35話 突然テレビ出演を両親に強制される
主人公が玄関を開けると、リビングから聞き慣れない声が聞こえてきた。
スーツ姿の男女が二人、ソファに座り、両親と楽しそうに話している。
「あ、お帰り!」
母が満面の笑みで手を振る。
「こちら、テレビ局の方よ」
主人公は固まった。
「……テレビ局?」
スーツ姿の女性が立ち上がり、名刺を差し出す。
「はじめまして。私たちは、夕方6時から放送しているニュース番組の制作スタッフです」
それは、主人公も何度か見たことのある番組だった。
その日のニュースだけでなく、街で話題になっている人物や学校、珍しい出来事などを取り上げる情報コーナーもある。
「今回、その番組の特集コーナーに、ぜひあなたに出演していただきたいと思いまして」
「……え?」
頭が追いつかない。
「最近、学校でもこの街でも話題になっているそうですね。ぜひお話を聞かせていただければと思いまして」
主人公は首を横に振る。
「いやいやいや! 無理です! 絶対出ません!」
スタッフも慣れているのか、笑顔を崩さない。
「そうおっしゃる方ほど、放送後は『出てよかった』と――」
「そのセリフ信用できません!」
すると父が腕を組んでうなずいた。
「これはチャンスだ」
「何の!?」
母も続く。
「テレビなんて滅多に出られないわよ」
「出たくないんだけど!」
父は真面目な顔で言う。
「人生、こういう機会は逃したらいけない」
「逃したい機会なんだけど!」
主人公は必死に抵抗する。
「目立ちたくないんです!」
母は笑顔で肩をたたく。
「大丈夫、大丈夫。ちょっと話すだけだから」
「その『ちょっと』が一番怖い!」
スタッフも資料を開きながら説明する。
「収録は8時間ほどです」
「長い!」
「編集して、実際に放送されるのは十数分ほどになります」
「じゃあ最初から十数分だけ話させて!」
父は親指を立てた。
「決まりだな」
「決まってない!」
母もすでに予定を書き込んでいる。
「収録日は来週の土曜日ね」
「誰がOKしたの!?」
「私たち」
「本人不在で会議終わってる!」
スタッフはにこやかに立ち上がる。
「では当日は、テレビ局の車でお迎えに参ります」
主人公は天井を見上げ、大きくため息をついた。
「……もう逃げても無駄なんだろうな」
父と母は同時に笑顔で親指を立てる。
「もちろん!」
「息ぴったりなの、そこじゃないから!」
主人公のツッコミが家中に響く中、夕方6時のニュース番組への出演は、本人の意思を置き去りにしたまま、半ば強引に決定してしまった。




