46話 推薦を断った伝説
翌翌朝。
登校すると、昇降口のあたりから、すでに校内が騒がしかった。
「見た!?」
「すごいことになってる!」
「中庭へ行こう!」
主人公も何事かと思い、中庭へ向かった。
そこには、学校中の生徒が集まっていた。
人だかりの中心にいたのは、「この学校で一、二を争う美人」と評判の女子生徒だった。
両手でタブレットを抱え、顔を真っ赤にしている。
画面には――『こども家庭学校・推薦内定』の文字。
そして次の瞬間。
「やったぁぁぁぁぁーーー!!」
校舎中に響き渡るほどの大絶叫が上がった。
「こども家庭学校の推薦、もらいましたぁぁぁ!!」
その瞬間、周囲から一斉に歓声が上がる。
「おめでとう!」
「すごーい!」
「一年に一人しかもらえない推薦だよ!」
彼女は感極まったのか、ぽろぽろと涙を流し始めた。
「うれしい……本当にうれしい……」
友達が慌ててハンカチを差し出す。
「泣くほど!?」
「だって、ずっと憧れだったんだもん!」
先生たちまで笑顔で拍手していた。
「おめでとう!」
すると彼女は涙を拭きながら、興奮気味に続けた。
「しかもね!」
周囲が一斉に静かになる。
「本当は別の人に推薦が行く予定だったんだけど……その人が断ったんだって!」
一瞬、中庭が静まり返った。
「…………え?」
「断った?」
「推薦を?」
そして次の瞬間。
「えぇぇぇぇぇぇ!?」
今度は周囲の生徒たちが一斉に絶叫した。
「そんな人いるの!?」
「うそでしょ!?」
「一年に一人しかもらえないんだよ!?」
「しかも超人気校でしょ!? 入れたら将来は約束されたようなもんじゃん!」
彼女は満面の笑みでうなずく。
「だから私に回ってきたの!」
「私、人生で一番運が良かった!」
友達も大興奮だった。
「奇跡じゃん!」
「宝くじ当てるよりすごくない!?」
「一生分の運、使ったんじゃない?」
彼女も笑顔で拳を握る。
「使ったかも!」
ところが、その一方で――。
周囲では早くも別の話題が広がり始めていた。
「それより……」
「断った人って誰?」
「あの推薦を?」
「本当にそんな人いるの?」
「都市伝説じゃなくて!?」
十分後。
廊下。
「聞いた?」
「推薦を断った人がいるんだって!」
二十分後。
購買。
「誰なんだろう……」
「気になって昼ご飯が喉を通らない」
「いや、焼きそばパン二個食べてるじゃん」
「これは別腹」
「昼ご飯の別腹って何!?」
そして放課後。
職員室でも、その話題で持ち切りだった。
先生Aが苦笑する。
「学校中、その話ばかりですね」
先生Bもうなずいた。
「推薦を辞退するなんて、本当に珍しいそうです」
先生Cが書類を整理しながら言う。
「誰なのかは、本人の希望もあって秘密です」
「余計に気になる!」
こうして、その日の学校の話題はほぼ一つになった。
もちろん、
『こども家庭学校の推薦をもらった美人の女子生徒』
も大いに注目されていた。
しかし、それ以上に生徒たちの興味を引いたのが――。
『一年に一人しかもらえない推薦を断った謎の人物』
だった。
その噂は、まるで新たな学園七不思議でも誕生したかのような勢いで、校内を駆け巡っていった。
主人公は教室の隅で、その騒ぎを静かに眺めていた。
(……まさか、ここまで大騒ぎになるなんて)
すると、隣の友達が真剣な顔で言った。
「私、その人に一回会ってみたい」
別の子もうなずく。
「分かる。どうして断ったのか聞いてみたい」
「私だったら絶対断らないのに」
「顔見てみたいよね」
主人公は何とも言えない表情で目をそらした。
(いや……今ここにいるんだけどね……)
もちろん、そんなことを口に出せるはずもない。
その日一日、学校は「正体不明の推薦辞退者」の噂で持ち切りだった。




