49話 修学旅行の宿泊先
宿泊先は、街の中心にある大きなホテルだった。
玄関には大きなシャンデリアが吊るされ、床は顔が映りそうなくらい磨き上げられている。
修学旅行というより、結婚式の団体客が到着したような雰囲気だった。
ロビーに集合すると、先生が部屋割りの表を読み上げた。
「それでは、事前に決めた組み合わせで部屋に入ってください」
その言葉を合図に、生徒たちは一斉に恋人の隣へ移動した。
男子と女子が二人一組になり、嬉しそうにルームキーを受け取っていく。
「夜、何して遊ぶ?」
「せっかくだからルームサービス頼もうよ」
「部屋から夜景見えるかな?」
あちこちから楽しそうな会話が聞こえてきた。
そして数分後。
ロビーの中央には、主人公だけがぽつんと残されていた。
「……修学旅行の部屋割りって、普通は同性同士じゃないの?」
思わずつぶやいたが、周囲の誰も疑問に思っていないらしい。
先生は最後に残ったルームキーを手に取ると、主人公の前までやってきた。
「それじゃあ、私たちも行きましょうか」
「……私たち?」
「あなたは私と同じ部屋よ」
「やっぱりそうなるんですか!?」
「ほかに一人で余っている生徒がいないんだから、仕方ないでしょう」
主人公は周囲を見回した。
クラスメートたちは恋人同士で次々とエレベーターへ向かっている。
中には、すでに腕を組んでいるカップルまでいた。
主人公は嫌な予感を覚えながら、先生を見る。
「確認なんですけど……先生は、ただの引率ですよね?」
「違うわよ」
「え?」
「恋人役よ」
先生は当然のように主人公の隣へ並んだ。
「ほら、行くわよ」
「ちょっと待ってください!」
「何?」
「先生には旦那さんがいるんですよね?」
「いるわよ」
「既婚者が生徒の恋人役をやっていいんですか!?」
「旦那には連絡してあるから大丈夫」
「何をどう説明したら大丈夫になるんですか!」
先生は携帯の画面を見せてきた。
そこには、旦那からの返信が表示されていた。
『仕事なら仕方ないね。生徒さんが一人にならないようにしてあげて。旅行、楽しんできて』
主人公はしばらく画面を見つめた。
「……ものすごく信頼されていますね」
「結婚して長いからね」
「こっちは全然安心できないんですけど!」
主人公と先生は、ほかのカップルたちから少し遅れてエレベーターに乗った。
しかも先生は、周囲のカップルをちらりと見てから、主人公の腕を軽くつかんだ。
「ちょっと先生?」
「恋人役なんだから、少しくらいそれらしくしないと」
「形から入らなくていいです!」
「みんな腕くらい組んでいるでしょう?」
「先生と生徒は別でしょう!」
「今日だけは恋人役よ」
「その制度、便利な言葉みたいに使わないでください!」
部屋に入った主人公は、入口で固まった。
部屋の中央に置かれていたのは――大きなベッドが一つだけ。
「……先生」
「何?」
「ベッド、一つしかないんですけど」
「そうね」
「そうね、じゃなくて!」
主人公はベッドを指さした。
「これ、先生と同じベッドで寝るんですか!?」
「ほかに寝る場所がないもの」
「急に現実的な理由になった!」
主人公は部屋を見回した。
しかし、ソファはない。
あるのは大きなベッドとテーブル、それに窓際の椅子が二脚だけだった。
「じゃあ私が床で寝ます」
「駄目よ。風邪をひいたら、引率している私の責任になるでしょう」
「じゃあどうするんですか!」
先生は大きなベッドをぽんぽんと叩いた。
「これだけベッドが広いんだから、一緒に寝ればいいでしょ。隅と隅で寝れば、何も問題ないはずよ」
「解決方法が雑すぎる!」
しかも部屋は、どう見てもカップル向けだった。
大きな窓からは街の夜景が一望でき、テーブルには二人分の飲み物まで用意されている。
「すごい部屋……」
主人公が窓際へ向かうと、隣の部屋から楽しそうな笑い声が聞こえてきた。
さらに反対側からも、カップルの会話が聞こえてくる。
ホテルの廊下全体が、修学旅行というより恋人たちの旅行のようになっていた。
主人公はベッドの端に腰掛け、大きくため息をついた。
「どうして私だけ先生が恋人役なんですか……」
先生は荷物を整理しながら答えた。
「あなたが恋人を作らなかったからでしょう」
「先生まで同じこと言うんですか!」
「安心しなさい。恋人役といっても、私は教師なんだから、そのあたりの線引きはちゃんと守るわよ」
「だったら最初から普通に引率してくださいよ!」
「それだと、あなただけ一人になってしまうでしょう?」
「そもそも、この修学旅行の制度自体がおかしいって言ってるんです!」
先生はベッドへ腰掛けると、楽しそうに笑った。
「まあ、せっかくなんだから楽しみなさい。明日の自由行動も私と一緒よ」
「明日も!?」
「もちろん。観光も全部付き合うわ」
「普通に『教師同行』って言ってください!」
「写真も一緒に撮りましょうね」
「先生、だんだん楽しんでません!?」
「修学旅行なんだから、楽しまないと損でしょう?」
「先生の修学旅行じゃない!」
主人公の叫び声が、ホテルの部屋いっぱいに響いた。
その後、主人公は先生と同じベッドで眠った。
しかし翌朝、目を覚ますとなぜか床の上にいた。
「……なんで私、床で寝てるの?」
ベッドを見ると、先生が真ん中を占領して気持ちよさそうに眠っている。
どうやら先生はかなり寝相が悪く、主人公は眠っている間に少しずつ追いやられ、最後にはベッドから落とされてしまったらしい。
「……いつの間に追い出されたのよ」




