1話 適合者発見
・・・・・・・前書き・・・・・・・
本作には、特に魔王をはじめとする残虐な極悪非道な人物が登場するほか、物語のテーマや展開上、残酷な描写やきわどいシーンも含まれています。
・・・・・・・本編・・・・・・・・
主人公の両親は、二人とも医者だった。
父と母は町でクリニックを開業しており、主に子どもたちを診ている。専門は内科と小児科だった。
幼い頃から、白衣をまとい患者と向き合う両親の姿を見て育った主人公は、自然と自分も医者になりたいと思うようになった。
医療大学への合格を目指し、毎日勉強漬けの日々を送っていた。
そして今日も、自宅に帰ったあとには塾があった。
放課後。
主人公は帰宅中だった。夕焼けに染まる帰り道を、女子高校生の主人公はため息をつきながら歩いていた。
「今日も疲れたなあ……。これから塾かぁ」
そのときだった。
放課後。
主人公はいつものように、学校の鞄を肩にかけて住宅街を歩いていた。
「見つけた!」
突然、背後から甲高い声が聞こえた。
振り返ると、そこには小学校中学年くらいの小さな女の子が立っていた。肩で息をしながら、目を輝かせて主人公を見上げている。
「やっと適合者を見つけた!」
「……誰?」
小さな女の子は主人公の質問を無視して、両手で一本のステッキを差し出した。
手には、ハート形の飾りが付いたキラキラのステッキ。どう見ても子ども向けの変身玩具だった。
「このステッキを持って、空に掲げて!」
「嫌です」
「そして『パワーオン!』って言って!」
「もっと嫌です」
主人公は即答して、その場を立ち去った。
知らない子から怪しい玩具を渡されて、道端で決め台詞を叫ぶほど、主人公は素直ではない。しかも恥ずかしい。
ところが――。
「待ってええええ!」
小さな女の子は泣きながら追いかけてきた。
「お願い! あなたしかいないの!」
「ついてこないで!」
「世界が大変なの!」
「私は今、近所の人から怪しい人だと思われるという大変な状況なの!」
小さな女の子は小さな足を必死に動かし、涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら追ってくる。
通りかかった買い物帰りのおばさんが、こちらを怪しそうに見た。
「まあ……あの高校生、小さな子を泣かせてるわ」
「違います!」
今度は犬の散歩をしていたおじさんまで足を止めた。
「お嬢ちゃん、大丈夫かい?」
「このお姉ちゃんが、ステッキを受け取ってくれないの!」
「説明の仕方!」
完全に私が悪者になっていた。
仕方なく主人公は立ち止まり、女の子を振り返った。
「分かったから、もうついてこないで」
「じゃあ、パワーオンって言ってくれる?」
「言わない」
「お願いします!」
小さな女の子はその場で勢いよく土下座した。
額が地面につくほどの見事な土下座だった。
周囲の視線が一斉に私へ集まる。
「女子高生が小学生を土下座させてる……」
「違うんです!」
主人公は慌てて小さな女の子の肩をつかみ、近くの塀の陰へ連れていった。
「一回だけだからね」
「本当!?」
「しかも小さい声で言うから。何も起きなかったら、すぐ帰って」
小さな女の子は何度もうなずいた。
主人公はため息をつき、ステッキを受け取った。
「……一回だけだからね。」
近くの公園の植え込みの陰へ移動する。
「誰も見てないよね……。」
周囲を何度も確認し、ステッキをそっと掲げた。
そして、誰にも聞こえないほど小さな声でつぶやく。
「……パワーオン。」
一瞬、世界が静まり返る。
ステッキの宝石が白く輝いた。
「え?」
次の瞬間、足元から金色の光があふれ出す。
全身が光の粒へと溶けるように包まれ、一度その姿が見えなくなる。しかもそのあいだ全裸。
すぐに虹色のエネルギーが渦を巻き、新たな姿を形作り始めた。
光の帯が腕や足を巡り、空中に魔法の紋様が描かれていく。
やがて、まばゆい光の中から下着が現れ、続いてガーターストッキングと手袋が形作られていった。
さらに、幾本ものリボンが身体にまとわりつくように広がり、その光を追うように衣装が形作られていく。
白とピンクを基調とした、フリルたっぷりのスカート。そして、すらりと脚を包み込むロングブーツ。
最後に胸元で光が弾け、これでもかというほど大きな赤いリボンが姿を現した。
主人公は、華やかな衣装をまとった魔法戦士少女へと姿を変えていた。
「ええええっ!?」
主人公は慌てて自分の手を見る。
「な、何これ!?」
小さな女の子は目を輝かせる。
「成功だ! 本当に適合者だった!」
「成功じゃないよ!」
主人公は大慌てで叫ぶ。
「これって変身中恥ずかしかったし。変身中すっぽんぽんでしょ。下着もないし」
「でも光ってたから大丈夫だよ?」
「そういう問題じゃない!」
「別に恥ずかしくないって。気のせいだよ」
「気のせいで片づけないで!」
「でも、これって別に私じゃなくてもよくない?」
小さい女の子が答えた。
「あなたは適合者だから」
「適合者?」
「適合者じゃないといろいろ問題があって、変身はできるんだけどね。でも」
『適合者以外は絶対変身しちゃダメよ』
どうやら適合者じゃないといけないらしい。
その瞬間、遠くの空で黒い雲が渦を巻き始める。
小さな女の子の表情が真剣になる。
「来た……。」
「え?」
「あなたにしか止められない。」
主人公はまだ状況を理解できないまま、光るステッキを握りしめた。
こうして、ごく普通の高校生だった主人公は、世界の運命を左右するかもしれない魔法戦士少女として、最初の一歩を踏み出すことになった。




