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 近所に越してきた部下の家に招待された。


 私は門扉の前で足を止めた。

 玄関のドアの周りには、“指”と書かれた丸いシールがいくつも貼られていた。そして、その隣には“猛指注意”というシールもあった。

 私は“指”が得意ではないのだ。


 一つ息を吐き、私は意を決してインターホンを押した。


「来てくれて嬉しいです」

「いつも夫がお世話になってます」

 とても好感が持てる爽やかな夫婦だった。

 ただ、二人とも喋りながら常に私を指差していた。


 私の視線に気付いて、部下が言った。

「あ、指が気になりますよね」

「いや、仕方ないんだろ?」

「すみません。我が家は鍵を掛けても指差し確認、いつもと違う事があれば指差し確認。何でも指を差すんです」

「防犯だな。大切な事だ」

「番指なんです」

 部下は申し訳なさそうに、私を指差したまま頭を下げた。


 “猛指注意”と分かった上での訪問であるし、折角の招待である。私はにこやかに指を差される他なかった。


「これ、良かったらどうぞ」

 私は駅前のケーキ屋で買ってきたモンブランを部下に渡した。

「ありがとうございます。気を遣わせてしまって、申し訳ないです」


 それを境に、夫婦の指は私ではなくモンブランに移った。

 安堵したのは束の間で、それから私はモンブランに負けたのではないかという疑念に囚われ続けた。

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