67話 合同結婚式
ある日、主人公の携帯に一通の案内が届いた。
画面を開くと、一番上に大きな文字でこう書かれていた。
『十八歳合同結婚式のご案内』
この世界では、十八歳になると、同じ年に成人を迎える男女が集まり、合同で結婚式を行うことになっていた。
そもそも、この世界では、一部の例外を除き、十八歳で結婚することが国の制度として定められている。
さらに、中学校を卒業するまでに恋人ができなければ、神の世界へ行くことになる。
そのため、十八歳になっても恋人がいない者など、ほとんど存在しなかった。
ただし、結婚相手の出身校や住んでいる自治体が違えば、参加する合同結婚式も別々になる。
そのため、自分の合同結婚式だけでなく、相手の式にも出席するカップルは珍しくないらしい。
参加者の半分以上は、中学校時代の同級生同士でカップルになっているという。
高校進学などをきっかけに離ればなれになり、この日、久しぶりに顔を合わせる者も多いようだった。
すでに恋人同士となっている二人は、この式で夫婦としての誓いを立てる。
そして式を終えたあと、役場で婚姻の手続きを行い、それが受理されることで正式な夫婦となるのだ。
案内には、式の日付や会場だけでなく、当日に着る衣装や必要な持ち物、式典の流れまで細かく書かれていた。
主人公が画面を読み進めていると、ふと気になる一文が目に入った。
『結婚式を終えた夫婦には、神の祝福が与えられます』
「神の祝福……」
この世界では、合同結婚式を終えた夫婦には「神の祝福」が与えられ、やがて自然と子供を授かるようになると信じられていた。
それは、単なる昔話や迷信として扱われているわけではない。
両親も、学校の先生も、テレビに出演している専門家でさえ、それを疑うことなく当たり前の事実として話している。
だが、前世の知識を持つ主人公には、どうしても理解できなかった。
結婚式を挙げただけで、身体の仕組みが変わるはずがない。
「神の祝福って……本当に、ただの言い伝えなのかな」
主人公が小さくつぶやいた、その瞬間だった。
携帯の画面が青く光った。
『不適切な発言を検知しました』
「……っ!」
主人公は慌てて口を閉じた。
しばらく画面を見つめたあと、何も考えなかったことにするように、そっと案内を閉じた。
――そして、合同結婚式当日。
会場へ到着すると、そこには大勢の若者たちが集まっていた。
その中には、懐かしい顔もたくさんあった。
「久しぶり!」
「うわ、全然変わってないじゃん!」
「何年ぶりだろ!」
主人公も中学校時代の同級生たちと再会し、昔の出来事を懐かしみながら笑い合った。
当時の担任の先生も出席していた。
「みんな、本当に大人になったわね」
先生は目に涙を浮かべながら、かつての教え子たち一人ひとりに声をかけている。
さらに、この特別な日を祝うため、子ども家庭庁のお姉さんたちも会場を訪れていた。
普段とは少し違う式典用のきれいな制服に身を包み、これから結婚する若者たちを笑顔で祝福している。
会場の一角には、記念撮影用のスペースも用意されていた。
友達同士で写真を撮る者。
久しぶりに再会した先生を囲んで写真を撮る者。
昔の思い出を語り合う者。
会場のあちこちから、楽しそうな笑い声が聞こえてくる。
そんな光景を眺めているうちに、主人公はふと前世のことを思い出した。
「……これ、前世の成人式とそっくりだな」
前世でも、成人式の日には、進学や就職で地元を離れていた同級生たちが久しぶりに集まっていた。
昔の友人や恩師との再会を喜び、何年も会っていなかった同級生と近況を語り合い、会場のあちこちで記念写真を撮る。
華やかな衣装を身につけた若者たちが一堂に集まり、人生の節目を祝う。
その雰囲気は、主人公の記憶にある成人式と驚くほどよく似ていた。
ただし、一つだけ大きな違いがある。
ここは、成人したことを祝うだけの場所ではない。
参加者の隣には、それぞれ結婚相手がいる。
前世なら、
「久しぶり。今、何してるの?」
そんな会話から始まっていたところが、この世界では、
「この人が私の結婚相手」
「こっちが俺の相手」
と、お互いの結婚相手を紹介し合う場にもなっている。
「成人式と結婚式を一緒にやってるようなものか……」
主人公はそう考えながら、改めて会場を見渡した。
懐かしい仲間との再会を喜び、恩師と写真を撮り、人生の節目をみんなで祝う。
そこまでは、前世の成人式とほとんど同じだった。
しかし、この世界では、十八歳になることと結婚することが、ほとんど同じ意味を持っている。
それだけは、前世とは決定的に違っていた。
主人公は楽しそうに笑う同級生たちを眺めながら、少しだけ不思議な気持ちになった。
誰も疑問を口にしない。
十八歳で結婚することについても。
そして――「神の祝福」についても。
誰もが、それを当然のこととして受け入れている。
それが、この世界ではあまりにも当たり前のことだった。
やがて、式典は滞りなく終了した。
懐かしい友人たちとの再会を惜しみながら、主人公たちは会場をあとにする。
だが、これですべてが終わったわけではない。
最後に、正式な手続きが残っていた。
主人公は結婚相手と一緒に役場へ向かった。
役場にも同じようなカップルが大勢訪れており、窓口には式を終えたばかりの若者たちが列を作っていた。
しばらく待ったあと、二人の順番がやってくる。
必要な情報を確認し、婚姻の申請を行う。
職員は慣れた様子で端末を操作していった。
やがて処理を終えると、画面を確認し、二人に向かって笑顔を見せた。
「はい。手続きが完了しました。本日から正式にご夫婦となります。おめでとうございます」
「……ありがとうございます」
主人公はそう答えてから、隣にいる相手を見た。
ついさっきまで「恋人」だった相手。
だが、今この瞬間からは違う。
正式な――夫婦だ。
不思議な感覚だった。
十八歳になり、昔の同級生たちと再会し、みんなに祝福されながら結婚式を挙げ、その日のうちに夫婦になる。
前世の自分なら、きっと想像すらできなかっただろう。
こうして合同結婚式を終え、婚姻の手続きも無事に受理されたことで、二人は正式な夫婦となった。




