69話 大学での実習授業
大学病院で、実習を兼ねた研修授業が行われた。
主人公がこれほど大きな病院を訪れるのは、この世界では初めてだった。
しかし、病院の中を見学しているうちに、ある不思議なことに気づいた。
前世の大学病院には大勢の入院患者がおり、病棟だけでも広大な面積が必要だった。ところが、この病院は診察室や検査室ばかりで、入院用のベッドが驚くほど少なかった。
この世界では通院治療が中心で、手術を受けた患者でさえ、数日で退院することが多いらしい。
それだけではない。
広い院内を歩いても、車いすを利用している人や、目に見える障害のある人をまったく見かけなかった。杖をついた高齢者や、長期間の介助が必要そうな患者の姿もない。
病院の職員や学生たちは、それを不思議に思っていないようだった。
「病気は早期に発見し、重症化する前に治療する。それが、この国の医療の基本です」
担当医は当然のように説明した。
確かに、国民には定期的な健康診断が義務づけられている。病気を早く見つけられるのなら、入院患者が少ないことにも納得できる。
それでも主人公は、胸の奥に小さな違和感を覚えていた。
どれほど医療が発達していても、事故に遭う人や、生まれつき障害のある人まで、完全にいなくなるものなのだろうか。
主人公は周囲に気づかれないよう、静かに病院の廊下を見回した。




