53話 両親と喧嘩
家に帰ると、主人公はすぐに両親をリビングへ呼んだ。
「今日、彼から聞いたんだけど」
二人の前に座り、国営恋人紹介サービスへ大金を払ったことを問い詰めた。
「そこまでして、お見合いをさせなくてもよかったのに」
その瞬間、父と母の表情が変わった。
「何を言っているの!」
母がテーブルを強くたたいた。
「あなたはもうこの年なのよ。それなのに、今まで彼氏が一人もいなかったじゃない!」
「だからって、大金を払う必要ないでしょ」
「必要があるの!」
今度は父が声を荒らげた。
「あと一年しかないんだぞ」
「あと一年?」
二人は顔を見合わせた。
しまった、というような表情だった。
「あと一年たっても彼氏ができなかったら、あなたは神の世界へ行くことになるの」
母が小さな声で言った。
「神の世界?」
以前にも、どこかで聞いた言葉だった。
「神の世界に行ったら、戻ってこられないの?」
主人公が尋ねると、両親は何も答えなかった。
「ねえ、神の世界って何なの?」
「あなたが心配することじゃないわ」
母は無理に笑顔を作った。
「とても幸せな場所だ。食べ物にも困らないし、働く必要もない」
父も続けたが、その声は震えていた。
「だったら、どうして二人ともそんなに怖い顔をしているの?」
両親は再び黙り込んだ。
「神の世界へ行った人は、誰も戻ってこないの?」
「え・・・何それ・・・」
「もう遅いから、今日は寝なさい」
「質問に答えてよ」
「とにかく寝なさい!」
父の怒鳴り声がリビングに響いた。
それ以上、何を聞いても、二人は答えてくれなかった。
けれど、主人公は確信していた。
神の世界は、両親が言うような幸せな場所ではない。
そして両親は、主人公がそこへ送られることを何よりも恐れているのだ。




