141話 この世界を救うため立ち上がった。
主人公は、再び男として転生した。
前世と同じように、背が高く、整った顔立ちをした青年だった。
しかし、過去の世界で知ってしまった真実だけは忘れていなかった。
魔物たちは、人間を食料としている。
そして、この世界そのものが、魔物たちによって管理されている可能性が高い。
かつて失った弟や家族。
そして、何も知らないまま生きている人類。
彼らを救うため、主人公は再び立ち上がることを決意した。
変身ステッキのありかは、すでに分かっていた。
だが、今の自分があのステッキに適合できるとは思えない。
ならば、別の方法で戦うしかなかった。
主人公は軍学校へ進み、戦闘技術を徹底的に学んだ。
射撃。
格闘。
潜入。
爆破。
ありとあらゆる訓練を受けた。
さらに年月をかけ、魔物と戦うための武器や装備を少しずつ集めていった。
拳銃。
自動小銃。
マシンガン。
手りゅう弾。
爆薬。
考えられる限りの準備をした。
すべては、弟や家族を奪った魔物たちを倒すため。
そして、人類を救うためだった。
やがて準備を終えた主人公は、ついに「神の世界」へ乗り込んだ。
そこは、記憶に残っている光景とほとんど変わっていなかった。
美しいホテル。
豪華な食事。
広いプール。
施設内に流れる穏やかな音楽。
人間たちは何も疑うことなく暮らし、魔物たちと笑顔で会話していた。
「神様、今日は何がありますか?」
「神様、ありがとうございます」
住民たちは魔物を当然のように「神様」と呼び、親しげに接している。
その光景を見て、主人公は強く拳を握りしめた。
――何も知らない。
自分たちが、いずれ食料として食べられるために飼われていることを。
主人公は住民たちに紛れながら、慎重に施設の奥へと進んでいった。
そして、武装していない一匹の魔物を見つけた。
主人公は周囲に人がいない場所まで、その魔物を誘い込む。
服の下に隠していた拳銃を取り出した。
迷いはなかった。
引き金を引く。
乾いた銃声が響いた。
「ギャッ……!」
魔物は悲鳴を上げ、その場に倒れた。
主人公は息をのみ、その様子を見つめる。
数秒。
十数秒。
しばらく待っても、魔物は動かなかった。
「……倒せる」
主人公の表情が変わった。
魔物は無敵ではない。
銃が通用する。
これなら戦える。
長い年月をかけて準備してきたことは、無駄ではなかった。
弟や家族の仇を討てる。
人類を救うことだってできるかもしれない。
そう思った――その直後だった。
施設全体に、けたたましい警報が鳴り響いた。
『侵入者を確認』
『警備部隊を派遣します』
「……っ!」
建物の奥から、重い足音が近づいてくる。
一つではない。
いくつもの足音が、こちらへ向かっていた。
やがて姿を現したのは、先ほど倒した魔物とはまるで違う集団だった。
全身を黒い鎧で覆い、巨大な盾と武器を構えた武装兵。
主人公はすぐさまマシンガンを構えた。
「来い!」
引き金を引く。
激しい銃声とともに、無数の弾丸が武装した魔物たちへ叩き込まれた。
だが――。
弾丸は黒い鎧の表面で潰れ、そのまま床へ落ちていく。
魔物たちは、一歩も足を止めなかった。
「……何だと?」
主人公はさらに撃ち続けた。
だが、結果は同じだった。
何発撃ち込んでも、黒い鎧には傷一つつかない。
「だったら、これで!」
主人公は手りゅう弾を取り出し、魔物たちへ投げつけた。
直後――。
激しい爆発が通路を揺らした。
炎と煙が辺りを包み込む。
主人公は身を伏せながら、煙の向こうを見つめた。
これなら――。
しかし。
煙の中から、武装した魔物たちがゆっくりと姿を現した。
黒い鎧には、やはり傷一つついていない。
「そんな……」
主人公の顔から血の気が引いた。
「軍の武器が……効かない……?」
それでも、主人公は諦めなかった。
