40話 伝説のアイドル
デビュー前から、なぜか妙に注目を集めていた主人公。
そしてアイドルグループに加入すると、その人気は一気に爆発した。
主人公加入後、七人組となって初めて出演した生放送。
イントロが流れる。
六人が完璧に踊る。
主人公だけ一拍遅れる。
次の移動。
六人が右へ。
主人公だけ左へ。
途中でようやく気づいた。
「違う!」
慌てて戻る。
そして最後の決めポーズ。
六人がビシッと止まった。
主人公だけ隣のメンバーを見ている。
「終わりどこですかー!?」
司会者が即座に反応した。
「主人公さんだけ、別の時空で踊ってましたね!」
スタジオは大爆笑。
その映像は、その日のうちにSNSで一気に拡散された。
『今日初めてこのグループ知った』
『新人の子、おもしろすぎる』
『失敗してるのに嫌な感じが全然しない』
『ツッコミが芸人より速い』
『他の六人との温度差が最高』
しかも、注目されたのは主人公だけではなかった。
それまで目立つ機会の少なかった他のメンバーにも、次々とスポットが当たり始めたのである。
主人公が立ち位置を間違える。
すると、隣のメンバーが無言で主人公の腕をつかみ、正しい位置へ戻す。
「介護しないで!」
「放っておくと、どこか行くから!」
そのやり取りまで人気になった。
別の日には、主人公がターンの回数を間違え、隣のメンバーが後ろから止めた。
「まだ回れます!」
「もういいから!」
「私の可能性を止めないで!」
「振り付けを守って!」
そんな七人の掛け合いそのものが、グループの新しい魅力になっていった。
そして――。
主人公加入から、わずか三か月。
グループの公式SNS登録者数は、それまでの数千倍。
テレビ出演も急増。
新曲の売上は過去最高。
ライブチケットは、発売開始からわずか数分で完売。
それまで小規模な会場を中心に活動していたグループが、一気に全国区へと駆け上がっていった。
事務所の会議室。
スタッフが売上データを見ながら震えていた。
「……何だ、これ」
プロデューサーも画面を二度見する。
「主人公が入ってから、全部右肩上がりだ……」
主人公も横から画面をのぞき込む。
「私、一回もまともに右へ踊れてないのに?」
プロデューサーが親指を立てる。
「売上は右に行ってます!」
「うまいこと言わなくていいです!」
そして、ついに新曲が音楽ランキング第一位を獲得。
しかも、二位に大差をつけての一位だった。
音楽番組では、サングラスをかけた大御所司会者が笑顔でマイクを向ける。
「第一位、おめでとうございます!」
七人そろって頭を下げた。
「ありがとうございます!」
会場から大きな拍手が送られる。
すると、司会者が主人公を見る。
「ところで、あなた彼氏いないんでしょ?」
主人公の表情が固まった。
「今その話します!?」
「で、恋人探しの進捗は?」
「大御所まで言わないで!」
会場は再び大爆笑。
人気が上がるにつれて、歌番組では主人公にソロパートまで与えられるようになった。
主人公の歌声が、会場いっぱいに響く。
歌い終わる。
数秒の静寂。
主人公は耐えきれず、マイクを握った。
「その間、何なんですか!」
司会者が答える。
「余韻です!」
「便利な言い換えですね!」
さらに、ダンスでも毎回のように歌のラストにソロパートが用意されるようになった。
主人公はスタッフに詰め寄った。
「何で私なんですか!?」
「一番盛り上がるので」
「上手だからじゃないんですか!?」
「……一番盛り上がるので」
「二回言った!」
そして本番。
音楽スタート。
一歩目から逆方向。
ターンを一回多く回る。
最後は決めポーズを忘れ、その場で立ち尽くす。
演奏終了。
主人公は胸を張った。
「今日は三か所しか間違えてません!」
メンバーたちが拍手する。
「自己ベスト更新!」
「競技じゃないんです!」
客席は笑いと大きな拍手に包まれた。
テレビ画面には、
『伝説のツッコミアイドル、本日も期待を裏切らず!』
というテロップまで表示されている。
主人公は苦笑いしながらマイクを握った。
「最近、アイドルやってるのか、お笑いやってるのか、自分でも分からなくなってきました!」
出演者も観客も大笑いした。
そんな主人公の加入によって、以前は「人気が少ししかなく微妙だったアイドル」だった六人組は――。
七人組となってから、わずか数か月。
テレビをつければ誰かが出演し、街を歩けば曲が流れ、ライブチケットは入手困難。
ついには、誰もが名前を知る国民的人気アイドルグループへと成長していた。
そして主人公本人だけが、いまだに納得していなかった。
「……私、まだダンスまともに踊れてないんですけど?」
プロデューサーは笑顔で答えた。
「大丈夫です」
「何がですか?」
「それが人気なので!」
「直す気ないんですか!?」




