41話 プロデューサーのおもちゃ
人気絶好調の中、主人公たち七人組はライブを行うことになった。
チケットは、その人気ぶりを物語るように、発売されるとすぐに売り切れてしまったようだ。
ライブ当日。
他のメンバーたちは、全員同じ楽屋で準備をしていた。
一方、主人公だけは今日も別の楽屋だった。
自分の楽屋の札を見て、主人公はため息をつく。
「……また隔離かい」
そこへプロデューサーがやってくる。
「隔離じゃないよ。特別待遇」
「言い方変えただけやろ!」
プロデューサーは満足そうにうなずいた。
「今日も調子いいね」
「ライブ前にツッコミの調子確認すんな!」
そのころ、隣の楽屋。
メンバーたちは、プロデューサーから送られてきた今日の進行表を眺めていた。
曲順の横には、小さくこんなことが書かれている。
『主人公いじりポイント① 最初の衣装を見て他人扱い』
『主人公いじりポイント② 衣装チェンジのたびに大げさに褒める』
『主人公いじりポイント③ 本人が怒ったら全員で拍手』
メンバーの一人が笑う。
「今日もやるんだ」
「もちろん」
「何回ツッコませられるかな?」
「昨日のリハーサルでは二十三回」
「じゃあ今日は三十回が目標ね」
完全にプロデューサー側だった。
もちろん、主人公だけは何も知らない。
しばらくして、スタッフが主人公の楽屋へ衣装ケースを運んできた。
「プロデューサーから衣装が届いています」
主人公はプロデューサーを見る。
「普通のやつやろな?」
「もちろん」
「その笑顔が信用できへん!」
主人公がケースを開ける。
中に入っていたのは――どう見ても別のアイドルグループの衣装だった。
数秒の沈黙。
「……誰やねん!」
プロデューサーが真顔で答える。
「今日から新メンバー」
「勝手に移籍させんな!」
「似合うと思って」
「似合うかどうかの問題ちゃう!」
結局、主人公はその衣装のままステージへ出ることになった。
他のメンバーたちは、いつもの統一衣装。
主人公だけ完全に別グループである。
まず、他のメンバーたちがステージへ登場する。
そのあと――主人公が登場した瞬間。
メンバー全員が、示し合わせたように一斉に距離を取った。
主人公が立ち止まる。
「……なんで離れるん?」
一人が恐る恐る尋ねる。
「あの……どちら様ですか?」
「メンバーや!」
別のメンバーがスタッフへ向かって叫ぶ。
「スタッフさーん! 知らない子がステージに入ってきました!」
「通報すな!」
「今日、合同ライブだったっけ?」
「単独ライブや!」
「じゃあ迷子?」
「所属一緒や!」
さらに別のメンバーが言う。
「でも、楽屋も違ったしね」
「そこまで含めていじるな!」
客席から大きな笑いが起こる。
主人公はメンバーたちを指さした。
「絶対お前ら打ち合わせしたやろ!」
全員が一斉に首を横に振る。
「してないよー」
「目ぇ合わせながら言うな!」
ふと舞台袖を見る。
プロデューサーが満足そうに親指を立てていた。
主人公は叫ぶ。
「黒幕そこやろ!」
プロデューサーは満足そうにうなずく。
「いいスタートだ」
「ライブの評価基準がおかしい!」
一曲目が終わり、主人公が舞台袖へ戻る。
すると、スタッフが駆け寄ってきた。
「衣装トラブルです!」
「もう!?」
見ると、袖の部分が少し破れていた。
急きょ衣装チェンジ。
二曲目。
主人公がセーラー服風の衣装でステージへ戻ると――。
メンバー全員が声をそろえた。
「転校生が来たー!」
「やめろ!」
「自己紹介お願いします!」
「今さら!?」
主人公は仕方なくマイクを持つ。
「同じグループの主人公です!」
「好きな食べ物は?」
「ライブ中にプロフィール掘り下げんな!」
