護送対象者
や、やってしまった……。後悔はしてない。3㎜くらいしか。
「今回の護送対象者はポッテーリ子爵だ」
アルベルトのその一言に噴き出しそうになる。
私はあの貴族を思い浮かべる。
ポッテーリって、ぽっちゃりみたい。あの見た目に妙にマッチしているのが若干面白い。
「生活向きの魔法しか使えないらしいが、隠し玉を警戒せよとの命令が下っている。何か質問は?」
令状をたたんだアルベルトに向かって、私は先生にするように真っ直ぐ手を挙げた。
「道順は?」
「あれ、知らねぇのか? ……あぁ、そういや、研修期間なかったんだった」
ノックスが気怠そうに髪をかき回す。
フフフ、面倒と思っても教えてくれるから好きよ、ノックス!
「今回、査問会が行われるのは王城の刑部だ。僕達は裏門まで護送する」
「ここがポッテーリ子爵がいる牢。で、この道を通って王城の裏門まで連れていくわけだ」
地面に簡単な地図を描いてノックスが示してくれた。ほとんどが真っ直ぐな道なので覚えやすい。多分間違えないはずだ。多分。
ていうか、新兵だけに任せていいんだろうか。尻尾切りがどうのって、レオンは言ってたけど。
そしてレオンを思い出して私は顔を赤くした。
撫でるのは卑怯だ。こう、色々と。
私は女子の中で身長が高めだったから、撫でられることに慣れてない。むしろ撫でる側だった。だから、レオンにやられると、なんか痒くなる。可愛い女の子になったみたいじゃないか。
「ん、了解、覚えた!」
「うし、じゃあ行くか。………何、何で顔赤ぇの?」
イヤー! つっこまないでノックス!!
「体調が悪いなら休んでも構わない。大丈夫か?」
気遣わしげに眉を寄せたアルベルトはいつもの倍ほど麗しく見える。天使顔ってすごい。
いやーもうホント、最初のアルベルトはどうしたの? この人はちゃんと話せばいい人だと、最近わかってきた。
「気にすんな! 思い出し怒りだから!」
「そんな怒り方聞いたことねえよ」
だからつっこむなとさっきも!
私は慌てて話題の変換を試みる。
「それより! 新兵の俺達だけで護送すんの!?」
苦し紛れの疑問は話題の変換に成功した。
「通常は先輩方もいるんだが……恐らく、ポッテーリ子爵があまり魔術が使えないことで護衛者を削ったのかもしれない、な?」
自分のその結論にも納得がいってないらしいアルベルトに私達もウーンと首を傾げる。
「まぁ、そろそろ時間だし。何事もないことを祈りつつ行こうぜ。そういやハルキ、お前魔法どうなった?」
歩き出すと思い出したようにノックスが聞いてきた。
ギクッと体が強張る。
き、聞きますか! やっぱり!
「えー。結論から言いますと使えたんだけどぉ」
目を逸らして言いたくない旨を訴えてみるが流されてしまった。
くそぅ。だって、普通の魔法使えないって、どう考えても役立たずだ。
これ以上怒られるのはやだなぁ。
「早く言えよ」
急かすな!
「その、せ、先天性型だったらしくてさぁ……」
「へぇ? 別におどおどする必要ねぇじゃん」
「すごいじゃないか! どんな属性なんだ?」
見直したようにノックスが目を瞬かせ、アルベルトがキラキラした目で見てくる。
え、意外にもいい反応!
「ほんと? 無効化らしいんだけどさ!」
弾けるような笑顔で言うと、二人がビシリと固まった。
「無効、化?」
「え、う、うん」
無効化って聞くと誰もがこの世のものではないものを見たような顔をするのはなぜなんだ。
「なんか……まずい?」
「いや、……まずいというか、なんと言うか」
アルベルトが困った顔をする。
「実際にいたら、その、」
言いよどむアルベルトの隣からノックスが血も涙もないほどズバッと言いきった。
「厄介なんだよ。俺らは魔法に特化した戦い方が主だからな」
厄介だなんて! ひどい!
しくしく泣く真似をすると、ノックスが微妙な顔をした。
「男が泣き真似してんのに、お前だと妙に変な気がしねぇのはなんでなんだ」
実は女だからでしょう。いや、ばれたらまずい!
