68話 妊娠
健康診断を受けてから数か月後、主人公は妊娠した。
あの検査を受けたことで、身体の状態が整ったのだろうか。
詳しいことは分からなかったが、周囲を見ても、健康診断を受けてからしばらくして妊娠する女性は珍しくなかった。
むしろ、この国では、それがごく普通のこととして受け止められているようだった。
やがて主人公は、無事に一人目の子どもを出産した。
そして、それほど間を空けることなく、二人目も授かった。
二人の子どもを育てながら学校へ通う生活は、当然ながら大変だった。
しかし、この国では、子どもを産み育てる家庭への支援が非常に手厚かった。
妊娠中の健診には国から補助が出ており、出産費用は無料。
子どもが生まれたあとも、病院でかかる医療費の自己負担は一割だけだった。
定期健診や予防接種にも公的な支援があり、家庭の負担はかなり軽く抑えられていた。
さらに、保育園や幼稚園も十分な数が整備されており、希望すればほとんどいつでも利用できた。
利用料金の大部分も国が負担してくれるため、家庭が支払う金額はわずかだった。
特に主人公のように学校へ通っている親にとっては、非常に利用しやすい制度になっていた。
急に授業や実習、研修が入った日でも、端末から申し込めば、その日のうちに子どもを預けることができる。
「明日、急に実習が入った……」
そんなときでも、預け先を探して慌てる必要はなかった。
通常の保育時間を過ぎても、追加料金を支払えば夜間保育を利用できる。
施設によっては深夜まで預かってくれるところもあり、医療実習などで帰宅が遅くなる日には何度も助けられた。
この国では、
「子どもを産んだから、仕事や勉強を諦めなければならない」
という考え方そのものが、ほとんどなかった。
子どもを育てながら学校へ通ったり、仕事を続けたりすることを前提として、社会の制度が作られていたのだ。
もちろん、だからといって家庭での負担がなくなるわけではない。
彼も仕事から帰ると、積極的に家事や育児をしてくれた。
夕食を作り、子どもたちに食べさせ、お風呂に入れ、寝かしつけまでしてくれることもあった。
「勉強してきていいよ。こっちは僕に任せて」
「でも、仕事から帰ってきたばかりでしょ?」
「大丈夫。試験、近いんでしょ?」
その言葉に、主人公は何度も助けられた。
主人公は二人の子どもを育てながら学校へ通い、医者になるための勉強を続けた。
昼間は授業。
放課後は実習。
家に帰れば育児。
そして、子どもたちが眠ったあと、ようやく自分の勉強時間が始まる。
睡眠時間が足りない日も珍しくなかった。
それでも、国の支援と彼の協力があったからこそ、主人公は夢を諦めずに進み続けることができた。
ところが――。
二人目の子どもが生まれてからしばらく経っても、なかなか次の子どもを授からなかった。
この国では手厚い子育て支援のおかげで、子どもが増えても、家庭の経済的負担が急激に大きくなることはない。
そのため、二人から四人の子どもを持つ家庭が多かった。
主人公の周囲でも、三人、四人と子どもを育てている家庭は珍しくない。
だが、主人公はあるとき、ふと疑問を抱いた。
――五人以上の子どもを持つ家庭を、ほとんど見たことがない。
経済的な理由とは思えなかった。
医療費の自己負担は一割に抑えられ、保育施設にも十分な余裕がある。
子育てに対する国からの支援も手厚い。
三人や四人の子どもを育てている家庭なら、いくらでもいる。
それなのに――。
なぜか、五人以上の子どもを持つ家庭だけは、ほとんど存在していなかった。




