32話 初めてのお見合い
夕食後、父と母から「大事な話がある」と呼ばれ、主人公はリビングへ向かった。
ソファに並んで座る二人は、なぜか神妙な顔をしていた。父は腕を組み、母は膝の上で両手を固く握っている。
「何? そんな深刻そうな顔をして」
主人公が向かい側に座ると、父が小さく咳払いをした。
「実はな……お前に紹介したい人がいる」
「紹介?」
母がテーブルの上にタブレットを置き、こちらへ向けた。
画面には、一人の男子の写真と詳しいプロフィールが表示されていた。正面を向いて緊張したように笑っている写真の下には、年齢、学校、家族構成、性格、趣味まで細かく書かれている。
「これ、お見合い写真じゃない!」
思わず声を上げた。
趣味の欄には、アニメ鑑賞、フィギュア収集、カードゲーム、休日は一日中オンラインゲームと並んでいた。
あまりにも分かりやすい。
「いかにもオタクっぽい趣味なんだけど」
「趣味だけで人を判断してはいけないわ」
母がすぐに反論する。
「優しい子らしいぞ。向こうのご両親も、お前のことを気に入ってくださっている」
「まだ会ってもいないのに、どうやって気に入ったのよ」
「写真を見て」
「顔しか見てないじゃん!」
主人公はタブレットを父のほうへ押し返した。
「無理。断る」
「一度だけ!」
母が身を乗り出した。
「一度会ってから決めても遅くないでしょう?」
「会う前から話が合わない予感しかしないんだけど」
「会えば印象が変わるかもしれないぞ」
「変わらなかったら?」
「そのときは、そのときだ」
父はそう言ったが、目が明らかに「断らせるつもりはない」と語っていた。
結局、父と母に何度も頼み込まれ、主人公は渋々お見合いをすることになった。
当日。
少し高級そうなレストランの個室には、主人公たち家族と、相手の男子、その両親が向かい合って座った。
向こうの両親は、息子を売り込むために必死だった。
「この子、家ではとても優しいんですよ」
「家事も、言えばやります」
言えば、という部分が少し気になった。
「ゲームにも詳しくてね。一度始めると十二時間くらい集中できるんです」
それは長所なのだろうか。
相手の男子は緊張しているのか、ほとんどこちらを見ようとしなかった。
「趣味はアニメなんだよね?」
主人公が話題を振ると、彼は小さくうなずいた。
「うん」
「どんな作品を見るの?」
途端に彼の表情が変わった。
そこから十分ほど、主人公の知らない作品の設定や登場人物について、早口で説明された。
「へ、へえ……」
途中から何を話しているのか、まったく分からなかった。
主人公も自分の趣味について話してみたが、彼は興味がなさそうに「そうなんだ」と答えるだけだった。
会話は何度も途切れ、そのたびに両家の両親が必死に話題を探した。
「二人とも、好きな食べ物は?」
「ラーメン」
「甘いもの」
「ほら、どちらも食べ物が好きだ!」
父が強引に共通点を作った。
「人間なら大体好きでしょう」
主人公が冷静に返すと、父は黙った。
その後も、話が盛り上がることはなかった。
帰りの車の中で、母が恐る恐る尋ねてきた。
「どうだった?」
「話が合わなかった」
「最初は緊張するものよ」
「緊張以前の問題だよ」
父もバックミラー越しに主人公を見る。
「もう一度会ってみたらどうだ?」
「会わない。断って」
主人公ははっきり答えた。
数日後、父と母は正式に先方へ断りの連絡を入れた。
電話を終えた母は、静かに受話器を置いた。
そして次の瞬間、テーブルに突っ伏して号泣した。
「せっかくのお見合いだったのにぃぃぃ!」
「そこまで泣くこと!?」
父まで目頭を押さえていた。
「向こうのご両親も、一生懸命だったんだぞ……」
「一生懸命なら結婚しなきゃいけないの?」
「お前ならきっと気に入ってもらえると思ったのに……」
「気に入られるだけじゃ駄目でしょう!」
母は涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら、主人公の手を握った。
「このまま恋人ができなかったら、どうするの!」
「まだ一回お見合いを断っただけだよ!」
父と母は、まるで主人公が一生独身になることが決定したかのように泣き続けた。
主人公は二人を眺めながら、大きくため息をついた。
相手の男子よりも、まずこの両親をどうにかしたほうがいいのかもしれない。




