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月の入江  作者: 緋絽
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襲撃者

ご無沙汰しております、緋絽と申します!

どうにか世の中の学生の皆様よりも先に戦線離脱することがかないましたので、再び更新を開始していこうと思っております。


皆様、大変長らくお待たせしました。待っていてくださってありがとうございました!


まだリアルがなかなかバタバタしているので、頻繁にというわけにはいきませんが、必ず更新していこうと思います!



順調に進んでいると、丁度王城と本部の真ん中くらいの所で唐突に馬車の馬が足を止めた。

「なんだ?」

私の前を並んで行っていたアルベルトとノックスの馬も止まってしまったようだ。

「おい、どうした?」

二人が馬から降りたので、私もよろめきながら降り立つ。

アルベルトが御者に声をかけると、わからない、言うことを聞かなくなったとの返事があった。

私の馬以外、綱を引っ張っても動こうとしない。でも、私が離れた途端に止まった。

なんだ? まさか、中に転がされてるポッテーリ子爵が何かやったとか?

でも、ポッテーリ子爵には私が魔法を掛けている。もし使ったとしても、発動しないはずだ。

「もし」

「え、はい?」

女の人に声をかけられて振り返ると茶髪の女性がニッコリ微笑んで手招きしている。

「ねえ騎士様、ちょっと。助けてくださらない?」

「あ、はい」

頷いて迂闊に近付こうとした私を、ノックスが肩に手を掛けて引き留める。

「おわ、ノックス?」

「ちょっとは危機感持てって。護送中に対象から離れんじゃねえよ」

それに、とノックスが微妙な顔をした。

「なんか、嫌な予感するし。少なくともお前には行かせらんねぇ」

「何だと!」

それはあれか、私がへまをしそうとか、そういう意味か!

「面倒だからむくれんな」

ひどい!

「僕が行こう。君達はここにいてくれ」

アルベルトがそう言って女の人に近付いた。

「ねえ、ちょっと、助けてくださらない?」

再び微笑んで女の人が小首を傾げる。

あれっ、と思った。なんだか、違和感。

「どうした?」

アルベルトが柔らかく笑んで目の前に立つなり女の人はさっさと歩き出してしまった。

「あ、君! すまないが、僕はここを動けないので、他の騎士を呼ぶからその者が到着するのを───」

慌てたアルベルトが腕を掴み振り返らせようとした瞬間。



その女の人の手が外れた。ポロリと、まるで引っ付きかけの人形の手が取れたみたいに。



「───え?」

「ねぇ、少し助けてくださらない?」

青ざめたアルベルトに、女の人が笑いかける。さっきと寸分も変わらない笑みで。とれていない方の腕で、鋭い刃物を振り上げて。

「────っアルベルト!!」

悲鳴のような叫びが口から漏れ、体が勝手に動いていた。

飛び付くように女の人の振り上げた腕を掴み、膝で手首を蹴って刃物を弾き飛ばす。

まだ暴れるかと身構えたが、私が掴んだ途端、女の人は死んだように崩れ落ちた。

一瞬で呼吸が荒くなる。ドンドンと、胸のあたりで太鼓が鳴ってるみたいだ。

「すまない、助かった……」

少し青ざめているアルベルトが、まだ取れた女の人の腕を自分が掴んでることに気付いて、慌ててそれを離す。

「何? 何なのこの人」

「わからない……だが、ここから早く去った方がよさそうだ」

フーと二人して息をついた瞬間、大声が響き渡った。

「───グリーンッ、ハルキッ!!!!」

珍しいノックスの張り上げた声にそちらを向くと、多くの人に囲まれていた。

女の人と同じような笑みを浮かべ、その手には刃物を握った人々に。



戦っている最中に気がついたことがある。というより、戦おうとして私が触れると倒れるのでわかったのだが───この人達は全員初めから死んでいる。

なので、何度か私の魔法を使ってみたのだが、広い範囲にはまだ使えない上に、私が未熟なのか、すぐにまた起き上がってくるのだ。

「クソッ、キリがねぇな! おいハルキッ、もっかいやれ!」

ノックスが歯軋りをして鞘に入れたままの剣で、群がってくる人を横殴りにしながら怒鳴る。

今のところ全員が死者だったからと言って、生者がいないとは限らない。間違えて斬るわけにはいかないのだ。

「気休めだけどいいか!!」

掌を向けてそう怒鳴り返すと、今度はアルベルトに止められた。

「やめておけ! 僕達はともかく、君は使いすぎだ! 先天性型とは言え、枯渇してしまう! すでに倒れてもおかしくないんだ!」

え?

問題なく滲む魔力に、私は首を傾げる。

確かに、今は常時発動中だし、何度も使ったけど、あんまりダルいとかは感じていない。枯渇というのは、唐突にくるものなのだろうか。

「君達には申し訳ないが、使わせてもらう!」

アルベルトが目を見開くと、炎が周囲の人間に燃え広がった。

ひぃぃいいいいい! だから、綺麗な顔してやることがえげつないんだって!

「仕方ねぇか!」

ノックスも指をならして風を起こす。

あっという間に周りの人々の数が半分ほどになる。

「……すごい」

これが、訓練を受けた騎士の力なんだ。私じゃ、せいぜい3、4人が倒れればいい方で、あとは体術でしか役に立てなかったのに。

私は人垣が崩れたのをラッキー! とばかりに馬車の前まで駆け戻る。

────途端に、糸に操られたように倒れていた人達が立ち上がり、先程より明確な意思を持って襲いかかってきた。

「っ! おわっ!」

数人がかりで体を拘束される。というか、私の場合は私に触れた瞬間に数人がかりでのし掛かられたと言う方が正しい。

周りを見ると二人共拘束されていた。

さっきまでは撹乱が目的だったのか、無茶苦茶に襲いかかってきていたのに。

押し退けて二人の傍へ行こうとしても、人垣が邪魔してうまく進めない。

「なっ、なんだ!?」

「離せっ!」



「────食い殺せ」



ともすれば優しささえ感じる声音が響いた、次の瞬間。

ノックスとアルベルトの肩や腕に、死者達が噛みついた。

「っ、うあ……っ!!」

「ぐっ、う、いってぇ……!」

血がボタボタと落ちていく。

噛みついたまま、死者達は二人を馬車から引っ張って離す。

そして、私は視界の端で、捉えた。


その命令を下した奴が、うっすら笑みさえ浮かべて歩み寄ってくるのを。




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