24話 転生後の初めての外食
主人公は、両親と弟とともに、家族四人で外食に出かけることになった。
この世界に来て以来、主人公が外食をするのは初めてだった。
きっかけは、父の一言だった。
「たまには外で食べよう。毎日料理を作ってくれている母さんにも、今日くらいは休んでもらおう」
すると、母は笑いながら答えた。
「そんなことしなくても、毎日ちゃんと作るわよ」
「まあまあ。たまにはいいだろう」
そうして家族四人が向かったのは、近所にある和食レストランだった。
店の入り口まで来ると、父が脇に設置された端末へ手のひらをかざした。
ピッ。
電子音が鳴り、主人公はわずかに目を見開いた。
続いて母と弟も、順番に端末へ手のひらをかざして店内へ入っていく。
主人公も二人にならい、端末へ手をかざした。
どうやら入店するには、利用者全員がこの端末に手をかざす必要があるらしい。
しかも、この世界では、店員に人数を伝え、席まで案内してもらうといったやり取りすら、ほとんど必要なかった。
端末の画面に表示された席番号を確認し、家族四人で指定された席へ向かう。
それだけで、入店手続きは完了だった。
「便利だな……」
主人公は感心しながら席に腰を下ろした。
テーブルの中央には、小さな端末が設置されていた。
父がそこへ携帯を近づける。
ピッ。
すると携帯の画面に、その店のメニューが一瞬で表示された。
「へえ……」
主人公は思わず画面を見つめる。
この世界では、レストランでも自分の携帯を使って注文するのが当たり前らしい。
紙のメニューを店員から受け取る必要もなければ、注文を取りに来てもらう必要もない。
「好きなものを頼んでいいぞ。なんならデザートも付けていいからな」
父にそう言われ、四人はそれぞれ自分の携帯で料理を選び始めた。
主人公もメニューを眺めていく。
定食、丼もの、寿司、麺類。
料理の種類は前世とそれほど変わらない。
しかし、値段を見て主人公は首をかしげた。
「……安くない?」
前世の感覚と比べると、どの料理も三割ほど安かった。
主人公がそう尋ねると、父が答える。
「食材には国から補助が出ているからな。それに、店の運営もかなり合理化されている」
「合理化?」
「今みたいに、入店から注文、会計までほとんど自動だろ? だから必要な店員の数が少なくて済むんだ」
父は店内を見回しながら続けた。
「基本的には、料理を作る人と、配膳や後片付けをする人がいれば店を回せる。店によっては配膳までロボットがやってるから、ほとんど料理を作って片付けるだけのところもあるぞ」
「なるほど……」
人件費が抑えられ、食材にも補助が出ている。
だから料理の値段も安くできるということらしい。
「俺、これにする!」
弟は嬉しそうに料理の写真を眺めながら注文を決めた。
主人公もメニューをスクロールしていき――。
「じゃあ、俺は松定食にするか」
焼き魚、天ぷら、刺身、小鉢、味噌汁、ご飯。
少し豪華な和食のセットだった。
主人公は注文ボタンを押す。
すると、すぐに画面へ文字が表示された。
『注文・決済が完了しました』
「え?」
主人公は思わず画面を二度見した。
料理を注文しただけなのに、すでに支払いまで終わっている。
すると、向かいに座っていた父が携帯を操作し始めた。
「ちょっと待ってろ。このままだと、お前たちが自分で払ったことになるからな」
「どういうこと?」
「ほとんどの店は、注文した時点で自動的に決済されるんだよ。だから今、全員分を俺の支払いに変更してる」
父が何度か画面を操作する。
「よし。これで全部、俺持ちになった」
主人公は気になり、自分の携帯に入っている資金管理アプリを開いた。
そこには――。
『松定食 出金』
と表示された記録のすぐ下に、
『決済変更・取消』
という表示が追加されていた。
先ほど支払われた金額も、すでに残高へ戻っている。
「本当だ……」
注文と同時に支払いが完了し、その後から家族の誰が支払うのかまで簡単に変更できる。
主人公は、この世界の便利さに改めて感心した。
やがて、注文した料理が次々と運ばれてきた。
「おお、うまそう!」
弟が嬉しそうに声を上げる。
主人公の前にも、豪華な松定食が置かれた。
焼きたての魚からは湯気が立ち、天ぷらもきれいな衣に包まれている。
「いただきます」
家族四人で手を合わせ、料理を食べ始めた。
味も十分においしかった。
天ぷらはサクサクしているし、魚も香ばしく焼かれている。
刺身も新鮮だった。
主人公も満足しながら箸を進めていたのだが――。
しばらくすると、弟がぽつりと言った。
「……お母さんの料理のほうがおいしい」
母の箸が止まった。
「え?」
すると、主人公も頷いた。
「俺もそう思う」
「あなたまで?」
父も味噌汁を一口飲み、真面目な顔で頷く。
「うん。確かに母さんの料理のほうがうまいな」
「もう……」
母は困ったように笑った。
けれど、その頬はほんのりと赤くなっている。
せっかく母に料理を休んでもらうために外食へ来たというのに――。
結局、家族全員から普段の料理を褒められることになった母は、照れくさそうに笑いながら箸を動かしていた。




