42話 人気すぎてドラマになった
アイドルとして人気が出ていた主人公は、ある日、プロデューサーから事務所の会議室に呼び出された。
「おめでとう。君、次の連続ドラマの主演に決まったから」
「……はい?」
机の上には、分厚い台本が置かれていた。
ドラマのタイトルは――
『運命の人を探しています』
プロデューサーは胸を張った。
「君ほど完璧な女性なら、視聴者もきっと憧れますよ!」
主人公も、最初は笑顔だった。
「ありがとうございます! 素敵な恋愛ドラマにしたいです!」
ところが、撮影初日。
主人公は台本を読みながら首をかしげた。
「監督、質問があります」
「なんだい?」
「どうして私、毎回振られているんですか?」
「完璧な女の子が、変な理由で振られ続けるコメディーだからだよ」
「七話、全部ですか?」
「全部」
「私の役だけ罰ゲームでは!?」
主人公は台本を机に置いた。
「もうタイトル、『運命の人に逃げられています』に変えません?」
第一話 すでに好きな子がいる
最初の相手は、同じクラスの爽やかな男子・悠斗だった。
悠斗はいつも麗奈のことを気にかけており、休み時間になるとよく話しかけてきた。
ある日の放課後。
悠斗は麗奈を校舎裏に呼び出した。
「麗奈さん。ずっと君のことが気になってた」
「えっ……」
麗奈が頬を赤らめた、その瞬間。
悠斗は深々と頭を下げた。
「でも、僕には小学生の頃から好きな子がいるんだ!」
「じゃあ、どうして私を呼び出したの!?」
「この気持ちを整理するために、麗奈さんに聞いてほしくて」
「私は恋愛相談室じゃない!」
第一話、開始十分で失恋。
翌日から、麗奈はクラスメートに、
「告白される前に振られた女」
と呼ばれるようになった。
第二話 家の決まり
二人目は、学級委員を務める真面目な男子だった。
彼も麗奈に好意を抱いていた。
しかし、ある日突然、深刻な顔で言った。
「麗奈さん、ごめん。僕は君とは付き合えない」
「理由は?」
「うちは、テストで五教科四百五十点以上取らないと恋愛禁止なんだ」
「厳しい家庭!」
「この前のテスト、四百四十九点だった」
「あと一点!」
「だから、次のテストまで待ってほしい」
「待てばいいのね?」
「でも、次は五百点を目指すから、恋愛している時間がない」
「結局、勉強を選ぶんかい!」
こうして麗奈は――
数学の問題集に負けた。
第三話 スポーツ選手が好き
三人目は、スポーツジムで出会った男性だった。
麗奈が転びそうになった彼を支えると、彼は目を輝かせた。
「あなたのような優しい人を探していました!」
「ようやく普通の恋愛が始まる!」
二人は何度もデートを重ねた。
麗奈も「今度こそ」と期待していた。
しかし、告白の日。
彼は突然、涙を流した。
「ごめんなさい。やっぱり僕は、女性スポーツ選手の筋肉が好きなんです!」
「知らんがな!」
「特に、バレーボール選手の肩と太ももが……」
「細かい! 好みが専門誌みたいに細かい!」
麗奈は腕まくりをして、力こぶを作った。
「私にも少しくらいありますけど?」
彼は真剣な顔で首を横に振った。
「違うんです。これは健康的な腕です」
「何が違うの!?」
「僕が求めているのは、厳しい合宿を乗り越え、何千回ものトレーニングを積み重ねた筋肉なんです!」
「筋肉に物語を求めるな!」
第四話 ぽっちゃり女子に奪われる
四人目は、麗奈の幼なじみだった。
幼い頃からずっと一緒だった相手。
麗奈は今度こそ成功すると思っていた。
しかし――。
彼は、麗奈の友人・美穂が作った巨大なお弁当を見て、心を奪われた。
弁当箱の中には、唐揚げ、ハンバーグ、卵焼き、焼きそば。
さらに、おにぎりが六個。
彼は弁当を見つめながら、目に涙を浮かべた。