武装していない魔物には銃が通用する。
ならば、倒せる相手を倒しながら進むしかない。
主人公は施設の奥へ走った。
廊下にいた魔物。
部屋から飛び出してきた魔物。
武装していない者を見つけるたびに、主人公は銃を向けた。
だが、その間にも武装した魔物たちは確実に距離を縮めてくる。
撃っても効かない。
爆破しても倒せない。
まともに戦えば勝ち目はない。
主人公には、逃げながら戦い続けることしかできなかった。
やがて、弾薬も少なくなった。
手りゅう弾も底をつく。
そして、ついに――。
カチッ。
乾いた音だけが響いた。
「……」
主人公がもう一度引き金を引く。
カチッ。
やはり、銃弾は発射されない。
弾切れだった。
主人公は荒い息を吐きながら、周囲を見回した。
前方。
後方。
左右の通路。
気がつけば、何十体もの武装した魔物が主人公を取り囲んでいた。
もう逃げ道はない。
主人公は空になった銃を握りしめた。
「ここまで……か」
何年もかけて準備した。
軍学校で訓練した。
武器を集めた。
戦い方を覚えた。
何度も計画を練り直した。
すべて、この日のためだった。
それなのに――。
人類を救うことはできなかった。
魔物を滅ぼすこともできなかった。
自分が倒せたのは、武装していない魔物だけ。
本気で戦うための装備を身につけた魔物には、まるで歯が立たなかった。
「……ふざけるな」
主人公は空になった銃を床へ投げ捨てた。
ここで何もせずに終わるつもりはなかった。
最後の力を振り絞り、一体の魔物へ飛びかかる。
「うおおおおっ!」
しかし、その拳はあまりにも簡単に受け止められた。
次の瞬間――。
強烈な一撃が主人公を襲った。
身体が宙を舞い、激しく床へ叩きつけられる。
「……っ」
息ができない。
身体も動かない。
視界が、少しずつ暗くなっていく。
薄れていく意識の中で、主人公の脳裏に弟の姿が浮かんだ。
家族の笑顔も浮かぶ。
助けたかった。
今度こそ、みんなを救いたかった。
「……ごめん」
主人公は、かすかな声でつぶやいた。
「助けられなかった……」
それが、最後の言葉となった。
主人公は再び、魔物たちによって命を奪われた。
長い年月をかけて準備した復讐は、あまりにもあっけなく終わった。
そして、しばらくすると――。
施設内に鳴り響いていた警報も止まった。
何事もなかったかのように、再び穏やかな音楽が流れ始める。
プールでは人々が笑い、
レストランには豪華な料理が並び、
人間たちは何事もなかったかのように、魔物へ笑顔を向けていた。
「神様、ありがとうございます」
主人公が命を懸けて変えようとした世界は――。
何一つ変わらなかった。
だが、主人公の人生は、そこで終わったわけではなかった。
死ぬたびに、主人公は再びどこかの世界へ転生した。
裕福な家庭に生まれたこともあれば、ごく普通の家庭に生まれたこともある。
違う国で生まれることもあれば、まったく異なる環境で育つこともあった。
それでも、不思議なことに――。
主人公は何度転生しても、男として生まれた。
二度。
三度。
そして、五度、六度と人生をやり直しても、それは変わらなかった。
そのたびに主人公は魔物たちに対抗する方法を探した。
だが、結局、人類を救うことはできなかった。
それでも、魔物たちへの憎しみも、救えなかった弟や家族への後悔も消えることはなかった。
――いつか必ず、人類を救う。
その思いだけを胸に、主人公は再び次の人生を迎えた。
そして――。
「……ん?」
意識を取り戻した主人公は、すぐに違和感を覚えた。
身体の感覚が、これまでとは違う。
恐る恐る、自分の身体を確かめる。
「……え?」
もう一度確認した。
間違いない。
「……女?」
これまで何度転生しても、ずっと男だった。
だが、今回は違った。
主人公は初めて――。
女の子として生まれ変わっていた。




