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転生したらみんなが恋人いる謎の世界だった。どうして私だけいないの。  作者: まやまや
魔法少女戦士をやらされた。こんなのやりたくないよ。

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2話 初めての戦い

突然、道路の真ん中に黒い光が浮かび上がった。


「来るよ!」


小さな女の子が叫んだ。


「何が!?」


主人公が慌てて周囲を見回す。


すると、黒い光の中から何かがゆっくりと姿を現した。


「にゃー……」


黒い霧を全身にまとった、大きな猫のような魔物だった。


大きいといっても、せいぜい中型犬くらいだ。


見た目だけなら、そこまで恐ろしい相手には見えない。


むしろ――。


「……ちょっとかわいい。」


「魔物だよ!」


「えっ、本当に敵!?」


主人公は思わず数歩後ずさった。


「魔物が出るなんて聞いてないよ! しかもかわいいし!」


「ちゃんと説明したよ!」


「『悪い奴と戦ってね』しか聞いてない! 説明が雑すぎるよ!」


「シャー!」


魔物が威嚇するように毛を逆立てた。


そして、前足を大きく振り上げる。


「ひっ!」


主人公は顔を青くしながら、女の子の後ろへ隠れようとする。


「む、無理だよ! 私、さっき変身したばかりなんだ!」


「大丈夫! ステッキを信じて!」


「武器に精神論を求めないで!」


魔物が道路を蹴った。


タタタタッ!


猫のような軽い足音を立てながら、主人公へ向かって走ってくる。


「うわあああっ!」


主人公はとっさに横へ飛びのいた。


ブンッ!


魔物の前足が空を切る。


「危なっ! 今、爪が見えたんだけど!」


「当たったらちょっと痛いよ!」


「ちょっとでも嫌だよ!」


魔物は勢い余って主人公の横を通り過ぎ、そのまま道路脇の植え込みへ突っ込んだ。


ガサガサガサッ!