「これが……僕の求めていた青春だ!」
麗奈が叫ぶ。
「青春じゃなくて昼食でしょう!?」
「麗奈のお弁当は、栄養バランスが完璧すぎるんだ」
「また完璧さが敗因!?」
「美穂のお弁当には、午後の授業をすべて眠って過ごす覚悟を感じる!」
「それはただの食べすぎ!」
そして数日後。
本当に二人は付き合い始めた。
しかも麗奈は、美穂から恋愛相談まで受けることになった。
「麗奈、ちょっと彼のことで相談があるんだけど……」
「振られた相手に相談しないで!」
第五話 大人っぽすぎる
五人目は、読書好きで物静かな青年だった。
麗奈とは趣味も合い、会話も弾んだ。
今度こそ運命の人かもしれない。
麗奈はそう確信していた。
しかし、告白直前。
彼は深刻な表情を浮かべた。
「麗奈さん。あなたは本当に素晴らしい人です」
「その前置き、もう嫌な予感しかしない」
「ですが……」
「ですが?」
彼は意を決したように言った。
「胸が大きすぎます」
「そこ!?」
現場が静まり返った。
麗奈は数秒間、言葉を失った。
「……それ、本人に直接言う?」
彼は拳を握った。
「僕は貧乳が好きなんです!」
「知らないよ!」
「小さければ小さいほど美しいと思っています!」
「思想が強い!」
「平らであればあるほど、無限の可能性を感じるんです!」
麗奈は彼の頬を軽くつねった。
「あなた、ただの変態ですよね?」
「はい!」
「認めるの早い!」
第五話の放送後。
彼は本来の役名ではなく――
「貧乳思想家」
という呼び名で、視聴者から親しまれることになった。
本来の役名を覚えている視聴者は、ほとんどいなかった。
第六話 女王様が好き
六人目は、演劇部の明るくて気さくな男子だった。
彼は麗奈を見るたびに、
「今日もかわいいね」
「麗奈と話していると元気が出るよ」
と、素直に好意を伝えてきた。
これまで癖の強い男子たちに振り回されてきた麗奈は、慎重になっていた。
「本当に私のことが好きなんですよね?」
「もちろん。ずっと好きだった」
「筋肉に物語を求めたりは?」
「求めない」
「胸の大きさに思想を持っていたりは?」
「何の確認をされてるの!?」
麗奈は胸をなで下ろした。
「ようやく、まともな人が現れた……!」
二人は順調に距離を縮めていった。
ところが、演劇部の公演を見に行った日。
舞台では、黒いドレスをまとった女子部員が女王様を演じていた。
彼女は玉座に座り、男子に向かって冷たく言い放った。
「ひざまずきなさい。この役立たず」
その瞬間――。
隣にいた彼の目が輝いた。
「……すごい」
「え?」
「今、心の奥に眠っていた何かが目覚めた」
「起こさなくていいものじゃない?」
公演終了後、彼は女王様役の女子のもとへ走っていった。
「お願いします! もう一度、役立たずと言ってください!」
「どういうお願い!?」
女子部員は戸惑いながらも、役になりきって答えた。
「この愚か者。私の前から消えなさい」
彼は満面の笑みを浮かべた。
「ありがとうございます!」
「感謝するところ!?」
翌日。
彼は麗奈を校舎裏へ呼び出した。
「麗奈。大事な話がある」
「また校舎裏……。この場所で、いい思い出がないんですけど」
彼は申し訳なさそうに頭を下げた。
「俺は麗奈のことが好きだった」
「“だった”?」
「でも、俺ってドMなんだよな」
「突然の自己紹介!」
彼は演劇部の部室を指さした。
「あの女王様を好きになってしまったんだ」
「一回罵られただけで!?」
「彼女の冷たい目を見た瞬間、運命を感じた」
「運命の見つけ方が特殊すぎる!」
「麗奈は優しすぎるんだ。俺が失敗しても励ましてくれるだろ?」
「普通はそこが長所でしょう!?」
彼は真剣な表情で首を横に振った。