「好きなタイプは?」
「なんで恋愛方向に持ってくねん!」
「彼氏はできた?」
「なんでライブでまで聞くねん!」
客席は大爆笑。
そのまま曲が始まった。
ところが、今度の衣装は少し大きかった。
主人公は踊りながら、何度も衣装の位置を直していた。
曲が終わる。
メンバーの一人が真顔で尋ねる。
「振り付け変わった?」
「変わってへん!」
「ずっと服を押さえる動きしてたよ」
「サイズ大きいねん! プロデューサー、わざとやろ!」
するとプロデューサーが、笑いながら答える。
「わざとじゃないよ。たまたまだよ」
「笑いながら言うな! 絶対わざとやろ!」
別のメンバーが主人公の動きを真似する。
「こう?」
「再現すな!」
さらに一人が加わる。
「こうこう?」
「増えるな!」
気づけば全員が、主人公の衣装直しを真似しながら踊っていた。
「新しいダンスみたいにすんな!」
舞台袖からプロデューサーが言う。
「次のライブで正式採用」
「するな!」
メンバーが尋ねる。
「振り付け名は?」
プロデューサーが即答する。
「衣装ずれ確認ダンス」
主人公は叫ぶ。
「そのままやないか!」
メンバー全員が拍手する。
「拍手すな!」
すると客席まで拍手。
「客まで乗るな!」
三曲目。
次は、レオタード風のステージ衣装だった。
主人公が着替えて戻ってくる。
プロデューサーが腕を組んでうなずく。
「これは完成度高い」
「何の完成度や!」
ステージへ出た瞬間、メンバー全員から歓声が上がる。
「おおおおー!」
「なんやねん!」
「今日一番アイドルっぽい!」
「私は最初からアイドルや!」
「一着目は別グループ」
「お前らが勝手にそうしたんや!」
「二着目は転校生」
「設定増やしたのお前らや!」
「三着目で、ようやくアイドル」
「長い道のりみたいに言うな!」
五曲目。
今度こそ主人公に渡されたのは、他のメンバーたちとまったく同じ衣装だった。
主人公は衣装を広げ、何度も確認する。
「……同じや」
前も後ろも確認する。
「ほんまに同じや」
タグまで確認する。
「サイズも合っとる!」
プロデューサーが首をかしげる。
「そんなに驚くこと?」
「今日の流れ考えたら奇跡や!」
主人公はようやく安心した表情でステージへ戻った。
すると、主人公の姿を見たメンバーたちは――。
「…………」
なぜか微妙な顔をした。
主人公が眉をひそめる。
「なんや、その反応」
一人がぽつりと言う。
「……同じじゃん」
「同じでええやろ!」
別のメンバーも残念そうにため息をつく。
「なんか普通」
「普通が正解や!」
「面白くないね」
「衣装に面白さ求めんな!」
メンバーたちは主人公の周りをぐるぐる回りながら確認する。
「本当に同じだ」
「仕掛けないの?」
「背中に何か書いてない?」
「書いてへんわ!」
一人が衣装の裾を確認しようとする。
「どこか違うところが――」
「探すな!」
客席から笑いが起こる。
すると舞台袖にいたプロデューサーが、何気なく言った。
「そんなに面白くないなら、別の衣装を用意しようか?」
主人公が即座に振り返る。
「なんで別やねん!」
メンバーたちの顔が一気に明るくなる。
「あるの!?」
「見たい!」
「着替えよう!」
「食いつくな!」
プロデューサーは笑いながら端末を操作する。
「ちょうど何着か予備が――」
「予備の方向性がおかしいやろ!」
メンバーの一人が主人公の肩を叩いた。
「大丈夫。今の衣装も似合ってるよ」
「お、珍しくまともな――」
「でも、普通すぎる」
「結局それかい!」
別のメンバーが言う。
「主人公だけ違う衣装のほうが落ち着くんだよね」
「どういう状態に慣れとんねん!」
さらに別のメンバーが客席へ尋ねる。