「にゃあ!?」


「……あれ?」


主人公は目をぱちぱちさせた。


しばらくすると、植え込みから魔物がもぞもぞと這い出してくる。


頭には葉っぱが一枚乗っていた。


「もしかして……あんまり強くない?」


「油断しちゃ駄目だよ!」


「今のを見る限り、かなり弱そうなんだけど!」


「シャー!」


魔物が再び主人公を睨みつけた。


「怒ってる! 絶対怒ってるよ!」


魔物が再び走り出した。


主人公も慌てて逃げる。


「来た来た来た!」


「戦って!」


「無理無理無理!」


「魔法戦士でしょ!」


「今日なったばかりだよ!」


必死に逃げようとした主人公は、自分の足につまずいた。


「わっ!」


両腕をぐるぐる回しながら、なんとか転倒をこらえる。


「変身したのに運動神経はそのままなの!?」


「変身は万能じゃないから!」


「そこはサービスしてよ!」


その間に、魔物が主人公へ飛びかかろうとする。


ところが――。


「にゃっ!?」


魔物も自分の足を滑らせた。


そのまま道路の上をズサーッと滑っていく。


「……。」


「……。」


主人公と女の子は、そろって魔物を見つめた。


魔物は何事もなかったかのように起き上がる。


「シャー!」


「今の絶対恥ずかしかったよね?」


「触れないであげて!」


「やっぱり分かるんだ!?」


主人公は震える手でステッキを握りしめた。


弱そうとはいえ、相手は魔物だ。


爪も牙もある。


近づかれれば、やはり怖い。


「どうしよう……。技の使い方なんて分からないよ。」


「ステッキを胸の前で構えて!」


女の子の声が飛ぶ。


主人公は言われたとおり、ステッキを胸の前へ構えた。


「こう?」


「もう少し格好よく!」


「今、格好よさ必要!?」


「魔法戦士には大事だよ!」


「命の危機より優先順位が高いの!?」


魔物がゆっくりと近づいてくる。


主人公はステッキを持つ手に力を込めた。


「深呼吸して! 心を落ち着かせて!」


「魔物が歩いてくる状況で!?」


「吸ってー!」


「すううう……。」


「吐いてー!」


「はあああ……。」


何度か呼吸を繰り返す。


すると、不思議なことに少しだけ震えが収まった。


「……あれ、本当に落ち着いた。」


「でしょ?」


「そこだけはちゃんとしてるんだ……。」


そのとき、魔物が地面を蹴った。


「にゃー!」


主人公めがけて飛びかかってくる。


「今だよ!」


「今って、いつも急すぎる!」


主人公は逃げたい気持ちを必死に押さえ込んだ。


相手が弱そうだからといって、このまま放っておくわけにもいかない。


もし自分が逃げれば、この魔物が街の人を襲うかもしれない。


それだけは嫌だった。


主人公は勇気を振り絞り、ステッキを高く掲げる。


「お願い……力を貸して!」


ステッキの宝石が、まばゆい光を放った。


「光った!」


「驚いてないで集中して!」


「初めてなんだから驚かせてよ!」


温かなエネルギーが全身を駆け巡る。


不思議なことに、知らないはずの言葉が自然と頭に浮かんできた。


主人公は勢いよくステッキを魔物へ向ける。


「スターライト!」


ポウッ。


ステッキの先端から、小さな光の玉が飛び出した。


「……小さっ!」


主人公が思わず声を上げる。


光の玉は、ひょろひょろと頼りない軌道を描きながら飛んでいく。


「これ、本当に大丈夫!?」


「たぶん!」


「たぶん!?」


しかし、光の玉は魔物の額に見事命中した。


ポコンッ!


