86話 楽園(4)
その後も、主人公は塀の中を密かに調べ続けた。
監視カメラの位置や警備員の巡回時間、立ち入り禁止区域へ通じる道まで、怪しまれない範囲で確認した。しかし、脱出につながる手掛かりは何一つ見つからなかった。
そんなある日、主人公は衝撃的な光景を目にした。
五十歳くらいの男女が、二人で塀をよじ登っていた。
どうやら夫婦らしく、周囲に人がいない隙を狙って脱出しようとしているようだった。
二人は必死に塀を登り、ついに頂上までたどり着いた。
そして、反対側へ降りようとした、その瞬間だった。
突然、二人の首に付けられていた金属製の首輪が作動した。
「ぐっ……!」
「う……っ!」
二人は苦しそうに首元を押さえ、その場に倒れ込んだ。
首輪が強く締まり、呼吸ができなくなったのだ。
やがて二人は動かなくなった。
その直後、施設内が騒ぎになった。
警備員たちが駆けつけ、二人の遺体を回収すると、何事もなかったかのように運び去っていった。
その出来事は、施設にいる人々の間ですぐに広まった。
それ以来、塀を越えて脱出しようとする者はいなくなった。
たとえ塀を越えられたとしても、首には金属製の首輪がある。
勝手に敷地の外へ出れば、位置情報を感知され、首輪を作動させられる。
逃げることなど、最初から不可能だったのだ。
結局、主人公にもどうすることもできなかった。
やがて主人公は調査することさえ諦め、夫と二人で穏やかな毎日を過ごすようになった。
豪華な食事を食べ、映画を見て、プールのそばで夫と話をする。
ここがどのような場所なのか。
自分たちがこの先どうなるのか。
もう、考えないようにした。
そして――神の世界へ来てから、一年が過ぎた。
ある朝。
部屋の扉をノックする音が響いた。
コンコン。
夫が扉を開けると、そこには笑顔を浮かべた二人の魔物が立っていた。
「お迎えに参りました」
その言葉を聞いた瞬間、主人公の身体が凍りついた。
何のための迎えなのか。
聞かなくても分かってしまった。
この世界では、ほとんどの人がここへ来てから一年ほどで姿を消す。
とうとう――
自分たちの順番が来たのだった。