「皆さん、彼女だけ別衣装のほうがいいですかー?」
客席から一斉に声が上がる。
「はーい!」
さらに大きな拍手。
主人公は叫ぶ。
「聞くな! 答えるな!」
プロデューサーが満足そうにうなずいた。
「民意が出たね」
「ライブ衣装を多数決で決めるな!」
メンバー全員が拍手する。
主人公は頭を抱えた。
「なんで同じ衣装着ただけで、私が少数派みたいになっとんねん……」
そして次の曲が始まる。
ようやく全員おそろいの衣装。
本来なら、それが一番普通の光景のはずだった。
ところが客席の一部から、
「次の衣装なにー?」
という声が飛んできた。
主人公は歌い出す直前に叫んだ。
「今の衣装を見ろ!」
会場は再び大爆笑に包まれた。
そしてライブ終盤。
次に主人公が着せられたのは、水着風のステージ衣装だった。
メンバーがしみじみと言う。
「夏だねぇ」
「暑いわね」
主人公は即座にツッコむ。
「もうすぐ冬やぞ!」
メンバーたちは一斉にはしゃぎ始める。
「海だー!」
「夏休みだー!」
「スイカ割りしよう!」
「外気温十度や!」
一人が首をかしげる。
「じゃあ寒中水泳?」
「方向変えるな!」
「寒くない?」
「寒いわ!」
「でも会場は暖かいよ?」
「その理屈、プロデューサーから教わったやろ!」
舞台袖からプロデューサーが、わざとらしい口調で答える。
「教えてないよ~」
主人公は即座に叫ぶ。
「うそつけ!」
するとメンバーたちは、一斉に主人公を指さした。
「今日の目標!」
「主人公をいじる!」
主人公が叫ぶ。
「歌え!」
メンバーの一人が客席に呼びかける。
「皆さーん!」
「主人公は今、何着目でしょう!」
客席から声が上がる。
「五着目ー!」
主人公。
「クイズ始めんな!」
すると舞台袖からプロデューサー。
「不正解」
主人公が振り返る。
「なんでや!」
「ライブ前に楽屋で着ていたリハーサル衣装を含めて六着目」
「細かい!」
メンバーたちは感心したようにうなずく。
「さすがプロデューサー」
「全部把握してる」
「管理能力高い」
主人公。
「その能力をもっと別のところに使え!」
そして、本編最後の曲が終了。
メンバーたちはいったんステージを下りた。
すると客席から、
「アンコール!」
という声が上がり始める。
ところが、その中に別の声が混じり始めた。
「コスプレ!」
「コスプレ!」
やがて――。
「コスプレ! コスプレ!」
会場全体が大合唱。
舞台袖で主人公が頭を抱える。
「アンコールの意味変わっとるやろ!」
そこへプロデューサーが、当然のように衣装ケースを差し出してきた。
「みんな待ってるよ」
「なんで準備済みやねん!」
ケースを開ける。
中には、大人気アニメに登場するキャラクターをイメージした、本格的なコスプレ衣装が入っていた。
主人公は無言でプロデューサーを見る。
そして、静かにケースを閉じた。
「帰ります」
プロデューサーが即座にケースを開ける。
「アンコールあります」
「これはアンコールちゃう! 罰ゲームや!」
プロデューサーは笑顔で親指を立てる。
主人公は低い声でつぶやいた。
「……覚えとけよ」
メンバーたちが先にステージへ戻る。
「アンコールありがとうございまーす!」
客席から大歓声。
そしてメンバーの一人が言った。
「皆さん」
少し間を置く。
「お待たせしました」
主人公は舞台袖で嫌な予感を覚えた。
「その紹介やめろ……」
メンバーが続ける。
「本日のスペシャルゲストです!」
主人公。
「同じメンバーや!」
まだステージに出ていないのに、ツッコミだけが会場へ響く。
客席は大爆笑。
「では、登場していただきましょう!」
照明が舞台袖へ向く。
