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柄
飲み会も中盤に差し掛かった頃だった。
私がお玉で鍋のアクを掬うのを見て、専務が言った。
「俺達の子どもの頃は、柄なんて無かったんだよ」
「“え”って、持ち手の柄ですか?」
「そうだ。お玉だけじゃない、歯ブラシにも傘にだって柄は無かった。まだ日本に柄が伝来してなかったんだ」
「伝来…ですか」
「君はクワに柄が無いと、どれだけ畑を耕しにくいか分かるか」
専務の周りにいた年配の社員も、うんうんと頷いていた。
「…それは不便ですね」
「柄なんて、最近の話だよ。だから俺達の世代は柄に憧れがあるんだ」
その帰り、専務はタクシーの後部座席で、長い柄の付いたノート型パソコンを抱きしめたまま眠ってしまった。