「じゃあ、僕達が魔法を使えなくなる場合もあるのか?」
アルベルトが苦笑して聞いてきた。
私は自信満々に頷く。
「もちろんだとも! 無効化は敵味方関係ねぇよ!」
「なんで誇らしげなんだよ」
ノックスに手刀を落とされた。
痛い! ちょっと、容赦なさすぎませんか!
「優しくない!」
「わりぃ、なんか腹立った」
ひどい!
「その、味方は除くとか、制御はできないのか?」
困った顔でアルベルトが聞いてきた。
それに私はどや顔で返す。チッチッチッと舌を鳴らすのも当然忘れない。
「そこまで俺に技術求めちゃ駄目だって。なんたって使い始めてちょっとしか経ってないからさ!」
「あぁまぁ、そう、かな?」
何かが違うと首を傾げたアルベルト。うむ、君の違和感は間違っていない。
要はイメージだとわかったから、色々頑張るけどさ。
「まぁ、いーや。敵だと面倒この上ねぇけど、仲間だし。精々精進しろ」
「イエッサー」
敬礼して返す。
牢に向かっている途中で、ノックスは風、アルベルトは火属性だと教えてもらった。
私達が牢の前にいくと、牢番の人が踵を打ち鳴らして胸の前で拳を作る敬礼をしてくれた。
おおう。かっこいいなそれ。
そして、もっとかっこいいと思ったのは、ノックスとアルベルトが自然にその敬礼を返したことである。
私、二人の間でただ突っ立ってるだけだった。非常に恥ずかしい思いをした。
「護送する罪人の受け取りに来ました。アルベルト・グリーン、ノックス・アークライト、ハルキ・クラモチです。令状と押印の確認をお願いします」
アルベルトが令状を牢番に渡す。
「は。確認して参ります」
牢番が手を令状にかかげて何事かを呟くと、令状に書かれた自分達の名前が青白く光った。
なんだろう、あれ。本人を認証する魔法とかかな?
「確認しました。どうぞ、こちらです」
牢に着くと、懐かしのヅラがどこにもなかった。あられもない姿になった頭部が光っている。
私はあまりに枯れ果てたその姿に驚きで言葉を忘れた。
だって。あんなに偉そうだったあの貴族は、悄然として虚空を見つめているのだ。あの無駄な気迫はいずこへ。
「ポッテーリ子爵、二番隊だ。刑部まで身柄を預かる。こちらへ」
アルベルトが声をかけると、こちらへ視線を向けた。その視界に私を認めた瞬間、その顔が凶悪に歪んだ。
ガシャンと手錠をかけられたまま鉄格子にポッテーリ子爵が突進してきた。鉄格子さえ無ければ私を薙ぎ倒そうとせんばかりだった。
「あぶねっ」
ノックスが私の後ろ襟を掴んで後ろに引っ張りこむ。
「貴様のせいでっ、私の人生はお仕舞いだ! あの時貴様さえ現れなければ!」
「落ち着け! 暴れるな!」
鉄格子を打ち付けるポッテーリ子爵の目が血走っている。
ひいい! 怖い!
アルベルトが中に入って宥めようとしたが、ずっと騒いでいるため鳩尾に一発あてて強制的に黙らせた。
麗しい顔のわりになかなかワイルドな黙らせ方だった。
「何……、ハルキ、お前知り合い?」
はぁ、と溜め息を吐いたノックスが背後にいる私に肩越しに声をかける。
私は曖昧に頷いた。
「あ、まぁ……。ちょっと、この人を捕まえた時に出くわしたと言うか、……あ、暴れたと言うか」
目を逸らしながら言うと、二人共呆れた顔をした。すでにつっこまれなくなってしまった。なんだか、意図せずしてトラブルメーカーになっている気がするのは気のせいだろうか。
お前は馬に乗って後ろからのっそり着いてこいと、ポッテーリ子爵の乗せられた馬車から最も遠いところに配置されて出発した。
…………もちろん、ポッテーリ子爵に魔法かけるのは忘れなかったとも!
話が進まない…。展開が遅いですが、お付き合いください!




