65話 彼の就職
彼との生活は忙しかったが、楽しかった。
いつも彼がそばで支えてくれた。
一緒に過ごしていくうちに、主人公は彼のことを心から好きになっていた。
そして、二年が過ぎ――彼の就職先が決まった。
就職先は、この地方に本社を置く世界最大の自動車会社だった。
学校でも特に人気の高い企業で、筆記試験だけでなく、何度も面接を受けなければならなかったらしい。
「本当に合格したの?」
主人公が尋ねると、彼は照れくさそうに笑った。
「うん。今日、正式に連絡が来た」
彼は放課後も学校に残って勉強し、先生と何度も面接の練習をしていた。
休日にも会社について調べていたので、本当によく頑張ったと思う。
「おめでとう。すごいじゃん」
「ありがとう」
この世界では、十八歳になって成人すると、一部の例外を除いて働くことが義務づけられていた。
大学や大学院、専門学校などへ進学する者は免除されるが、働ける状態でありながら仕事に就かず、そのまま暮らし続けることは原則として認められていない。
もちろん、行きたい会社がある場合は、自分で採用試験を受けることができる。
人気企業ほど倍率は高く、筆記試験だけでなく、実技試験や複数回の面接が行われることも珍しくなかった。
けれど、卒業までに就職先が決まらなかったからといって、そのまま無職になるわけではない。
国が本人の成績や適性、住んでいる地域などを調べたうえで、勤務先を割り振ってくれるからだ。
仕事内容や勤務時間、給料などについて希望を出すこともでき、ある程度は本人の希望が考慮される。
ただし、人気のある仕事には希望者が集中するため、必ずしも希望どおりになるとは限らない。
そして、卒業が近づいても就職先が決まっていない人の携帯には、ある日突然、国から通知が届く。
『あなたの勤務先が決定しました』
国から勤務先を指定された場合、原則として断ることはできない。
ただし、実際に働いてみて、どうしても仕事が合わなければ、二回まで勤務先の変更を申請することができた。
二回までは比較的自由に変更できるが、それを超えると、一定期間その職場で働かなければ次の転職は認められない。
つまり、本当に自分が行きたい企業で働きたいのであれば、自力で採用試験に合格するしかない。
だからこそ、第一志望の会社に自分の力で就職を決めた彼は、本当にすごかった。
「これで将来も安心ね」
母に報告すると、まるで自分の息子のことのように喜んでいた。
「世界最大の自動車会社なら、お給料もいいでしょうし、住宅も優先して用意してもらえるかもしれないわね」
「まだ結婚もしてないのに、気が早いよ」
主人公が言うと、母は不思議そうな顔をした。
「何を言っているの。就職が決まったら、次に考えるのは子供でしょう?」
――また、この世界の常識が始まった。
隣にいた彼は顔を真っ赤にしていたが、なぜか否定はしなかった。




