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転生したらみんなが恋人いる謎の世界だった。どうして私だけいないの。  作者: まやまや
転生した世界。皆が豊かで平和すぎる世の中だったのに私だけ彼氏がいない。

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31話 この世界の宗教

数か月が過ぎ、年が明けた。


正月になると、家族そろって初詣に行くことになった。


――といっても、ただの恒例行事ではない。


この国では、1年に1度、必ず神に祈りを捧げることが法律で義務づけられていた。


家族に連れられて着いた場所を見て、主人公は少し驚いた。


「……これ、神社じゃん」


目の前にある建物は、前世で見慣れていた神社とほとんど同じ造りをしていた。


鳥居があり、その奥には大きな社殿がある。


大勢の人々が列を作り、順番に境内へと入っていく。


ただし、世界中が神社というわけではないらしい。


国によっては教会だったり、巨大な神殿だったり、祈りを捧げる場所の形はそれぞれ違っていた。


けれど――信じているものは、世界中でたった1つ。


この世界には、他の宗教が存在しなかった。


国や民族によって建物や祈り方に多少の違いはあっても、信仰している神は同じだった。


やがて、人々が社殿の前に集まると、白い装束を身につけた神主が姿を現した。


神主は集まった人々をゆっくりと見渡し、静かな声で語り始める。


「皆様。今年も新たな年を迎えることができました」


周囲の人々が静かに頭を下げた。


「私たちには、神より授けられた教えがあります。この教えを守り、日々を正しく生きてください」


そして神主は、祭壇の前に掲げられた教えを読み上げていった。


――神の御声を待ちなさい。

やがて青き光が輝き、天より知らせが届く。

その知らせを受け取る者は、神に選ばれし者。

恐れることはない。

定められた道を歩みなさい。

勉学に励むことのできぬ者は、神のもとで導きを受ける。

恋人を得ることのできぬ者も、神のもとへ導かれる。

夫婦の縁が断たれしとき、神のもとにおいて別々の地に暮らすこととなる。

命を育むことのできる者は子をこの世に送り出し、その子が立派に成人する日まで、自らの使命を果たしなさい。

その時、神は約束を果たされる。

選ばれし者は、神の世界へ迎え入れられる。

そこには飢えはない。

渇きもない。

労働の苦しみもない。

争いも、貧しさもない。

必要なものは、すべて与えられる。

楽園のような世界で、人は互いを傷つけることなく、永遠の安らぎの中で暮らす。

だが、罪を犯せし者は、神の御許にある戒めの獄へと送られる。

だから、日々を誠実に生きなさい。

家族を愛し、命をつなぎ、希望を失ってはならない。

いつの日か届く――その1通の知らせを信じて。


神主が読み終えると、境内は静寂に包まれた。


主人公は黙ったまま、その教えが書かれた札を見つめていた。


「…………」


なんというか。


書いてあること自体は、ものすごく立派だった。


家族を大切にしろ。


勉強しろ。


恋人を作れ。


離婚するな。


子どもを育てろ。


犯罪を犯すな。


そして、人生をまっとうした者は、最後には楽園へ行くことができる。


表面だけを見れば、悪いことは何1つ書かれていない。


むしろ、ものすごく健全である。


なのだが――。


「……なんか、怪しくない?」


主人公は小声でつぶやいた。


隣にいた家族が、不思議そうな顔で主人公を見る。


まるで、


――何を言っているんだ?


とでも言いたげな表情だった。


そんな主人公の疑問を打ち消すかのように、神主は再び口を開いた。


「皆様は、なぜ私たちが神に感謝しなければならないのかをご存じでしょう」


神主の声が境内に響く。


「かつて、この世界は滅びかけていました」


主人公は顔を上げた。


「大地は荒れ、森は失われ、海は汚れていきました。資源は不足し、人々の争いは絶えることがありませんでした」


境内に集まった人々が、静かに話を聞いている。


「多くの者が貧しい生活を送り、食べるものにも困っている人もかなりいました。国と国、人と人が争い続け、世界には苦しみが満ちていたのです」


神主は少し間を置いた。


「さらに、人々は未来への希望を失いました。子どもは次第に生まれなくなり、人類そのものが、ゆっくりと絶滅へ向かっていたと伝えられています」


主人公は眉をひそめる。


――絶滅?


