が覚えてるくらいだから、その魂も覚えてるんだろうな。
ウルスが謎の詠唱を始める。
「神術ですな。防御魔法は貫通してくるので無意味です」
執事がボソリという。
神術が発動。
だが、俺には何も影響がない。
代わりにウルスは、急に老けたように見えた。
「触媒なしで神術を使うと自分と相手の魂を消耗します。
どうして、領主様は、無事なのですか?」
「秘密だよ! 敵の前で話すことじゃない」
「これは失礼しました」
ザクッ……。
矢が刺さる。射手の姿は見えない。
幼馴染の《必中》なら、壁も無意味か?
この部屋は、パーテーションみたいな感じで、完全な壁じゃなく、上の方が開いていた。そこから見えてるのかな。
俺は立ち位置を変え、壁側によった。
急にウルスがキレッキレなダンスを踊り始める。
どうした? 気が触れたか?
いや、これが『ふしぎなおどり』なのか。
しかし、カッコイイな。そのダンス。
思わず、見入ってしまったぞ。
せっかくだから、たちくらみのフリでもしておこうか。
……と演技していたら、壁が崩れた。
幼馴染の《剛力》だな。
デカいハンマー持ってたもんな。
ザク、ザクッ……。
壁が崩れて視界が確保されたことで、矢も飛んできた。
レスタが、巨大なハンマーを俺の上に振り上げる。
「観念しなさい、ファリス!」
その間にウルスは、何度も神術を繰り出してくる。
そして、そのたびに老けていく。
かなり手がシワシワになって、ようやくヤツも気づいたらしい。
神術で俺の魂が削れないことに。
それを見て、ミミレ神官とウルスは慌てていた。
ウルスが状況をひっくり返すようなことを言ってきた。
「スミス。貴様なぜそっち側についている」
スミス? 誰だっけ……。あぁ、執事か。
ルディア・スミスとかいう名前だったな。
俺は、最初に「スミスさん」と呼んで変な顔をされてから、
ずっと執事さんと呼んできたっけ。
そうか、あいつは呼び捨てで呼んできたのか?
たったひとことだけだったが、執事は激しく反応した。
「そちらが本物の領主様なのですか?」
「あぁ、そいつの変なスキルで体が入れ替わったんだ」
「おまえは、俺の味方であるべきだ。違うか?」
「はい、その通りです」
執事は、突如向こう側に寝返った。
いや、本来の主人に仕えただけか。
だが、このひとことは、幼馴染たちにも動揺を与えていた。
事実、あいつらからの攻撃が来なくなった。
「一旦、引くぞ。一緒に来い」
「はい、お供します」
ウルスは、執事を連れて退却した。
幼馴染たちも、その後を追った。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
俺は、ひとり残ったミミレ神官を問い詰めている。
「どういうことか、説明してもらえますか?」
「え~と、その。私もよくわかりません」
「本当に知らないみたいですわぁ~」
ぬっと現れたローラが心を読めるタブレットを手に言う。
「教団からは、ウルスさんのステージで歓迎するという話でした。
それが終わってから私が登場する予定になってました」
「間違いは言ってないみたいですわぁ~」
ローラが言うのだから、そうなのだろう。
知らない以上、これ以上問い詰めても無意味か。
俺は、教会をあとにした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ウルス、執事、ライナ、レスタの4人は、
隠れ家まで戻っていた。
ライナが口を開く。
「ねぇ、あなたはファリスなの?」
「平民のくせに呼び捨てで呼ぶな! 俺はこの国の公爵、ファリス・ロドスだぞ」
ウルスの体に入っているファリスは、そう言い切った。
レスタが言う。
「体が入れ替わったのに、
私たちを騙して介護をさせていたというの?」
「騙すも何も、領民はすべて俺に仕えるのが義務だろう!」
ウルス(元ファリス)は一切の疑いもなく言い切る。
「ごもっともです。領主様。口が過ぎるぞ、平民」
執事が相槌をうつ。
「貴様らも、どうやってヤツを倒すか考えろ。
おまえらも、ヤツを殺したがってたではないか!」
ウルス(元ファリス)は、身バレしていても領民はもれなく味方という認識を改めようとはしない。
「私たちが倒したかったのは、あなたよ。ファリス!」
「チッ。使えない平民だな」
「私たちは、これ以上あなたに協力は出来ないわ」
「なんだと!」
「ウルスの体のままなら、誰もあなたを貴族とは認めない。
すごまれても、全然怖くないわ。
今のあなたは、ただの平民なの。
私たちは、もうあなたには協力しないわ」
「くっ、おまえら。後で痛い目見るぞ!」
執事はウルス(元ファリス)の味方になったが、
ライナとレスタはウルス(元ファリス)の元を去った。
「領主様、今後どうされます?」
「隣国クフィール王国のラシド教団・大教会に行くぞ。
教団が俺をサポートしてくれることになっている」
ウルスは執事を連れてクフィール王国に向かった。
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次回『軍議か、処刑か』
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・・ 次回 毎日 20:00 公開 ・・
※※ 本日は、この1話のみです ※※
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