89話 スパムメール
枕元に置かれていた携帯が、さっきから休むことなく鳴り続けていた。
どうやら次々とメールが届いているらしい。
画面を開いてみると、未読メールの数字を見て目を疑った。
一万件以上。
どうやら俺が意識を取り戻したことを、どこからか聞きつけたらしい。今も数秒おきに新しいメールが届き、未読の数字が増え続けている。
内容のほとんどは、
『目を覚ましたって本当?』
『ずっと心配してたよ』
『早く元気になってね』
『学校で待ってるから』
といった、主人公の体調を心配するものだった。
中には、まるで自分のことのように喜び、
『本当に良かった。メールを見たら返事してね』
『元気になったら、また一緒に遊ぼう』
『退院したら会いに行ってもいい?』
と書いている相手もいた。
どうやら前の俺は、かなり多くの人に好かれていたらしい。
しかし、読み進めていくうちに、妙な内容が混じり始めた。
『あの子とは別れたほうがいいよ』
『どうして、あんな子が彼女なの?』
『あなたにはもっとふさわしい人がいるよ』
『あんなデカい女のどこがいいの?』
『性格悪すぎよ』
『あの女、腹黒いわよ』
『裏表が激しいのよ』
『あんな女絶対結婚しちゃだめだよ。腐女子だから』
さっき病室にいた少女――俺の彼女を悪く言うメールだった。
一件や二件ではない。
同じような内容が、何百件も届いていた。
さらに理解できないメールもあった。
『私には彼氏がいるけど、本当に好きなのはあなたです』
『今の彼氏とは別れられないけど、あなたと付き合いたい』
『彼氏は保険みたいなものだから、あなたが選んでくれるならすぐ別れるよ』
『彼女と別れたら教えて。私の一番はずっとあなただから』
思わず携帯を持つ手が止まった。
彼氏がいるのに、俺のことも好き?
しかも、自分の彼氏をキープしたまま、俺からの返事を待っているらしい。
そんなメールを送ってきた相手は、一人ではなかった。少し画面を動かしただけでも、似たような告白が次々と出てくる。
前の俺は、いったいどんな学校生活を送っていたのだろう。
鏡に映った自分が美男子だとは思ったが、いくらなんでも異常すぎる。
そのとき、新しいメールが一件届いた。
『目を覚ましたんだね。今度こそ、私を選んでくれるよね?大好きよ。私の彼氏にはまだ内緒にしてあるから』
背中に冷たいものが走った。
美男子に生まれ変わったと分かったときから感じていた嫌な予感が、ますます強くなっていた。




