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月の入江  作者: 緋絽
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闇の

お久しぶりです。緋絽です。

お気に入りが100件越えました! わーい!

読んでくださっている皆様、本当にありがとうございます! 心からお礼申し上げます。




男が優雅に微笑んで歩み寄ってくる。

私は、一歩も動けなかった。圧倒的な存在感のようなものがある。

指先まで動かせなかった。私を押さえつける、何か。

「っ、ハルキ! お前っ、何やってんだよ!」

ノックスの怒鳴り声にビクリと体が跳ねる。

ノックスの方を見ると痛みに顔をしかめながら、なんとか腕に群がる死人を振り払って私に指を突き付けた。

「早く馬車を移動させろ! お前ならできんだろ! 動かせねえって言うなら御者をこいつらから救出して王城へ向かえ!」

ハッと我に返る。

そうだ。圧倒されてる場合じゃない!

今までこんな事態を経験したことがなかったからといって、フリーズしてていいわけがない。



私を、ハルキと呼ぶあの憎き上官の姿が浮かぶ。

私は、あいつの伝令役だ。



唇を引き結んで頷くと、今度はアルベルトが叫んだ!

「道は僕達がどうにか造ろう! あそこまで行けばっ、例えこいつらがついてきても一番隊がどうにか、っうあ!」

炎で馬車の周りの死人を焼き付くそうとしていたアルベルトの発動が途中で止まる。アルベルトは激痛を堪えるように頭を押さえている。

突然反対側に立っていたノックスも呻き、頭を押さえて屈み込んだ。

気が付けば、男との距離が確実に詰まっていた。

────もしかして、こいつがレオンの言っていた“後ろのでかい組織”なんじゃないの?

今更ながら思い付いた。ていうか早く気づけよ私! じゃあ。こいつを捕まえれば、“後ろのでかい組織”とやらが少しはわかるんだろうか。

やるだけ、やってみよう。

さっきの臆したような気持ちはすっかり無くなっていた。

私も同じように頭を押さえて屈み込み男の動きを見る。

男が近付けば近付くほど、ノックスは辛そうに呻き声を上げる。

屈み込んでいる私を通り過ぎ、馬車の前に男が立った。

「ポッテーリ子爵。迎えに来たよ」

中からの返事はない。

当然だ、牢から連れてくるときにアルベルトが強制的に黙らせた。

男が首を捻る。

「ポッテーリ子爵? 寝てるの?」

男が馬車の扉に手をかけた瞬間、───私はばねのように立ち上がって、男へ拳を振り抜いた。

「!」

男がギリギリで気が付いて頬を掠めるに留まる。続けて別の手を下から顎に向かって振り上げると、男が一歩後ろへ下がって避けた。

「あれ? おかしいな」

クスリと笑う男は、甘やかな優しい顔立ちで団長並みに整っていた。団長がライオンなら、こっちはしなやかな豹という雰囲気の。

「君にも、魔法かけたはずなんだけどなぁ。なんで動けるのかな?」

ニコリと笑った笑みに思わず背筋に寒気が走った。

「黒煙」

男が呟いた瞬間に周囲におどろおどろしい靄が湧いた。どちらかと言えば、煙のようだ。

「吸うなハルキッ!!!! 闇魔法だ!!」

叫んだノックスが風を使って死人達を切り裂く。

まだたくさん死人がいるし、何よりも辛そうだ。助力は期待しない方がいいだろう。振り上げたままの手をノックスとアルベルトに向けて無効化を使う。

温かな魔力が体内に吸い込まれるのを感じると同時に二人の方へ向かった煙が消えた。

そしてそれは、私の周りのも同様に。

「───へえ!」

私は腰に差していた折り畳み式の棒を一瞬で組み上げて振り回す。

難なく避けた男に、私は密かに笑みを浮かべた。


───罠にかかりおって、馬鹿者めえええええええ! ざまあみろお!


若干、高笑いが混じっているのは否定しない。

男に体勢を整える時間を与えずに、棒を軸に思いっきり体重をかけて回し蹴りをした。

レオンといい、こいつといい、足技に警戒が薄いと見える! 悪いけど私の得意技なんだよおおお!

「ぐっ!」

よろめいた男の腹に棒を突き込み、さらに体勢を崩したところで顎を打とうと掌を突き上げ───受け止められた。

男の前髪の隙間から覗く目が、笑っているのが、見えた。

「おしいね。もう少し君に力があれば、確実にボクは倒れただろうに」

クツリと喉を鳴らした男に怒りがわく。

それはあれだなバカにしてんだなそうかそうなんだな!

「うっさいネクラ! 離せ!」

「んー。ほんと、不思議。だあれも魔法効かないんだもん」

男が火や風を使っているアルベルトとノックスにチラリと視線を向ける。

興味があるような発言なのに、目はこれでもかというほど冷ややかで、無関心なのを示していた。

狩りの対象の獲物が、予想外なことをした。でもそれは、なんら自身に影響を与えない。そんな目線。

不意に男が笑って、グッと私の手に爪を立てた。

瞳を覗き込まれた瞬間、弾かれたようにアルベルトが叫んだ。

「呑まれるな、クラモチ!」




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