60話 まるで結婚式?
それから、きれいな女性に手を引かれ、主人公は部屋を出た。
白いドレスの長い裾を踏まないよう、ゆっくりと廊下を歩く。何が待っているのか聞いても、女性は笑うだけだった。
「もう少しですよ」
廊下の突き当たりにある大きな扉の前で、女性が立ち止まった。
「準備はいいですか?」
「準備って……何のですか?」
答える代わりに、女性は扉を開けた。
その瞬間、いくつもの拍手が響いた。
「おめでとうございます!」
驚いて顔を上げる。
部屋の中には、主人公のお父さんとお母さん、彼の両親、そして彼氏が立っていた。さらに、主人公の仲のいい友達も二人来ていた。
みんな、笑顔でこちらを見ている。
「えっ……どうして、みんなが?」
主人公はその場で固まった。
彼氏は少し緊張した様子で立っていたが、主人公と目が合うと、安心したように笑った。
「おめでとう」
その言葉を聞いた途端、また涙があふれてきた。
「何で……誰も教えてくれなかったの?」
友達の一人が笑いながら答えた。
「だって、サプライズだもん」
「途中で言いそうになって大変だったんだから」
もう一人の友達も笑っている。
主人公は恥ずかしさと驚きで、白いドレスの裾をぎゅっと握った。
お母さんが近づき、主人公の肩に手を置く。
「よく頑張ったわね」
彼のお母さんも優しく笑った。
「本当におめでとう。とてもきれいよ」
「ありがとうございます……」
涙でうまく声が出なかった。
友達たちは、主人公の白いドレスを見ながら目を輝かせていた。
「すごい。本当にウエディングドレスみたい」
「写真撮ってもいい?」
「ちょっと待って! まだ泣いてるから!」
主人公が慌てて顔を隠すと、部屋の中に笑い声が広がった。
きれいな女性は、先ほど畳んだ服が入った袋をお母さんに手渡した。
「こちらが、本日の記念のお品です」
お母さんは両手で大切そうに受け取った。
「ありがとうございます。きれいに残しておきます」
その会話を聞いて、主人公はますます恥ずかしくなった。
「本当に飾るつもりなの?」
「もちろん」
お母さんは即答した。
「マネキンも注文してあるわよ」
「もう注文したの!?」
主人公の叫びに、友達二人が吹き出した。
「今度、見に行っていい?」
「絶対に来ないで!」
「写真だけでも送って」
「送らないから!」
みんなが楽しそうに笑う中、彼氏が主人公の隣まで歩いてきた。
「似合ってるよ」
小さな声だった。
主人公は目をそらしながら答えた。
「ありがとう……」
彼も照れくさそうに笑った。
その様子を見ていた両親たちは、満足そうにうなずいている。
やがて、全員で記念写真を撮ることになった。
中央に主人公と彼が立ち、その周りを両親と友達が囲んだ。
「それでは撮ります。皆さん、笑ってください」
きれいな女性がカメラを構える。
けれど主人公は、泣いたばかりでうまく笑えなかった。
すると隣で彼が、そっと言った。
「今日のこと、ずっと忘れないから」
その一言に、主人公はようやく自然に笑うことができた。
「はい、撮ります」
シャッターの音が響いた。
白いドレス姿の主人公と、少し緊張した彼。
うれしそうな両親と、面白がっている友達。
その写真は、袋に入れられた服とともに、主人公たちにとって大切な記念品になった。
写真撮影が終わると、子ども家庭庁のきれいな女性が主人公たちの前に立った。
「改めまして、本日はおめでとうございます」
今日の司会だけでなく、主人公たちの仲人も務めてくれるらしい。
「これからお二人が一緒に暮らしていく中で、困ったことや不安なことがあれば、いつでも相談してください」
「いつでも……ですか?」
「はい。結婚生活や住居、仕事、子育てなど、どんなことでも大丈夫です」
女性は優しく笑った。
「こども家庭庁は、お二人を一生を通じて支援します」
一生という言葉に、主人公は驚いて彼氏の顔を見た。彼も少し緊張したようにうなずいていた。
「こんなにサポートしてくれるんだ……」
「せっかく結ばれた二人ですから、幸せに暮らしてもらわないと困ります」
女性が冗談っぽく言うと、部屋に笑い声が広がった。
お母さんは感動した様子で何度もうなずいている。
「安心ね。何かあったら、すぐ相談するのよ」
「お母さんが先に相談しそうなんだけど……」
「もちろん。娘夫婦のことだもの」
「本人より先に相談しないで!」
友達二人が、また吹き出した。
主人公たちに子ども家庭庁と子ども家庭庁のおねいさんの連絡先の入ったメールが携帯に届いた。
「これは、お二人専用の相談窓口です。小さな悩みでも遠慮しないでくださいね」
「ありがとうございます」
隣にいた彼氏も頭を下げる。
こうして主人公たちは、両親や友達だけでなく、国からも見守られながら、新しい一歩を踏み出すことになった。
少し恥ずかしくて、まだ実感もなかった。
それでも隣にいる彼の手がそっと主人公の手に触れたとき、不思議と大丈夫だと思えた。




