147話 神の世界の学校(5)
この世界での生活は、とにかく退屈だった。
暇を持て余した俺は、少しでも気を紛らわせようと、いろいろな部活動に参加した。
最初はサッカー部。
その次は陸上部。
新体操部にも入ったし、ほかにも興味を持った部活には片っ端から顔を出した。
けれど、どこへ行っても似たようなものだった。
指導するのは魔物たちだが、連中には生徒を本気で上達させようという気がまるでない。
基本的なことだけ教えると、
「あとは好きにやってろ」
とでも言いたげに放置される。
大会もなければ、他校との交流試合もない。
そもそも、俺たちはこの塀の外へ出ることすらできないのだ。
サッカー部に入ったところで、毎回同じメンバーを二つや三つに分けて試合をするだけ。
バスケットボールもバレーボールも卓球部も柔道部も似たようなものだった。
いつも同じメンバーと試合をした。
陸上部も、同じ場所を走って記録を測るだけ。
新体操部も体操部も、決められた動きを延々と繰り返すだけだった。誰も教えてくれなかった。
最初のうちは新鮮だったが、すぐに飽きてしまった。
そして、授業も同じだった。
二年生になっても、三年生になっても、大きな変化はない。
そもそも、この学校には学年ごとの厳密な時間割というものがなかった。
一年生が二年生向けの授業を受けてもいいし、三年生が一年生向けの授業を受けてもいい。
自分の好きな授業を自由に選んで受けることができた。
一見すると自由で楽しそうだが、問題は授業そのものが簡単すぎることだった。
試験もなければ、成績もない。
教師である魔物たちも、難しいことを教えるつもりはないらしい。
結局、俺は勉強するためではなく、暇を潰すためだけに授業を受け続けた。
そうして、中学校の三年間は驚くほど何事もなく過ぎていった。
そして、高校生になった。
――だが。
「……何も変わらないな」
思わず、そう呟いてしまった。
制服のデザインが変わり、体操服も中学までとは違うものになった。
さらに、校舎も中学とは別になり、寮や食堂もそれぞれ高校専用の施設が用意されていた。
授業の内容も、中学の頃よりほんの少しだけ難しくなった。
しかし、変わったのはそれくらいだった。
高校の授業とは名ばかりで、前世の世界を基準にすれば、せいぜい中学生程度の内容しか扱っていない。
しかも、高校生になってからも中学校の授業を受けることはできた。
もっとも、わざわざ簡単な授業を受けに行く高校生など、ほとんどいなかったが。
部活動も変わらない。
同じような施設。
同じような練習。
同じ顔ぶれ。
同じような毎日。
季節だけが巡り、時間だけが過ぎていった。
ただ、高校生活には一つだけ、中学時代とは明らかに違うことがあった。
食事だ。
高校へ進学してから、少しずつ食事の量が増えていった。
最初は、本当にわずかな違いだった。
ご飯が少し多くなる。
おかずが一品増える。
デザートが追加される。
その程度だった。
ところが、学年が上がるにつれて、出される量は少しずつ増えていった。
しかも、この学校では食事を残すことが許されない。
「もう食べられないんだけど……」
そう訴えても、意味はなかった。
残せば、魔物が別の食べ物を持ってくる。
食べやすそうな料理。
甘い物。
高カロリーの飲み物。
料理そのものが変更されるだけで、食べなくてよくなるわけではない。
結局、決められた量を腹に入れるまで、食事は終わらなかった。
逃げ道などなかった。
当然、体重も増えていった。
高校へ入学したばかりの頃、俺の体重は五十五キロほどだった。
もともと身長が高かったので、周囲の生徒より多少重い程度だった。
身体もまだ普通だった。
だが、毎日大量の食事を続けているうちに、少しずつ身体に肉がつき始めた。
頬が丸くなる。
腹回りが柔らかくなる。
太ももも少しずつ太くなっていった。
制服がきつくなってきたと思った頃には、何も頼んでいないのに新しい制服が用意されていた。
「サイズ、変えておいたから」
魔物は当たり前のように言った。
「……頼んでないんだけど」
「前のじゃ、きついでしょ?」
それだけ言うと、魔物はさっさと去っていった。
制服だけではない。
体操服も。
下着も。
身体が大きくなるたび、いつの間にか新しいサイズへ交換されていた。
まるで最初から、俺たちの身体が大きくなっていくことを想定していたかのようだった。
高校二年生になる頃には、体重は六十キロ近くになっていた。
鏡を見ると、入学した頃より明らかに頬が丸くなっている。
腹回りにも肉がつき、以前まで着ていた服なら、もう入らないだろう。
「……太ったな」
そう呟いても、どうすることもできない。
運動量を増やそうともした。
陸上部で走る距離を増やし、サッカーにも積極的に参加した。
それでも痩せなかった。
運動すれば、その分腹が減る。
そして食事の量は減るどころか、むしろ増えていく。
三年生になる頃には、とうとう七十キロに達していた。
しかも、太っているのは俺だけではなかった。
周囲の生徒たちも、中学時代とはかなり体格が変わっていた。
ほとんどの生徒が六十キロを超え、中には俺より大きな身体になっている生徒もいる。
いつの間にか、それがこの学校では普通の光景になっていた。
それでも、食事の量は減らなかった。
むしろ卒業が近づくにつれて、さらに増えていった。
そして――高校卒業を迎える頃。
久しぶりに体重を確認した俺は、表示された数字を見て固まった。
八十五キロ。
「……嘘だろ」
中学一年生だった頃とは、まるで別人のような身体になってしまっていた。
腹にはたっぷりと肉がつき、頬も丸い。
腕も脚も以前とは比べものにならないほど太くなっていた。
高校に入学した頃から比べても、三十キロも増えている。
だが、魔物たちは何も言わなかった。
太りすぎだとも言わない。
痩せろとも言わない。
身体が大きくなれば、ただ新しい服を用意するだけ。
まるで――こうなることが予定どおりであるかのように。
そんな俺の気持ちなど関係なく、時間だけは淡々と流れていった。
退屈で。
単調で。
そして、どこか不気味だった六年間。
俺はついに、高校卒業の日を迎えた。
そしてとうとう、この学校を卒業することになった。




