79話 産婦人科医になった
大学を卒業した主人公は、この地方の大きな病院の産婦人科医として働き始めた。
主人公は子育て中ということもあり、多少勤務時間が延びることはあったものの、基本的には一日五時間ほどの勤務でよかった。
子育て中の女性は長時間働かなくてもいいように配慮されていた。
夜勤に入ることもごくまれにあったが、国の子育て支援制度を利用すれば、夜中でも子どもを格安で預けることができた。
仕事と子育てを両立しやすい、恵まれた環境だった。
しかし、産婦人科で働いているうちに、主人公はいくつもの疑問を抱くようになった。
この世界では、出産への立ち会いが全面的に禁止されていた。夫や両親はもちろん、家族であっても分娩室に入ることはできない。
さらに、出産する本人にも、生まれる瞬間を見せない決まりになっていた。腰から下は大きな布や仕切りで完全に隠され、赤ん坊が取り上げられても、すぐに母親の胸へ抱かせることはなかった。
赤ん坊は別室へ運ばれ、身体に障害がないか、将来の知能に問題がないか、遺伝子検査で問題がないか、さまざまな検査を受ける。
そして、検査で問題があると判断された子どもは、母親のもとへ戻されなかった。
そのまま職員によって、病院の奥にある別の場所へ移送される。
家族には、こう説明することになっていた。
「残念ですが、赤ちゃんは亡くなりました」
それが本当ではないことを、主人公は知っていた。
けれど、移送された子どもがその後どこへ連れていかれるのかは、産婦人科医である主人公にも知らされていなかった。
このことを疑問に思ってはいけない。
調べようとしてもいけない。
病院では、それが暗黙の決まりになっていた。




