153話 魔法少女
主人公はステッキを高く掲げた。
「パワーオン!」
まばゆい光が全身を包み込む。
変身の途中、一度すべての衣服が消え、何も身につけていない状態になる。
そして――。
光が弾けた。
「……変身、できた?」
主人公は恐る恐る自分の体を確認する。
確かに変身には成功していた。
ただし、大きな問題があった。
主人公は、男の姿のまま魔法少女戦士へと変身していたのである。
その結果、予想外の問題が発生していた。
変身用の衣装は、本来なら少女の体に合わせて作られるものだった。
ところが主人公は、成人男性の大きな体のまま変身してしまった。
胸元のリボンも、短いスカートも、白いブーツも、何もかもが小さい。
衣装には多少の伸縮性があるらしく、どうにか着ること自体はできている。
しかし――。
「き、きつい……! パツンパツンじゃないか!」
胸元も、腰も、脚も、全身がぎゅうぎゅうに締めつけられていた。
少し体を動かすだけで、衣装がこれでもかというほど体に食い込んでくる。
しかも、変身の影響なのか髪は長くなり、胸もわずかに膨らんでいた。
「これで戦えっていうのかよ……!」
だが、その窮屈さとは正反対に、魔法少女戦士としての力は異常なほど強力だった。
最初に現れた武装した魔物が、主人公に向けて巨大な光線を放つ。
「うわっ!」
主人公は反射的にステッキを振り上げた。
「……と、とにかく、くらえ! スターライト!」
ステッキの先から、まばゆい光が放たれる。
次の瞬間――。
武装した魔物が消えた。
それだけではない。
魔物の後ろにあった巨大な建物まで、まとめて消滅していた。
「……え?」
主人公は呆然とする。
マシンガンも手榴弾も通用しなかった相手である。
それが、たった一撃で消し飛んだ。
しかも、驚くべき力はそれだけではなかった。
主人公は少し離れた場所にある敵の要塞へステッキを向ける。
「今度は……軽めに……」
できるだけ力を抜いて必殺技を放つ。
すると――。
轟音とともに、要塞が丸ごと吹き飛んだ。
「軽めだぞ!?」
さらに、空に浮かんでいた巨大な宇宙船へステッキを向ける。
「もっと軽く……」
光が走った。
次の瞬間、宇宙船が跡形もなく消滅した。
「消えたんだけど!?」
そして、ほんの少しだけ力を込めて必殺技を放った瞬間だった。
地平線の向こうまで、世界がまばゆい光に包まれた。
大地が震え、建物が崩れ、魔物たちの都市そのものが次々と消し飛んでいく。
「強すぎるだろ、これ……!」
主人公は、最初の世界で戦っていた魔法戦士たちよりも、明らかに強くなっていた。
どうやら男の体のまま無理やり変身したことで、本来なら一定の範囲に抑えられるはずの魔力が、異常な形で増幅されているらしい。
主人公はようやく理解した。
「『いろいろ問題がある』って……このことかよ!」
確かに問題だらけだった。
何より厄介なのは、力の加減がうまくできないことだった。
軽く必殺技を一発放っただけで、要塞が跡形もなく吹き飛ぶ。
少し力を込めれば、山ひとつさえ消し飛んでしまう。
あまりにも強力すぎるのだ。
だが――敵にとっては、それこそが致命的だった。
戦いが始まってから、わずか数分。
これまで何度も主人公を殺し、人類を支配し、家族や仲間たちを奪ってきた神の世界が、完全に崩壊していた。
「……やった」
主人公は、崩れ落ちていく敵の拠点を見つめた。
ついに勝った。
何度転生しても倒すことのできなかった敵を、ようやく全滅させたのだ。
長い戦いが、ようやく終わった。
主人公は大きく息を吐く。
「さて……帰るか」
あとは変身を解除するだけだった。
解除の方法も分かっている。
胸元についている大きなリボンを外せばいい。
ただ、それだけだ。
主人公はリボンへ手を伸ばした。
「よいしょ……」
引っ張る。
外れない。
「……ん?」
もう一度、少し強く引っ張る。
びくともしない。
「…………あれ?」
主人公の額から、冷や汗が流れた。
主人公はゆっくりと自分の姿を見下ろした。
短いスカート。
白いブーツ。
胸元の大きなリボン。
そして、成人男性の体に無理やり装着された、パツンパツンの魔法少女衣装。
「…………」
敵には勝った。
神の世界も滅ぼした。
長い復讐も終わった。
世界を救うという目的も、ようやく果たした。
だが――。
最後の最後で、最悪の事態が起きていた。
主人公は胸元のリボンを握ったまま、絶望した顔でつぶやいた。
「……変身、解除できないんだけど」