主人公が、人気アニメキャラクター風のコスプレ姿で登場した。
その瞬間――。
「うおおおおおおお!」
この日最大級の歓声。
主人公はその場で立ち止まった。
「だから、なんで今日一番盛り上がっとんねん!」
客席から次々と声が飛ぶ。
「かわいいー!」
「似合ってるー!」
「待ってたー!」
主人公。
「歌を待て!」
メンバーたちは主人公の周囲に集まる。
「完成度高い!」
「本人みたい!」
「決めポーズやって!」
「やらへん!」
客席からも声が飛ぶ。
「やってー!」
「客まで要求すな!」
プロデューサーが舞台袖からマイクで言う。
「せっかくだから」
「お前は黙っとれ!」
メンバー全員が頭を下げる。
「お願いします」
「なんで急に礼儀正しくなるん!?」
客席から再び大きな声。
「やってー!」
主人公はしばらく抵抗していたが、とうとう諦めた。
「……一回だけやぞ」
客席。
「おおおおお!」
主人公は恥ずかしそうに、キャラクターの決めポーズを取る。
一瞬の静寂。
そして――。
「きゃあああああ!」
猛烈な歓声。
メンバーたちまで拍手する。
「優勝!」
「完璧!」
「本物!」
主人公。
「何の大会や!」
このアンコール企画は、ファンの間で爆発的な人気を集めた。
やがて公式サイトでは、主人公に着てほしいアンコール衣装の投票まで行われるようになる。
アンコール曲を終え、いよいよ最後のMC。
メンバーが主人公へマイクを向ける。
「今日のライブの感想は?」
主人公は即答する。
「歌った記憶より、着替えた記憶のほうが強いわ!」
「楽しかった?」
「お前らはな!」
「またやろうね」
「やらへん!」
「次は春夏秋冬、全部やろう」
「ファッションショーちゃうぞ!」
「制服も」
「いらん!」
「着ぐるみも」
「増やすな!」
「ウェディングドレスも」
「何のライブや!」
舞台袖を見ると、プロデューサーが端末に何かを入力している。
主人公。
「メモ取るな!」
プロデューサー。
「次回案」
「消せ!」
客席は大爆笑。
主人公は息を切らしながら、ステージ中央へ進んだ。
「いいか! 私はアイドルや!」
メンバー全員。
「はい!」
「着せ替え人形ちゃうぞ!」
「はい!」
「分かったか!」
全員が笑顔で客席を見る。
「次回もよろしくお願いします!」
主人公。
「分かってへん!」
さらにプロデューサーがマイクを持つ。
「以上、うちの衣装担当でした」
主人公。
「アイドルや!」
メンバー。
「兼ツッコミ担当」
「勝手に兼任させんな!」
「兼コスプレ担当」
「増やすな!」
「兼いじられ担当」
「そんな担当ない!」
プロデューサーが端末を見る。
「今日のツッコミ、四十二回」
主人公。
「最後まで数えとったんか!」
メンバー全員が声をそろえる。
「四十三回!」
主人公。
「そこだけ息ぴったりになるな!」
会場は、この日一番の大爆笑に包まれた。
こうして――。
プロデューサーが仕掛け、
メンバー全員が全力で便乗し、
主人公が全員にツッコむ。
そんな流れが、いつしかこのグループのライブ最大の名物になっていった。
さらにアンコールになると、誰からともなく、
「コスプレ!」
という声が上がるようになる。
主人公が人気アニメキャラクター風の衣装で登場することまで、いつしか完全なお約束になってしまった。
ファンの間では、
「今日は何を着せられるのか」
「衣装は何回変わるのか」
「メンバーはどんな悪ノリをするのか」
「主人公は何回ツッコむのか」
まで予想されるようになった。
そして主人公が毎回、
「歌を聴きに来い!」
と叫ぶところまで含めて――。
完全に、このグループのライブ名物となってしまうのだった。




