23話 記念日に向けて頑張る母
毎日の食事は、本当においしかった。
見た目はレストランの料理のように豪華なのに、栄養バランスまでしっかり考えられている。
「こんな生活なら、毎日でも飽きないな」
主人公がそう言うと、母は嬉しそうに笑った。
食事が終わると、父はいつものようにスポーツバッグを肩にかけた。
「じゃあ、行ってくる」
「私も準備できたわ」
母も運動着に着替え、玄関へ向かう。
「またジム?」
「そうよ」
「そんなに毎日行くものなの?」
主人公が不思議そうに尋ねると、母は笑顔で答えた。
「私は記念日のために頑張っているのよ」
「記念日?」
「うん」
「その記念日って何なの?」
主人公は期待して聞いたが、母は首を横に振った。
「それはまだ秘密」
「また教えてくれないんだ」
「その時が来たら、きっと分かるわ」
結局、その日も理由は聞けなかった。
すると父が、主人公の肩を軽く叩いた。
「せっかくだから、君もジムへ行ってみたらどうだ?」
「私も?」
「運動すると気持ちいいぞ」
母も頷く。
「それに、ほとんどの人がジムに通ってるからね」
「ほとんどの人?」
「そうよ。若い人だけじゃなくて、お父さんやお母さんくらいの人も、結構いるわ」
主人公は首を傾げた。
「そんなにみんな運動が好きなの?」
その言葉に、父と母は一瞬だけ顔を見合わせた。
「まあ……健康のためだよ」
「健康?」
「ああ。この国じゃ、健康には結構うるさいからな」
父はそれ以上詳しく説明することなく、靴を履き始めた。
母も苦笑しながら言う。
「ちゃんと運動しておいたほうが、いろいろと得なのよ」
「得?」
「そのうち分かるわ」
「またそれ?」
主人公は呆れたようにため息をついた。
どうやら、この世界にはまだ自分の知らない常識がたくさんあるらしい。
「でも、ジムって遠いんじゃないの?」
そう聞くと、二人は顔を見合わせて笑った。
「何言ってるの」
母は窓の外を指差した。
「あそこよ」
主人公はカーテンを開けて外を見る。
家から歩いて一分もかからない場所に、ジムの建物が見えた。
「近っ!」
思わず声が出る。
父は笑った。
「この辺だけでも三軒あるよ」
「え?」
「駅前にもあるし、スーパーの横にもあるし、学校の近くにもあるわ」
主人公は目を丸くした。
「そんなにあるの?」
母は当たり前のように答える。
「コンビニより多いくらいだからね」
「ええっ!?」
思わず外を見回す。
確かによく見ると、道路の向かいにも、少し歩いた先の交差点にも、それらしい建物が見える。
「この世界、ジム多すぎない?」
父は笑いながら靴を履いた。
「それだけ利用する人が多いってことさ」
「通っておいて損はないわよ」
母も意味ありげに付け加えた。
「……なんか引っかかる言い方だな」
主人公はそう呟いたものの、深くは考えなかった。
家から近いし、両親も毎日のように通っている。
それなら、一度くらい試してみてもいいかもしれない。
「じゃあ……一回だけ体験してみようかな」
「それがいいわ」
母は満足そうに微笑んだ。
この世界では、ジムは一部の健康志向の人だけが通う場所ではないらしい。
むしろ、通っているのが当たり前だった。




