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 実家の下駄箱を開くと、懐かしい物があった。


 就職祝いに父親が買ってくれた、歩くとピッピッと鳴る革靴だった。

 それは、ヨチヨチ歩きの幼児を迷子から守り、歩く楽しさを教える様に、社会に出たての私をキャリア形成の迷子から守り、働く楽しさを教えてくれた。

 今でも街で、このピッピッという音を耳にすると、新入社員として奮闘した若かりし日々を思い出す。


 私はその靴を手に取ろうとして、止めた。

 触れてはいけない気がしたのだ。

 それは、茶箪笥の飾り棚に長年置かれた木彫りの熊がそうである様に、靴が下駄箱と同化していたからだ。

 今や、その靴は祭具となって静かにこの家を守り、私に過ぎた時の長さを教えてくれていた。


 私はそっと手を合わせ、下駄箱を閉じた。

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