75/76
団子屋
散歩がてら団子屋に来た。
客と団子屋の亭主が話していた。
「不本意なんですよ。でも、僕は犬なんです」
「…お客様が犬?」
「ほら、ここ見てくださいよ。犬のページ」
男は亭主に『動物図鑑』を開いて指さした。
亭主は首を傾げてから、老眼鏡を掛けた。
「あ、コリーの隣の図は確かにお客様ですね。…えーと、50歳前後、足のサイズが27.5cm、慢性アレルギー性鼻炎があって…」
「ほら、そこに書いてるホクロの位置も同じですし、そもそもその図は社員旅行の時の僕の写真ですから」
「なぜ、こんな事に?」
「犬の定義が変わったんですよ。ほら、紀州犬の隣も人ですし。…まぁ、今となっては犬ですけど」
「全く、世の中どうなってしまったんでしょうね。しかし、お客様が犬なら店に入られては困りますよ」
客は首を横に振って、亭主に『犬の玩具大百科』を開いて見せた。
亭主はそのページをジッと見て、溜め息をついた。
そして亭主は右手を客に咥えられながら、店を出ていった。
「最近、よくあるんですよ」
団子屋の奥さんが私に言った。
「どういう事ですか」
「定義が変わったとか言って、店をサボるんです」
「…そうなんですか」
私はショーケースをノックした。
草団子の隣にいる近所の浪人生は、黙って私を見上げるだけだった。




