77話 両親が神の世界へ旅立った。
地下室を出たあと、主人公たちは車で家へ戻った。
帰り道、誰もほとんど話さなかった。
車の中にも盗聴器があるかもしれない。
そう考えると、地下室で聞いた話について口にすることはできなかった。
数か月たち、お父さんとお母さんに呼ばれた。
お父さんとお母さんの携帯が青く光っていた
青い光は、国から特別な通知が届いた合図だった。
お父さんが携帯を手に取り、画面を見せてくれた。
そこには、短い文章が表示されていた。
――お迎えの準備が整いました。
――明日までに、指定の神社へお越しください。空白地帯付近にある神社だった。
――持ち物は必要ありません。
「お迎えが来たみたいだ」
お父さんは、できるだけ明るい声で言った。
けれど、その声はわずかに震えていた。
お母さんは口元を押さえた。
お兄さんは拳を強く握り、弟は意味が分からないようにお父さんの顔を見上げていた。
本当は、行かないでほしかった。
逃げようと言いたかった。
神のいる世界など存在しないかもしれないと、叫びたかった。
しかし、家の中には盗聴器が仕掛けられている。
少しでも不審な発言をすれば、AIに危険人物と判断されるかもしれない。
お父さんだけでなく、家族全員が処分される可能性もあった。
だから、誰も本当のことを口にできなかった。
「よかったじゃない。私たち神様のいる世界に行けるのね」
お母さんは笑顔を作ろうとした。
けれど、涙が次々と頬を流れていた。
「ああ。向こうでゆっくり暮らそうよ」
お父さんも、監視されていることを意識して答えた。
お兄さんは何も言わず、お父さん・お母さんに抱きついた。
弟も続いて、泣きながらお父さんの腰にしがみついた。
主人公も我慢できず、お父さんに抱きついた。
「向こうでも元気でね」
口から出せたのは、それだけだった。
お父さんは私たちの頭を順番に撫でた。
「みんな、仲良く暮らすんだぞ」
それはただの別れの言葉ではなかった。
地下室の本を守れ。
歴史を後世へ残せ。
そう言っているのだと分かった。
やがて、次の日の朝、家の前に自動運転車が止まった。
神社まで迎えに来た車だった。
扉が静かに開く。
「それじゃあ、行ってくる」
お父さんとお母さんは荷物を何も持たず、車へ向かった。
主人公たちも笑顔を作り、声をそろえた。
「行ってらっしゃい」
お父さんは最後に一度だけ振り返った。
その目には涙が浮かんでいた。
それでも何も言わず、静かに車へ乗り込んだ。
扉が閉まり、車が動き出す。
主人公たちは、車が見えなくなるまで手を振り続けた。
止めることはできなかった。
逃がすこともできなかった。
監視されている主人公たちにできたのは、お父さんが神のいる世界へ旅立つことを喜ぶ家族を演じながら、送り出すことだけだった。




