こぉの変態がああああああああ!
お久しぶりです! 緋絽と申します。
またまたしばらくの間更新が滞りそうです。申し訳ありません!
一月以上放っておくつもりはないので、おそらく二週間程度だと思われます。
まるで、体が弾けるようだった。
目があった瞬間に温かい何かが私の中に吸い込まれる。ここまでは、無効化を使う時と同じ。
でも、男を倒さなきゃと思った瞬間、体の中で急速に何かが膨れ上がった。その何かは魔力と同じ温かさを持っていたように思う。ただ、それは私の持つ魔力よりも格段に熱かった。
パン、と音がして何かが弾けた。
「っ!」
男が片目を押さえて仰け反る。
その隙に我に返った私は男の手を振り払って距離をとった。
今の、何!?
ドキドキして心臓を押さえる。
今の感覚が夢じゃないなら、この状況は私が作ったものってことになる。
「う……」
男が押さえている片目から赤い物が流れ地面に滴った。
ぎゃあーーー! 血!? 血だよねそれ!
私は盛大に慌てた。
「あ、あのっ、だ、大丈夫!?」
じゃないよね! はいごめんなさいすみません!
内心ダラダラと冷や汗をかく。
「何これ……反術?」
健常な方の右目を開けて男が私に目をやった。
そして、心底楽しげに笑う。それは、さっきまでと違う興味を持った目だった。
ひいいいい! 何よ!
なんだか肌がゾワゾワする。
フラりフラりと男が体を揺らして私に近寄った。私は慌てて体を横にずらす。
「ほんとはさ、さっさと全滅させて帰ろうと思ってたんだ。ボク、王国の騎士なんて嫌いだからさ」
細めた銀の目がゾッとするほど冷めているのを見て鳥肌がたった。
こいつは、騎士を憎んでいる。多分、そう言っても過言じゃない。
冷たい月光のような銀。男を形成している色はそんな色だった。髪も、目も。まるで触れれば切れるようだ。
ごくりと息を呑む。
とりあえず馬車から距離を取ろうと踏み出して、足を掴まれた。足自体の拘束はすぐに緩んだものの、私は足をもつれさせてうつ伏せに転ぶ。
「あだっ、な、何っ!?」
見れば死人が足を掴んだようだった。
「ほら、こいつらが動かなくなる。君がやってるんでしょ? いいなぁ…」
ハッと気付いたときには男が私の肩を掴んで仰向けに転がし肩に膝をのせ、腕を頭の上で拘束されていた。
「なっ……!」
そのまま男が腰やら足やらを触り出す。
ぎゃあああああ! この変態!
「んー、特に変な物も持ってない。ますます驚きだ」
その手が胸の下にいった時、とうとう我慢ならなくなった。
こっ、これは予期せぬ貞操の危機! 死守せねば! 私のささやかな胸を男と勘違いされた状態で触らせるなど言語道断というか女だと相手がわかってるとしても触らせるか馬鹿野郎!
「触んな変態! はーなーせー!」
「え」
寝かされている状態から足を振り上げ男の首に絡ませ一気に引き倒す。
「うわっ」
拘束が外れたところで腕ひしぎをかましてやった。
本気でやると筋がおかしくなるけど、変態には容赦せぬぞおおおおお!
「いたたたたた! ちょっと!」
「ざまあみろ! 勝手に人の体触りやがって気色悪い!」
解放して距離を取る。今度はすぐに距離がとれた。
「腕痛ぁ……でも、ふふ。君、やっぱり面白い」
まだ往生際悪く来るわけ!?
構えると、周りの死人達が一斉に私のほうを向いた。
そのホラーチックな光景にびくりと体が跳ねた。
男が指をならす。死人がまたまた一斉に走ってきた。
「だから、ボク、君が欲しくなっちゃった。流石に大勢に乗っかられたら、こいつらの動きを封じ込められるといっても、重くて退かせられないでしょ?」
ニッコリ男が笑う。
押し潰そうってーの!?
「こっ、この野郎ーーーー!」
あっという間に囲まれて、もうダメだと目を瞑り頭を抱えて踞る。
思っていたような衝撃は来なかった。むしろ、強い風に吹かれて尻餅をつく。
「ハルキっ! 来いっ!」
目を開けるとバラバラになった死人達の間でノックスがこっちに手を伸ばしていた。足をもつれさせながらその手に向かって走ると、後ろから追い風に吹かれてあっという間にノックスに突っ込んだ。
「うぶ!」
「って! ……おい、ハルキ……、少しは自力で止まろうとしろよな」
ノックスの胸に抱き止められた状態で一緒に地面に倒れ込んだらしく、肩に両腕が回されていた。
ぎゃあああああ! これはあれで、あれだ!
顔が熱くなる。
「ごっごめん!」
「わかったんなら早く、───っ、風刃!」
ノックスが焦ったように目を剥き、私の頭を抱き込んだ。途端に体をいろんな方向から横殴りにされる。私を抱え込んでいるノックスは相当風に吹かれているだろう。
「───お見事。君、あんまり魔力多い方じゃないだろうに、小手先での魔法の使い方が上手いんだね。さっきそこの黒髪の子を引き寄せたのも“風”を利用してなんでしょ? ……でも、大きい魔法は、得意じゃないみたい」
銀の男の声にノックスの腕から顔を上げる。
「ノックス!」
「───……でけぇ声出すな、バカ。ちょっとばかり、魔力、使いすぎただけだ」
顔を青白くさせてノックスが荒い息を繰り返している。そして体を無理無理動かして私を背に庇った。
いやぁああああああ! ノックス君かっこよすぎるよ! そんな男気発揮しなくていいから大人しくしててーーー!
「悪ぃけど、こいつを連れていかせるわけにはいかねえんだ」
息も絶え絶えに言うノックスに銀の男が片眉を跳ねさせる。
「へえ? それぐらい、貴重な戦力ってことかな?」
余計な気回しするんじゃない、銀野郎! 伝令役だけど新兵も新兵なのよ!
「それなら、尚更、君を連れていかなくちゃ。ね?」
男が指を鳴らした。
私は咄嗟にノックスを抱き締めた。
私の能力なら十分守れる。無意識に守れるのは私だけだけど、これだけ近ければ守れるはず。
しかし、いつもの温かい魔力は感じなかった。なぜなら、男が魔法を発動できなかったからだ。
「───爆」
ドンと地面が揺れた。
地面の割れ目から炎が吹き出て辺り一体の死人をすべて焼き尽くす。
自分に振り下ろされた白刃を避け、銀の男が驚いたように馬車の上に飛び乗った。
「……アルベルト…」
「二人共無事か? すまない、御者を助けるのに手間取った」
颯爽と私達の前に立つアルベルトが手を一振りする。一瞬で火が消えた。
「賊めが、一体僕達に何の用だ? 狙いは護送対象だと思っていたが、見ているに彼を連れていこうとしているようだ」
アルベルトはわざと私の名前を言うのを避けた。個人を特定されないようにしてくれたのだろう。
アルベルトの白金の髪が風に靡かれて揺れる。それが、彼の怒りを表しているように見えた。怖いほど眉間をしかめているアルベルトが一歩馬車に近付く。
銀の男が馬車の上から余裕を取り戻したように笑った。
「だって、欲しくなっちゃったんだ」
「生憎、うちの隊には貴様にやれるような奴はいない。大人しく捕縛されるがいい」
アルベルトが掌に火の玉を浮かべる。
私も立ち上がっていつでも無効化を発動できるように構えた。
その時。
「おい! 二番隊のくそ共! 騒がしいぞ!」
空気の読めないポッテーリ子爵の声が馬車から響いた。




