51話 2回目のお見合い
家に帰ると、父と母が玄関まで飛び出してきた。
「おかえり! 待ってたわよ!」
「今度こそ大丈夫だ!」
二人とも、なぜか満面の笑みだった。
嫌な予感がする。
リビングへ連れていかれると、テーブルの上に一台のタブレットが置かれていた。
「今度の人は絶対に気に入るわ!」
母が自信満々に画面を見せてくる。
そこには、写真付きのプロフィールが表示されていた。
年齢は主人公と同じくらい。短めの髪に整った顔立ちで、派手さはないものの、まあ、そこそこイケメンだった。
「どう? かっこいいでしょう?」
「まあ、悪くはないけど」
主人公がそう答えた瞬間、両親は顔を見合わせた。
「今、悪くないって言ったぞ!」
「脈ありよ!」
「まだ写真を見ただけだから!」
前回のお見合いでは、相手とほとんど話が合わなかった。
そのうえ、断りの連絡を入れた途端、相手が号泣してしまい、両親までつられて泣き出すという大惨事になった。
今回は慎重に判断したい。
プロフィールを詳しく読んでみると、趣味は映画鑑賞、読書、料理、それにゲームと書いてあった。
主人公の趣味とかなり近い。
「趣味は合いそうね」
「やっぱり運命の相手よ!」
「気が早い!」
母はすでに式場を検索し始め、父は孫と遊ぶための公園を調べ始めていた。
まだ会ってすらいない。
そして、お見合い当日。
会場は落ち着いた雰囲気のレストランだった。
主人公たちが席に着いてしばらくすると、相手の男性と両親がやってきた。
写真よりも少し緊張しているように見えたが、印象は悪くなかった。
簡単な挨拶を済ませ、全員が席に着く。
ところが、料理が運ばれてくる前から、父と母の空回りが始まった。
「この子は料理もできます!」
母が胸を張る。
「簡単なものだけだよ」
「卵焼きが作れます!」
「それくらい大抵の人は作れるから!」
すると父まで話に加わった。
「健康状態も問題ありません! 先日の健康診断では、ほとんどの項目が正常でした!」
「お見合いで健康診断の結果を発表しないで!」
相手の両親も負けていなかった。
「うちの息子は仕事も真面目で、遅刻もほとんどありません!」
「ほとんど?」
男性が小声で聞き返す。
「去年、一度だけ寝坊したけれど、あれは目覚まし時計の故障だから実質無遅刻です!」
「それ、今説明する必要ある?」
両家の親だけが必死になり、主人公たち本人は置いてけぼりになっていた。
しばらくして、男性が困ったように笑った。
「親たちは少し離れた席で食事してもらいませんか?」
「賛成」
主人公たちの意見が、初めて完全に一致した。
両親たちは不満そうだったが、店員に案内されて少し離れた席へ移動した。
それでも母は、こちらを何度も振り返って親指を立てている。
見なかったことにした。
二人きりになると、男性は深く息を吐いた。
「すみません。うちの両親、かなり張り切っていて」
「こっちも同じだから、お互いさま」
「さっき、お父さんが健康診断の結果まで話したときは驚いた」
「私も初めて聞いた」
二人で笑った。
そこからは、驚くほど自然に話が続いた。
好きな映画のジャンルも似ていた。
読んでいる本も共通していた。
ゲームの話をすると、彼も同じ作品を遊んでいることが分かった。
「そのゲーム、最後のボスが強すぎない?」
「分かる。三時間かけても勝てなかった」
「私なんて五時間」
「それは装備の選び方が悪いと思う」
「初対面でそこまで言う?」
「ごめん。でも、今度おすすめの装備を教えるよ」
気づけば、お見合いであることを忘れるほど話し込んでいた。
料理を食べ終えても話題は尽きず、飲み物を追加して、さらに一時間近く話した。
少し離れた席では、両家の両親がこちらを観察していた。
母はハンカチで目元を押さえている。
父も何度もうなずいていた。
相手の両親まで泣きそうになっている。
「親たち、何をしているんだろう」
彼が小声で言った。
「たぶん、もう結婚が決まったと思ってる」
「まだ今日が初対面なのに」
「うちでは写真を見て『悪くない』と言った時点で、ほとんど決定扱いだったよ」
彼は声を出して笑った。
食事が終わり、店の前で別れる時間になった。
両親たちは少し離れた場所に集まり、こちらを見守っている。
いや、見守るというより、聞き耳を立てていた。
彼は少し緊張した表情で私を見た。
「今日は楽しかった。また会ってもらえないかな」
主人公は少しだけ考えた。
けれど、答えはもう決まっていた。
外見がそこそこ好みだったことよりも、一緒に話していて楽しかったことのほうが大きかった。
「うん。私もまた会いたい」
「じゃあ……付き合ってみる?」
「そうしようか」
その瞬間だった。
「やったああああ!」
母の大声が響いた。
続いて父が両手を上げた。
「成功だ!」
相手の両親まで拍手を始めた。
店の前にいた人たちが、一斉にこちらを見る。
「全部聞いてたの?」
「聞いてないわよ!」
母は即答した。
「ただ、あなたたちの口の動きを読んでいただけよ!」
「そっちのほうが怖いよ!」
彼は顔を赤くしながら笑っていた。
こうして、両親たちの猛烈な期待と監視の中、私たちは付き合うことになった。
帰りの車の中で、母は早くも次の予定を立てていた。
「次は二人で水族館がいいわね。それとも遊園地? 夜景の見える展望台もいいわよ!」
「自分たちで決めるから」
「式はいつにする?」
「付き合い始めて一時間もたってないよ!」
父は助手席でタブレットを操作しながら振り返った。
「新居の候補も調べておいたぞ」
「話を聞いて!」
前回とは違い、今回のお見合いはうまくいった。
ただし、これから彼との関係以上に、暴走する両親を止めることのほうが大変になりそうだった。