「違う。俺が求めているのは励ましじゃない」
「何を求めているの?」
彼は拳を握り、力強く答えた。
「失望です!」
「人生で初めて聞いた、その需要!」
「冷たく見下されて、『期待した私が馬鹿だった』と言われたい!」
「夢を語る顔で言わないで!」
そこへ、女王様役の女子が現れた。
「いつまで待たせるつもり?」
彼はうれしそうに振り返った。
「すみません、女王様!」
「返事が遅い。十点減点」
「ありがとうございます!」
「減点されて喜ぶな!」
麗奈は頭を抱えた。
「もう勝手にしてください!」
すると彼は、期待に満ちた目で麗奈を見た。
「もう少し冷たく言ってくれる?」
「私を練習台にするな!」
こうして麗奈は――
優しすぎるという理由で、女王様に負けた。
最終話 猫が好きすぎる
そして最終話。
麗奈が最後に恋をした相手は、生物部に所属する優しい男子だった。
彼は誠実。
彼女もいない。
厳しい家の決まりもない。
女性スポーツ選手の筋肉への異常なこだわりもない。
麗奈は思わず感動した。
「ついに普通の人が来た……!」
二人は順調に距離を縮めていった。
そして、ついに彼が麗奈を自宅へ招いた。
部屋に入ると、一匹の猫がいた。
「かわいい!」
麗奈が猫を抱こうとすると――。
彼が素早く二人の間に割って入った。
「待ってください!」
「え?」
彼は時計を見る。
「ミケちゃんは午後七時十五分から十八分まで、一人で静かに考える時間なんです」
「三分間、何を考えるの?」
「人間社会についてです」
「絶対考えてない!」
しかし、それだけではなかった。
デート中も、彼は猫の写真ばかり見ていた。
レストランでは、猫用の椅子まで用意した。
映画館では、
「ミケちゃんが寂しがっている気がする」
という理由で、上映開始から十分で帰宅した。
そして、ついに告白の日。
彼は麗奈を見つめ、静かに言った。
「麗奈さん。あなたは美しくて、優しくて、本当に完璧な女性です」
麗奈はすでに悟っていた。
「はいはい。そのあとに“でも”が来るんですよね」
「でも――」
「ほら来た!」
彼は申し訳なさそうにうつむいた。
「あなたと一緒にいると、ミケちゃんとの時間が減ってしまいます」
「猫に負けた!」
「ミケちゃんは僕の人生そのものです」
「私は何だったの!?」
彼は少し考えた。
「ミケちゃんの世話をしていない時間に会う人です」
「空き時間扱い!?」
麗奈はついに怒った。
「もういいです! あなたなんか、ミケちゃんと結婚すればいいじゃない!」
すると彼は真顔で答えた。
「法律が許すなら、そのつもりです」
「最後が一番の変態だった!」
こうして全七話。
麗奈の恋は、一度も成就しなかった。
ドラマ『運命の人を探しています』は、恋愛ドラマとしてではなく、学園ラブコメディーとして予想外の大ヒットを記録した。
特に、
「筋肉に物語を求める男」
「貧乳思想家」
「猫との結婚を望む男」
の三人は、放送終了後もネット上で語り継がれるほどの人気キャラクターになった。
そして主人公は、主演女優賞に選ばれた。
授賞式当日。
主演女優として壇上に立った主人公は、司会者から質問された。
「今回のドラマを通して、何か学んだことはありますか?」
主人公は少し考えると、にっこり笑って答えた。
「完璧になるより、変な男子を早く見抜くほうが大事です」
会場は大爆笑。
すると、共演した男子たちが客席から叫んだ。
「あなたは本当に完璧だったよ!」
主人公は即座に聞き返した。
「だったら、どうして全員振ったの!?」
男子たちは一瞬黙った。
そして、顔を見合わせる。
「……台本だから!」
主人公は台本を掲げて叫んだ。
「わかってるわー!」
会場は、この日一番の笑いに包まれた。




