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転生したらみんなが恋人いる謎の世界だった。どうして私だけいないの。  作者: まやまや
この世界を救うために

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142/164

142話 女性に転生した。

目を開けた。


最初に見えたのは、真っ白な天井だった。


しばらくぼんやりとそれを眺めていたが、やがてここが自分の部屋ではないことに気づき、ゆっくりと上体を起こした。


「……ここ、どこだ?」


どうやら俺は、ベッドの上で眠っていたらしい。


周囲を見回す。


部屋の広さは六畳ほど。


白い壁に白い床。窓はなく、天井には病院で見かけるようなLEDが埋め込まれている。


ベッドも一般家庭にあるようなものではなかった。


金属製の柵がついた、いかにも病院や施設で使われていそうなものだ。


壁には小さな棚と鏡。


さらに部屋の隅には、仕切りのついたトイレと小さな洗面台まで設置されていた。


まるで病室だった。


いや、それにしては妙だ。


ナースコールもなければ、窓もない。


時計すら置かれていない。


病院というより、どこかの隔離施設の個室と言ったほうが近いかもしれなかった。


「なんなんだよ、ここ……」


ベッドから降りようとして、そこで初めて自分の格好に気づいた。


「……は?」


服を着ていない。


身につけているのは、女性用らしい下着だけだった。


「なんで……?」


慌てて身体を隠しながら、部屋の中を見回す。


ベッドの下にも、棚の中にも、着替えらしきものは見当たらなかった。


そのとき、壁に設置されている鏡が目に入った。


何気なく顔を向ける。


「……え?」


そこに映っていたのは、見知らぬ女性だった。


短く整えられた髪。


整った顔立ち。


しかも女性にしては、かなり背が高い。


俺はその場で固まった。


鏡の中の女性も、同じように固まっている。


「……俺?」


恐る恐る頬に触れる。


鏡の中の女性も、まったく同じ動きをした。


間違いない。


鏡に映っているのは、自分だった。


「嘘だろ……」


震える手で、自分の身体を確認する。


以前とは何もかもが違っていた。


胸元も、身体全体のつくりも、明らかに女性のものになっている。


そして、一番気になっていた部分を確認した。


「……ない」


あるはずだったものが、なくなっていた。


代わりにあるのは、どう見ても女性の身体だった。


「ちょっと待てよ……」


まだ信じられない。


俺はふらつくようにトイレへ向かい、そこで改めて自分の身体を確認した。


だが、何度確認しても結果は変わらない。


俺は完全に女性の身体になっていた。


洗面台に両手をつき、鏡の中の自分を見つめる。


「なんで……俺、女になってるんだ?」


考えても答えなど出るはずがなかった。


そもそも、どうしてこんな場所にいるのかすら分からない。


まずは誰かを探そう。


そう思い、俺は部屋の扉へ向かった。


病院の個室にあるような、無機質な白い扉だった。


取っ手を握り、回す。


ガチャ。


「……あれ?」


開かない。


もう一度力を込める。


だが、やはりびくともしなかった。


鍵がかかっている。


窓はない。


電話もない。


ナースコールもない。


出口は、目の前にあるこの扉だけ。


知らない施設。


知らない身体。


しかも、女性用の下着しか身につけていない状態で、俺は完全に閉じ込められていた。


「冗談じゃないぞ……」


しばらくすると、扉の向こうから電子音のようなものが鳴った。


直後、カチャリという音がする。


今までびくともしなかった扉が、ゆっくりと開いた。


「……っ!」


思わず身構える。


だが、入ってきたのは人間ではなかった。


黒ずんだ肌。


異様に細長い手足。


口元からは獣のような牙がのぞき、ぎらつく目がこちらを見つめている。


ひと目で分かった。


――魔物だ。


俺は反射的に後ずさった。


そんな俺を見て、魔物はにやりと笑った。


「目覚めたか」


低く濁った声だった。


魔物はゆっくりと部屋の中へ入り、まるでこちらの反応を楽しむように言葉を続けた。


「生まれ変わった気分はどうだ?」


その一言に、俺の背筋が凍った。


生まれ変わった。


つまり、こいつは俺が転生したことを知っている。


なぜだ。


どうして、そんなことまで分かる。


頭の中が一気に混乱する。


だが、ここで動揺を見せるのは危険だと直感した。


俺はできるだけ平静を装い、曖昧に答える。


「……何のことか、よく分からない」


魔物はくつくつと喉を鳴らした。


「そうかそうか。まあいい」


まるで、すべて見透かしているような口ぶりだった。


「気分はいいか?」


「……悪くは、ない」


警戒しながら答えると、魔物は満足そうにうなずいた。


「それは良かったな」


その態度が、不気味でたまらない。


魔物は扉のほうへ振り返りながら、軽い調子で言った。


「着替えと食事を持ってきてやる。今は大人しくしていろ」


そう言い残し、魔物はいったん部屋を出ていった。


扉は再び閉まり、部屋の中に静寂が戻る。


「……なんなんだよ、ここ」


小さくつぶやいても、答えは返ってこなかった。


