61話 みんなに祝福される
友達二人がすぐに私のところへ駆け寄ってきた。
「ねえ、本当にびっくりしたんだからね」
「何が?」
主人公が涙を拭きながら尋ねると、二人は顔を見合わせた。
「招待の連絡が来たとき」
「最初、何かの間違いだと思ったもん」
「招待って……誰から?」
「あなたの彼氏と、ご両親から」
主人公は驚いて彼を見る。
彼は気まずそうに視線をそらし、小さく答えた。
「二人にも来てもらったほうが、安心すると思って……」
どうやらこの記念の日には、両親と彼氏が出席する人を決め、仲のいい友達を二人まで招待できる決まりになっているらしい。
両親と彼が相談し、主人公には内緒で二人へ連絡してくれていたのだ。
「そうだったんだ……」
少し感動しかけた、そのときだった。
友達の一人が、真顔で言った。
「でも私たち、連絡を受けたとき本当に驚いたよ」
「どうして?」
「まさか、あなたに彼氏ができるなんて思ってなかったから」
「そこから驚いたの!?」
主人公の声が部屋中に響いた。
もう一人の友達もうなずく。
「しかも、こんな立派な記念日を迎えるところまで進んでいたなんて」
「失礼すぎない!?」
「だって学校では、ずっと彼氏ができなさそうな顔をしてたし」
「どんな顔よ!」
友達二人は声を上げて笑い、彼もこらえきれずに顔をそむけた。
「今、笑ったでしょ!」
「ごめん。でも、二人の言い方が……」
「彼まで敵になった!」
部屋の中は、再び大きな笑い声に包まれた。
やがて、きれいな女性が私たちに声をかけた。
「それでは、皆さまがお待ちですので、次のお部屋へ参りましょう」
「まだ誰かいるんですか?」
「今日はこちらにいらっしゃる皆さまが、お二人を祝福してくださいます」
大きな部屋を出て、彼と並んで廊下を歩き始める。
白いドレスの裾が床を静かに滑った。
廊下ですれ違ったホテルの従業員が、主人公たちを見ると足を止めた。
「おめでとうございます」
深く頭を下げられ、私は慌てて頭を下げ返す。
「ありがとうございます……」
エレベーターの前にいた年配の夫婦も、主人公の白いドレス姿を見ると笑顔になった。
「まあ、すてきね。おめでとうございます」
「お二人とも、これからも仲良くね」
「ありがとうございます」
今度は彼と一緒に答えた。
エレベーターに乗ると、先に乗っていた家族連れからも拍手された。
「お姉ちゃん、お姫さまみたい!」
小さな女の子が目を輝かせる。
「ありがとう」
主人公が照れながら答えると、その子のお母さんも優しく微笑んだ。
「本当におめでとうございます」
扉が開いて廊下へ出れば、そこにいた人たちからも祝福される。
「おめでとうございます」
「とてもお似合いですよ」
「末永くお幸せに」
歩いている間、出会う人すべてから「おめでとう」と声をかけられた。
最初は恥ずかしくて、何度も彼の後ろに隠れそうになった。
けれど、誰もが本当にうれしそうな顔をしている。
知らない人まで、自分たちのことのように祝福してくれていた。
「すごいね……」
主人公がつぶやくと、彼もうなずいた。
「うん。僕も、ここまで祝ってもらえるとは思わなかった」
その後ろから、友達の声が飛んできた。
「今のうちにいっぱい祝ってもらいなよ!」
「人生でこんなに注目される日は、もう来ないかもしれないし!」
「余計なこと言わないで!」
振り返って言い返すと、また周囲から笑い声が起きた。
お母さんは、記念の服が入った袋を大切そうに抱えている。
彼の両親も、主人公たちを見ながら穏やかに笑っていた。
少し前まで、私は何が起こるのか分からず、不安で泣いていた。
けれど今は違った。
隣には彼がいる。
後ろには両親と、大切な友達がいる。
そして、出会う人たちが次々と祝福してくれる。
主人公は白いドレスの裾を持ち上げ、ゆっくりと歩きながら彼に言った。
「なんだか、夢の中にいるみたい」
彼は主人公の歩幅に合わせながら答えた。
「夢じゃないよ」
そして、少し照れくさそうに笑った。
「今日のことは、全部本当だから」
その言葉を聞いた瞬間、また涙が出そうになった。
けれど今度は泣かずに、笑顔で前を向いた。
廊下の先でも、私たちに気づいた人たちが拍手をしていた。
「おめでとうございます!」
主人公と彼は顔を見合わせる。
そして二人そろって、少し恥ずかしそうに頭を下げた。
「ありがとうございます」
その日、主人公は人生でいちばん多くの人から祝福された。




