71話 謎の研修
産婦人科の研修をうけながら、子育てをする生活が始まった。
最初の研修の日、主人公は診察室に置かれた器具を見て驚いた。
小さなT字型の器具だった。
研修では、タブレットに表示される映像を確認しながら、それを子宮の中へ入れたり、取り出したりする練習を行っていた。
「これは、生理痛を軽くしたり、子宮の健康を守ったりするための器具です」
指導医は、ごく当たり前のことのように説明した。
周囲の研修生たちも疑問に思っていないらしく、真剣な表情でタブレットを見ながら手順を覚えていた。
だが、主人公だけは違った。
前世の記憶が残っていたからだ。
――これって、避妊に使われる器具じゃないの?
名前までは思い出せなかったが、T字型の器具を子宮に入れる目的が、説明された内容だけではないことを知っていた。
しかし、それを口にすることはできなかった。
この世界では、制度や医療に疑問を持った人が、突然姿を消す事件が起きている。
しかも、行方不明になった人について尋ねても、誰も詳しく話そうとはしなかった。
主人公は余計なことを考えないように、目の前のタブレットへ視線を戻した。
「次は、あなたがやってみてください」
指導医に声を掛けられ、主人公は小さくうなずいた。
震えそうになる手を必死に抑えながら、教えられたとおりに器具を持つ。
疑問を持ってはいけない。
知っていることを、誰にも悟られてはいけない。
そう自分に言い聞かせながら、主人公は何も知らない研修医のふりをして、黙々と研修を続けた。