しばらくして、再び扉が開いた。


先ほどの魔物が、今度は食事の乗ったトレーと、衣類の入った箱を持って入ってくる。


食事は、意外にもまともだった。


湯気の立つスープ。


焼きたてのパン。


彩りのいいサラダ。


それに肉料理まである。


こんな状況だというのに腹は空いていた。


警戒しながら口をつけてみると、驚くほど味が良かった。


「……うまい」


思わず本音が漏れる。


魔物はその様子を見て、また笑った。


「口に合ったようで何よりだ」


食事を終えたあと、俺は置かれた着替えへ目を向けた。


箱の中に入っていたのは、見覚えのあるような服だった。


紺色のセーラー服。


白い体操服。


そして、紺色のブルマ。


「……は?」


思わず固まる。


俺が顔を引きつらせていると、魔物は楽しそうに肩を揺らした。


「これからは、それを着て生活してもらう」


「どういうことだよ……」


思わず魔物をにらみつける。


すると魔物は、口元を大きく歪めて笑った。


「どういうことも何も、そのままの意味だ」


そして、箱の中身を見下ろしながら、愉快そうに続ける。


「お前はこれから、新しい生活を始めるんだ。この姿でな」


その言葉に、胸の奥がざわついた。


新しい生活。


この知らない場所で。


この知らない身体で。


しかも、目の前の魔物に管理されながら。


「安心しろ」


魔物は、俺の不安を面白がるように言った。


「すぐに慣れるさ」


そう言って、また笑った。


その笑い声は、狭い部屋の中にいつまでも嫌な響きを残した。


それから少しして、俺は魔物に尋ねた。


「なあ……俺は、いつになったらここから出られるんだ?」


魔物は少し考えるように首を傾けた。


「それは人によって違うからな」


「人によって?」


「ああ。早い奴もいれば、時間のかかる奴もいる」


「じゃあ、俺は?」


「さあな。それはまだ分からん」


「なんだよ、それ……」


それ以上聞いても、魔物は教えてくれなかった。


結局、俺はしばらくの間、この部屋で生活することになった。


部屋には一つだけ、壁に埋め込まれたディスプレイがあった。


そこでは朝から晩まで、女性としての過ごし方やマナー、言葉遣いを教える映像が延々と流れていた。


電源を切ることもできない。時間はディスプレイに表示されていた。


最初は無視していたが、本もテレビもなく、ほかにすることがない。


「……暇だし、見るしかないか」


結局、毎日のように眺めているうちに、内容まで少しずつ覚えてしまった。


だが、不思議なことに待遇は悪くなかった。


食事は毎日きちんと用意された。


朝、昼、晩と、決まった頃になると魔物が部屋へ運んできてくれる。


料理も毎回違い、味も悪くない。


むしろ、かなり美味しかった。


風呂にも定期的に入れてもらえた。


そのときだけは部屋の外へ連れ出されたが、当然ながら魔物が付き添っていた。


さらに、髪まできれいに整えてもらえた。


伸びてきた部分を切りそろえられ、洗髪までしてもらう。


鏡を見るたび、そこには以前よりも整った女性の姿が映るようになっていった。


「監禁されてるはずなんだけどな……」


食事は出る。


風呂にも入れる。


髪まで整えてもらえる。


まさに至れり尽くせりだった。


ただし、自由だけはなかった。


部屋の扉は常に施錠されている。


勝手に外へ出ることはできない。


時計は表示されるものの、日付は表示されないため、どれくらいの日数が経ったのかさえ分からなくなっていた。


そんな生活がしばらく続いた、ある日のことだった。


朝、目を覚ますと、下腹部に重い痛みを感じた。


「……来たか」


確認すると、やはり生理だった。


前世でも経験しているため、それ自体に驚きはない。


ただ、今回の身体は以前よりも症状が重かった。


腹痛だけでなく腰も重く、身体には強いだるさがある。出血量も多く、起き上がるのさえ少しつらかった。


「この身体、生理重いな……」


俺は腹を押さえながら、ベッドへ横になった。


しばらくすると、いつものように魔物が部屋へやってきた。


俺の様子を見るなり、首を傾げる。


「どうした?」


「生理。しかも結構重い」


その瞬間、魔物の表情が一変した。


「おお!」


突然、嬉しそうな声を上げる。


「……なんで喜んでるんだよ」


魔物は俺を見ながら、満足そうに何度もうなずいた。


「そうか。ついに来たか」


「ついに?」


その言い方が妙に引っかかった。


まるで、ずっとこれを待っていたようだった。


そして魔物は、心底嬉しそうな表情を浮かべて言った。


「これで、ここから出られるな」


「……え?」


俺は思わず身を起こした。


「今、なんて言った?」


「ここから出られると言ったんだ」


「本当に?」


「ああ」


俺は少し考えてから尋ねる。


「もしかして……生理が来ることが、ここから出る条件だったのか?」


魔物は答えなかった。


ただ、にやりと意味ありげに笑う。


どうやら、この身体が女性として十分に成長するのを待っていたらしい。


「なんなんだよ、それ……」


理由は分からない。


だが、ようやくこの部屋から出られる。


そのことだけは間違いなかった。

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