「にゃっ!?」


魔物の身体が後ろへ吹き飛ぶ。


「えっ!?」


そのまま道路を転がり、道路脇の壁に激しくぶつかった。


「にゃー……」


魔物は目を回しながら、その場に倒れ込んだ。


そして、そのままぴくりとも動かなくなった。


辺りに静寂が戻る。


主人公はしばらくステッキを構えたまま固まっていた。


「……。」


「もう終わったよ?」


「本当に?」


「うん。」


「倒したと思ったら、後ろから復活したりしない?」


「今日はないよ。」


「今日は!?」


主人公は慌てて周囲を見回した。


右。


左。


後ろ。


植え込みの中まで確認する。


しかし、魔物が再び現れる様子はない。


ようやく緊張の糸が切れ、その場にへたり込んだ。


「はぁ……はぁ……。」


主人公は自分の手のひらを見つめる。


今も指先が小さく震えていた。


「勝った……の?」


女の子は笑顔でうなずいた。


「うん! 初めてなのに立派だったよ!」


「途中までずっと逃げてたけど……。」


「最後に勝てば問題なし!」


「戦いの教育方針が雑だなあ……。」


主人公は改めて、魔物が消えた場所を見る。


「怖かった……。」


実際には弱い魔物だったのかもしれない。


それでも、初めて目の前に魔物が現れた主人公にとっては十分すぎるほど怖かった。


飛びかかってきたときなど、本気で逃げ出したかった。


それでも最後には、ステッキを振るうことができた。


主人公は小さく笑った。


「でも、誰かを守れたなら……よかった。」


女の子は満足そうにうなずいた。


「うん!」


主人公は少しだけ誇らしい気持ちになった。


もしかすると、自分にも魔法戦士として戦っていけるのかもしれない。


そんなことを考え始めた、そのときだった。


「ちなみに、今日の敵は一番弱いから!」


「……え?」


「初心者向けの魔物だよ!」


主人公の笑顔が固まった。


「弱かったの!? あれで!?」


「うん!」


「だから植え込みに突っ込んだり、自分で転んだりしてたの!?」


「たぶん!」


「じゃあ、さっきまで怖がってた私って何なの!?」


「初心者!」


「言い方!」


女の子はさらに笑顔で続ける。


「これから、もっと強い敵も現れるよ!」


「今、感動してたところなんだけど!?」


「次の敵は、もっと大きくて強いかも!」


「説明を聞くほどやる気が減っていく!」


主人公は頭を抱えた。


しかし、女の子は自信満々に胸を張った。


「でも、一人じゃない。私も一緒に戦うから!」


主人公は女の子をじっと見つめる。


その言葉に、ほんの少しだけ安心する。


「ちなみに、君は戦えるの?」


「応援できるよ!」


「戦力がゼロじゃないか!」


「技の名前も教えられる!」


「さっきは勝手に頭に浮かんできたよ!」


「転ばないように見守る!」


「できれば支えて!」


女の子は少し考えてから、人差し指を立てた。


「あっ。でも、一つだけ技は使えるよ!」


「本当に!?」


主人公の表情が明るくなる。


「一日一回だけ!」


「おお!」


「攻撃はできないけど!」


「それって役に立つの?」


「役に立つよ! たぶん!」


「また『たぶん』だ!」


主人公は大きくため息をついた。


不安は消えていない。


むしろ、説明を聞けば聞くほど不安が増しているような気がする。


それでも、どうにか最初の戦いを終えることはできた。


「まあ……今日はもう帰ろう。」


「うん!」


主人公は立ち上がり、服についた汚れを払った。


そこで、ふと自分の姿を見る。


白とピンクを基調とした、フリルたっぷりの衣装。


胸元には大きな赤いリボン。


手にはキラキラと輝くステッキ。


どう見ても、魔法少女そのものだった。


「……ところで。」


「なに?」


「変身って、どうやって解除するの?」


「私にも分からないわ?」


「え?」


「え?」


二人の間に沈黙が流れた。


「いやいやいや! なんで知らないの!?」


「初めてだから!」


「君も初めてなの!?」


「うん!」


「説明役が初心者だった!」


主人公は慌ててステッキを振る。


「解除!」


何も起こらない。


「変身解除!」


何も起こらない。


「元に戻れ!」


やはり何も起こらない。


「どうしよう……。」


「そのうち戻るんじゃない?」


「そのうちっていつ!?」


結局、解除方法は分からなかった。


夕焼けの空の下、新たな魔法戦士少女としての最初の一歩は、なんとも締まらない形で始まった。


そして主人公は――。


変身したまま家まで帰ることになった。


「近所の人にめちゃくちゃ見られてるんだけど!」


道行く人たちが、ちらちらと主人公を見る。


子供などは露骨に指を差していた。


「ママー! 魔法少女がいる!」


「見ちゃいけません。」


「なんで見ちゃいけないの!?」


主人公の顔が真っ赤になる。


「堂々としてれば大丈夫!」


女の子が励ます。


「一番無責任な励まし方だよ!」


主人公はできるだけ人目を避けながら、足早に家へ向かった。


そして、ようやく自宅へたどり着く。


玄関の前で、主人公は大きく息を吐いた。


「この姿でお母さんに会うの……?」


魔物と戦ったときとは別の意味で怖い。


覚悟を決め、玄関の扉を開けた。


「ただいま……。」


「おかえり――」


出迎えた母の動きが止まった。


「……。」


「……。」


母は娘の姿を上から下までじっくりと眺める。


フリルたっぷりの衣装。


大きなリボン。


キラキラしたステッキ。


「違うからね。」


主人公は先回りして言った。


「まだ何も言ってないけど?」


「その顔は絶対何か勘違いしてる!」


その後、自分の部屋で解除方法を探しているうちに、主人公は胸元の大きなリボンに手をかけた。


「これ……邪魔だな。」


何気なくリボンを外した瞬間――。


パアッ!


主人公の全身が光に包まれた。


「うわっ!」


光が消える。


主人公は元の姿に戻っていた。


「……。」


手に持っていたリボンも消えている。


主人公はしばらく呆然とする。


「胸のリボンだったの!?」


あれだけ悩んでいた解除方法は、驚くほど単純だった。


しかし、その事実を知ったのは、家まで帰ってきた後だった。


そして母はというと――。


娘が突然、派手な魔法少女の格好で帰宅した理由を最後まで理解できなかった。


どうやら、


「娘が突然、変な趣味に目覚めてしまった」


と思ったらしい。


さらに翌日。


主人公は近所で妙な噂が流れていることを知った。


「昨日、この辺りで変なコスプレをした怪しい人が歩いてたらしいよ。」


「へ、へえ……。」


主人公は目をそらす。


「しかも魔法少女みたいな格好だったんだって。」


「そ、そうなんだ……。」


「最近はいろんな人がいるのねえ。」


「……そうだね。」


主人公は何も言えなかった。


こうして主人公の魔法戦士としての初戦は――。


魔物には勝利したものの、近所では「変なコスプレをした怪しい人」として噂になるという、なんとも微妙な結果に終わったのだった。

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