83話 楽園(1)
神の世界に着いた。
二つの大きな門をくぐると、主人公と夫は最初に金属製の首輪をつけられた。
「この場所で暮らす者には、全員つけてもらいます」
係員は淡々と言った。
首輪は首の後ろで固定され、自分では外せない仕組みになっていた。
中へ入った主人公は、思わず足を止めた。
そこには、前世で自分が倒したはずの魔物たちが大勢いた。
町を破壊した魔物。
仲間を傷つけた魔物。
命を懸けて戦い、確かに倒したはずの魔物まで、何事もなかったかのように歩いている。
しかし、住民たちは魔物を恐れていなかった。
道を歩く魔物に頭を下げ、両手を合わせて祈っている。
「神様、おはようございます」
「今日も私たちをお守りください」
魔物たちは、この場所では神としてあがめられていた。
魔物が手を上げるだけで、住民たちは涙を流して喜んだ。
魔物に名前を呼ばれた者は、幸福そうな顔を浮かべ、その場にひざまずく。
主人公には理解できなかった。
前世では、人間を襲う敵だった。
それがこの世界では、人々を守り、世話をする神様になっている。
主人公たちに与えられた部屋は、まるで高級リゾートホテルの一室だった。
広いベッドに清潔な浴室。しかも、専用の露天風呂までついている。
部屋にはタブレットが置かれており、好きな漫画や小説を自由に読むことができた。
大画面テレビも各部屋に完備されていて、映画や動画、アニメなども見放題だった。
掃除も洗濯もする必要はない。
すべて魔物たちがやってくれる。
食事は基本的に食堂へ行って食べることになっていた。ただし、希望すればルームサービスを利用することもできた。
用意してもらえるのは、食べ物だけではない。
服やゲーム、遊び道具など、さまざまなものをリクエストすることができた。
もっとも、何でも必ず用意してもらえるわけではないらしい。
敷地内には宿泊施設や食堂やバー・ラウンジのほか、映画館、遊園地、ゲームセンター、ボウリング場、カラオケ、パチンコ、大浴場、麻雀ルーム、小さなプールまであり、住民が退屈しないよう、さまざまな娯楽施設が用意されていた。
働く必要はない。
お金もいらない。
好きな時間に起き、好きなものを食べ、何もせずに暮らしていける。
住民たちは口をそろえて言った。
「神様たちが、私たちに楽園を与えてくださった」
ただし、この場所にはいくつか厳しい決まりがあった。
まず、激しい運動は禁止されていた。
全力で走ることも、長時間泳ぎ続けることも許されない。
激しい運動をすると首輪が赤く光り、魔物たちにどこか別の場所へ連れていかれるという。
そして、連れていかれた者が戻ってきたという話は、一度も聞いたことがなかった。
さらに、敷地の外へ出ることも禁止されていた。
高い壁に囲まれた敷地の門へ近づくと、首輪から警告音が鳴る。
それでも境界線を越えようとすれば、首輪が作動し、命を奪われるという。
「どうして外に出てはいけないの?」
主人公が尋ねると、住民は不思議そうな顔をした。
「外へ出る必要なんてないでしょう?」
「ここには食べ物も、娯楽も、神様もいるんですよ」
そう言って、住民は笑顔で近くにいた魔物へ頭を下げた。
主人公は首輪に触れながら、目の前の魔物をじっと見つめた。
前世では、倒すべき敵だった存在。
今では人々に奉仕し、望むものを与え、神としてあがめられている。
確かに、ここは楽園だった。
――神に逆らわず、決して外へ出ようとしない者にとってだけの、楽園だった。




