148話 神の世界の学校卒業後
この学校を卒業したあと、俺は魔物たちに連れられ、別の施設へ移された。
そこで待っていたのは、これまでとは比べものにならない地獄だった。
与えられたのは、まるで高級ホテルのスイートルームのような部屋だった。
広さは三十畳ほどもあり、キングサイズのベッドにソファ、トイレ、風呂、テレビまで設置されていた。テレビでは動画なども自由に視聴することができた。
さらに小さな中庭まであり、そこで気分転換をすることもできた。
ただし、外に面した窓は一つもなく、外の様子を知ることはできなかった。
そして、どれほど豪華な部屋であっても、自由に外へ出ることは許されていなかった。
出入口には常に鍵がかけられ、扉は二重になっていた。
しかも、その扉の外では、常に魔物が監視していた。
だが、ほとんど毎日のように魔物たちがやってきて、俺に性的暴行を加えた。毎日何十体もの魔物を相手をしなければいけなかった。
「どうだ。気持ちいいだろ?」
「……気持ちよくなんかない!」
俺が怒鳴ると、魔物は楽しそうに笑った。
「せっかく女に生まれ変われたんだ。元男のお前にとっては、うれしいことだろ?」
「……え?」
一瞬、何を言われたのかわからなかった。
「ちょっと待って。元男って……誰が?」
「お前に決まってるだろ」
頭の中が真っ白になった。
俺はずっと、自分は最初から女だったのだと思っていた。
この身体には胸もある。
生理だって毎月きていた。
「嘘よ……。だって、私、生理だってあるのよ?」
そう言うと、魔物たちは顔を見合わせ、笑い始めた。
「あはははは! そんなの当たり前だ」
「ここへ連れてこられた元男は、みんな子宮を移植されるんだよ」
「……子宮を?」
背筋が冷たくなった。
俺の身体は、生まれつきこうだったわけではなかった。
知らないうちに作り替えられていたのだ。
そして後になって、さらに恐ろしい事実を知った。
移植に使われる子宮の多くは、亡くなった女性から提供されたものだった。
つまり、この身体の中には、かつて別の誰かの一部だったものが存在している。
そう思うだけで、身体が震えた。
ある日、俺は魔物に尋ねた。
「……この学校を卒業した、ほかの人たちはどうなったの?」
魔物は少し考えたあと、にやりと笑った。
「お前は特別だからな。特別に教えてやるよ」
「特別……?」
「普通のやつは、卒業してから三か月以内に、半分以上が俺たちの食料になる。残った人間も、一年以内には食料になる」
「……え?」
思わず言葉を失った。
これまで一緒に学校で暮らしていた生徒たち。
卒業して別の施設へ移された彼女たちは、そこで殺されていたのだ。
魔物は、俺の身体を眺めながら続けた。
「だが、お前は違う。身長も高いし、体格もいい。それに顔もきれいだ。俺たちの間でも人気があってな」
「……だから?」
「特別に生かしてもらっているのさ」
そんな特別扱いなど、まったくうれしくなかった。
むしろ、早く終わらせてほしかった。
だが、自分で命を絶つ方法すらなかった。
危険な物は何一つ与えられない。
だが、食べなければ魔物たちに無理やり食べさせられる。
しかも、出される料理は毎回やたらと豪勢だった。
特に夜は、懐石料理や高級レストランのコースディナーのような、手の込んだ料理が毎日のように並ぶ。
「こんなの、我慢できるわけないだろ……」
最初は抵抗するつもりでも、一口食べれば、その決意はあっさり崩れてしまう。
悔しいことに、どの料理も驚くほど旨かった。
食べるのをやめようと思っても、目の前に並べられれば、ついつい箸が伸びてしまう。
結局、空腹と料理の誘惑には勝てなかった。
しかも、定期的に運動までさせられた。
その内容は思っていた以上に厳しく、毎回かなりきつかった。
さらに、毎日風呂にも入れられ、魔物たちの手で全身をきれいにされた。
入浴後には美容液や乳液、ボディクリームまで丁寧に塗られ、そのうえマッサージやエステまで受けさせられた。
どれも腹立たしいほど気持ちがよく、俺は毎回、いつの間にか眠ってしまっていた。
そして――十年が過ぎた。
その間、俺は高級ホテルような部屋から出ることもなく、魔物たちの好き勝手に扱われながら、ただ生かされ続けた。
もともと俺は、女の子として転生したわけではない。
この世界でも最初は男だった。
だが、神の世界へ連れてこられたあと、魔物たちによって身体を女性へ変えられた。
ある日。
いつものように部屋で過ごしていると、突然、扉が開いた。
一匹の魔物が立っていた。
「出ろ」
「……どこへ行くの?」
「ここを出るんだ」
一瞬だけ、胸が高鳴った。
「もしかして……自由になれるの?」
すると魔物は大声で笑った。
「そんなわけないだろ」
「……じゃあ、何?」
「お前はもう、食料としては適さない年齢になった。それで俺たちと一緒に暮らせるよう、特別に許可を取ったんだ」
嫌な予感がした。
「一緒に暮らすって……?」
魔物は楽しそうに笑う。
「俺の二番目の妻になるんだよ」
「……は?」
「これからはいろいろ楽しめそうだな。今まで以上にな」
「絶対に嫌だ!」
反射的に叫んでいた。
牢屋を出られると聞いた一瞬だけ、自由になれるのかもしれないと思った。
だが、そんなものではなかった。
この魔物と暮らすことになれば、これまで以上に何をされるかわからない。
「……だったら、もう殺してよ」
俺は吐き捨てるように言った。
魔物は少し驚いた顔をした。
「そんなに俺の妻になるのが嫌なのか?」
「嫌に決まってる」
しばらく沈黙が続いた。
やがて魔物は肩をすくめた。
「仕方ないな」
その言葉を聞いた瞬間、不思議と恐怖はなかった。
ようやく終わる。
そう思ったからだ。
俺は魔物に連れられ、十年間過ごした部屋をあとにした。
長い廊下を歩き、施設のさらに奥へと進んでいく。
そして――。
そこで、俺の長すぎた人生は、ようやく終わった。




