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ウソつき賢者の領地再建 ―クスッと笑える!?、勘違い領主コメディ(復讐から始まったはずなのに……)―  作者: 秋月心文


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川は氾濫しない

 6月2日


 ドザァーーーー


 強い雨が降っています。

 風も強く、傘も役に立ちません。


 何日も……

 何日も……

 降り続けて、もう3日目です。


 ん!!


 やばくないか?


 地図を広げます。


 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・


 川は氾濫するだろう。

 堤防作ってないから。


 山がいくつか崩れるだろう。

 木がなくなった山があるから。


 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・


 いくつかやばそうな場所を覚えると、

 鳥を操って現地を覗き見ました。


 川は氾濫していました。

 流されていく住民が見えます。


 木がなくなった山は崩れていました。

 いくつかの町が、土砂に飲み込まれています。


 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・


 既に氾濫している場所に、

 馬車で向かうのは危険だろう。


 職人さんたちに、ダメ元で聞いてみました。


「船って持ってないかな?」


「船はありませんけど、

 領主さんの馬車、フロート付けられますよ」


「は?」


 馬車のキャビンは、

 水が入らないようになっていて、

 水に浮く設計だそうです。


「なんで?」


「こんなこともあろうかと……」


 なんか、いろんなアニメで、

 使い古されてるセリフを聞くことになるとは……


 急いで馬車と馬の両脇にフロートをつけてもらいました。


 幸い道路工事が進んでいるので、

 現地までぬかるむ心配はなさそうです。


 バリスタは、水害を想定して改造をしていました。


 こいつの出番もありそうです。

 矢の先に浮き輪が付いていて、

 そこから長い紐がリールに巻かれているものです。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 現地までの移動は、比較的スムーズでした。


 もしもの為に用意してもらったものは、使わずに済みそうです。


 まずは土砂崩れの現場に……。


 山も崩れて土砂に埋もれてる人たちがいる。

 川も氾濫して流されてる人たちがいる。

 雨もやみそうにない。


 どうする?


△.水をどける

▢.土砂をどける

〇.雨を止める

×.あきらめる


 俺は考えた。

 川の氾濫は、領地の半数近くに及んでいる。

 対して、山崩れは、局地的だ。


 2つを同時に解決できない。

 すぐに、リキャスト音が鳴るなら別だが……。


 俺は……

「川は、氾濫しない」という「ウソ」をついた。

 澄んだ不思議な音が脳内に響いた。


 言ってしまってから、過去形で言わなかったことを後悔した。 


 でも、すぐにリキャスト音は鳴らなかった。

 少し様子を見るしかない。


 だけど、川の水は一瞬で引いた。


 現在形でも、起きてしまったことまで「ウソ」にできるらしい。


 フロートで浮いてた馬車が、ゴトリと音を立てて地面に着地した。

 馬が、少し驚いたようだ。


 流されたはずの家もそこにあった。

 人々も無事なように見える。


 ……だが、本当に何が起きたのかは分からない。

 それ以上は、確認しなかった。


 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・


 急いでやるべきことがあったからだ。


 次だ……。


「時間との戦いだ」


「大至急、土砂をどけるぞ」


 風魔法を使い、土砂を吹き飛ばしていく。


 手が見えた。


 周りの土砂をどけ、その人を引き上げた……。


「ひぃ……!」


 助けた相手にまで、おびえられるのか。


 ……まぁ、今はいい。


 嫌われていることはわかっている。


 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・


 そんなことより、次だ。


 町全体が、埋まったのだ。

 埋もれている人は、ひとりじゃない。


 別な場所でも、同じように救出にあたっている人たちがいた。


 冒険者か。

 ギルドが依頼を出したのだろう。


 あれは……

 見知った顔があった。レスタか。


 少女はものすごい勢いで土砂をどけていた。

 さすが、剛力スキル。


 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・


 エリナにさっき助けた人を、向こうにいる銀髪の小柄な少女のところまで連れていくようお願いした。


 少しして、向こうから、回復魔法の光が見えた。

 無事に渡せたみたいだな。


 そうだ、さっきの少女は、俺の幼馴染レスタだ。


 俺を憎んでいるだろうから怖いが

 さすがにこの状況だ。

 人命救助より、優先はしないだろう。


 優しく土をどけていく。


 体が見えたら、その周辺をどける。

 気が遠くなる作業だ。


 けれど、やるしかない。



 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・


「あっち……まだいる」


 エリナの指さす場所を掘ると、


 また人が埋まっていた。


 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・


「この下……」


 今度もエリナの言う通りだった。


 また一人、土砂の中から救い出す。


 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・


 すごいな。エリナ。


 良く見つけたな、頼もしい限りだ。


 

 ・ ・ 数時間ほど経過 ・ ・


 頭がクラッときた。

 目がかすむ。

 やばい、魔力切れだ。


 指先が震えている。

 魔法が出ない……。

 俺は、ヘタヘタと、その場に座りこんだ。


「これ飲んで……」

 

 エリナが何か持ってきた。この前作ってたヤツだ。


 ゴクゴクゴク……

 なんというか、エナジードリンクみたいな味だな。


 少しして、なんとなくみなぎってきた。

 魔力が全回復した……気がする。

 エナジードリンクで?


 いや、そんなことは、どうでもいい、目の前に集中だ。



 ・ ・ 更に数時間経過 ・ ・


 同じ作業の繰り返しで、モチベーションが下がってきた。


 俺は無意識にエリナの手を握る。

 なんとなく、その方が、頑張れる気がした。


 雨は弱まる気配もない。

 指先の感覚がなくなっていく。

 救助した人が次々と運ばれていく。



 ・ ・ 更に1時間ほど経過 ・ ・


 待っていた音が、脳内に鳴り響いた。


 つくべき「ウソ」は、もう決まっている。

 土砂をどけることだ。

 

 俺は……

「山は崩れない」という「ウソ」をついた。

 澄んだ不思議な音が脳内に響いた。


 「ウソ」が過去形でなくても、川の水が引いたんだ。

 土砂だって、過去形でなくていいはず。


 今後もある。

 だから、過去形にはしなかった。

 

 予想は的中した。


 目の前にあった土砂は全て引いた。

 土砂に埋もれていた家屋も元通り。


 これで埋まっている人の捜索は、もう必要ないはず……。

 そう思ったが、俺の足はふらついていた。


 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

 

 向こうで、不思議そうな顔で、こっちを見ているヤツらがいた。


 レスタたちだ。


 何か気づいたのかな……。


 まぁ、いいや。


 今は休みたい。


 今日は、これで、撤収しよう。

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・・ 次回 毎日 20:00 公開 ・・

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