そんなにひどい世界だったのか?


神主は続けた。


「その時です」


声がわずかに強くなる。


「突然、神々がこの世界へ降り立たれました」


周囲の人々が神妙な顔で聞き入っている。


「神々は争いを止め、人々の暮らしを正し、壊れかけていた世界そのものを作り替えてくださいました」


神主は両手を広げた。


「荒れ果てていた大地は再び緑に覆われ、汚れていた海は美しさを取り戻しました。争いもなくなり、飢えもなくなり、貧困も消え、人々は安全な住居と十分な食料を得られるようになりました」


そして、社殿の奥へ向かって深く頭を下げる。


「今、私たちがこの豊かな世界で何不自由なく暮らしていられるのも――」


神主の声が、ひときわ大きくなった。


「すべての神々の頂点に立たれる、最高神様のおかげなのです」


周囲から感嘆の声が漏れた。


年配の者の中には、涙を流している者までいる。


「最高神様は、滅びかけていた人類を救ってくださいました」


「世界を再び豊かにしてくださいました」


「そして今も、私たち1人1人を見守ってくださっています」


神主は静かに両手を合わせた。


「それでは皆様、最高神様への感謝を込め、共に祈りを捧げましょう」


一斉に人々が姿勢を正した。


「頭を下げ、目を閉じてください」


主人公の両親も、当然のように頭を下げた。


周囲にいる何百人もの人々も、同じように目を閉じていく。


主人公だけが、ほんの一瞬、周囲を見回した。


――全員、本気なんだ。


疑っている者など、1人もいない。


主人公も仕方なく頭を下げ、目を閉じた。


神主の声が響く。


「最高神様。今年も私たちに、平穏な日々をお与えください」


「食べ物に困ることのない暮らしに、感謝を捧げましょう」


人々が一斉に唱える。


「最高神様に感謝を」


「最高神様に感謝を」


境内いっぱいに声が広がった。


主人公は目を閉じながら考えていた。


世界中の人々が同じ神を信じ、1年に1度、その神に祈ることを法律で義務づけられている。


国によって言葉遣いや建物の造りこそ違うものの、教えられている内容はほとんど同じ。


しかも、この宗教によれば、今の文明そのものが神によって作られたらしい。


確かに、この世界の暮らしは豊かだった。


食料に困ることはない。しかも、驚くほど安い。


住む場所に困ることもない。それどころか、与えられる住居は十分すぎるほど広かった。


街は清潔に保たれ、治安もいい。犯罪もほとんどない。


前世の世界と比べても、この世界の生活水準は異常なほど高かった。


だからこそ、誰も疑わないのだろう。


――神が世界を救った。


――最高神様のおかげで、自分たちは幸せに暮らしている。


誰もが、それを当然の事実として受け入れている。


しかし。


主人公がどうしても引っかかったのが――


『青い光の知らせが届いた者は、神の世界へ行く』


という教えだった。


「いや……」


祈りが終わり、主人公は顔を上げながら小さくつぶやいた。


「普通、そんな通知が来たら怖くない?」


楽園へ招かれる知らせ。


誰もがそう信じている。


家族も。


学校の教師も。


街の人々も。


世界中の人々も。


青い光が届けば、それは神に選ばれた証。


神の世界へ行けば、働く必要もない。


飢えることもない。


永遠に幸せに暮らすことができる。


それが、この世界では常識だった。


けれど主人公には――


どう考えても、怪しい宗教にしか見えなかった。


立派な教えを並べているからこそ、逆に胡散臭い。


世界中で同じ神を信じさせる。


1年に1度の祈りを法律で義務づける。


そして、謎の通知が届けば「神の世界へ行く」と教えられている。


おまけに、現在の豊かな世界を作ったのも、すべて最高神様のおかげだという。


「……いや、やっぱり怪しいだろ」


主人公は誰にも聞こえないよう、小さくつぶやいた。


周囲では、今年も最高神様に守ってもらえるようにと、人々が笑顔で祈っている。


だが主人公には、この宗教がどうしようもなく胡散臭く思えてならなかった。

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