落とし穴信仰
「どうしてくれるんだ!」
俺は今、絶賛問い詰められている。
目の前にいるのは、俺の領の下流にあるララソ領の領主、ドドソソ・ララソ。
「えーと、何のことでしょう?」
実際は分かっている。抗議の内容は、水害の件だ。
前回、俺の領の上流にある領地と下流にある領地が、水害で壊滅的な被害を受けた。
特に下流のララソ領は被害がひどく、領民の3分の2が亡くなったらしい。
なぜって?
たぶん、うちで氾濫するはずだった水が全部そっちへ行ったからだ。
「なんで、お前のところだけ被害がないんだ」
「たまたまですよ。たまたま……」
「おかしいじゃないか」
うん、まぁ、おかしいよね。
下流だけならまだしも、上流まで水害に遭っているんだから。
さて、どうやって言い訳しようか。
とりあえず、「謎」扱いされているもので誤魔化そう。
どうする?
△.落とし穴のおかげ
▢.ネコのおかげ
〇.灰のおかげ
×.道路工事のおかげ
〇.灰のおかげは灰の量産を迫られそうだ。
でも、木はあまり伐採してほしくない。
だから、それ以外で……。
俺は次の選択をした。
「落とし穴のおかげ……かもしれませんね」
「実は、神のお告げがあって……」
「領内のあちこちに落とし穴を掘っていたんです」
「なんだと?」
ドドソソさんが食いついた。
(確かに諜報員からも、謎の落とし穴のことは聞いている)
「それが、水を逃がしたのかもしれません」
ドドソソさんは考え込む。
(落とし穴が地下水路の役目を……?)
「実際、被害がなかったのはうちだけでしたから」
「うぅむ……」
(神のお告げだというし……)
「ほかに思いつくことがないので……」
「分かった。ありがとう」
あれ? お礼を言われた。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
俺は代官から報告を受けていた。
「領収は順調に伸びています。特に『ロドスの灰』が大きいですね」
お前も、その名前で呼ぶか……。
「木を伐りたがる住民が多く、止めるのに苦労しています」
「そうか。引き続き頼む」
「6月2日以降、悪夢を見る住民が増えました」
水害のあった日か……。
「悪夢?」
「水害や、生き埋めになる夢を見るそうです」
そういえば、心の傷はケアしていなかった。
俺が覚えているくらいだから、住民もあの『体験』だけは記憶しているのかもしれない。
「『6月2日の悪夢』と呼ばれています」
また変な言葉が出てきたよ。
まぁ、このトラウマばかりは我慢してもらおう。
「ほかに変わったことは?」
「新たな特産品に『ネコ』と『ネコグッズ』が追加されました」
「ネコが増えすぎて困っていたのですが、他領からの需要が多くて……」
「去勢する間もなく、次々と出荷されています」
これなら、うちがネコ領と呼ばれなくなる日も近いか……。
「『ネコならネコ領で買え』と言われているらしく」
「あぁぁぁ……」
「『揺れない馬車』の発注も増えています」
「領主様がお乗りになっていたものが非常に好評で……」
「あぁ、あれか」
「もはや、あれが今のトレンドらしいです」
「マジで……」
「えぇ……」
「あと、他領へ行かれる際は注意していただきたいのですが……」
「んん?」
「実は、他領で『落とし穴』作りが流行っているそうです」
「何それ?」
「落とし穴が幸運を呼ぶという噂が流れていて……」
「貴族の邸宅では、落とし穴が何個あるかを自慢しているそうです」
うは……;ちょっと吹き出しそうになった。
「平民たちまで落とし穴を掘り始めていて……」
「専門ギルドまでできたそうです」
「『落とし穴教会』まで建つそうで……」
「王都では落とし穴付き庭園が流行だとか……」
「何やってんだよ……」
「何人引っかかったかまで競いあってるそうなので……」
「『落とし穴』には十分お気を付けください」
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※※ 次回 6/30 21:00 公開 ※※
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