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転生したらみんなが恋人いる謎の世界だった。どうして私だけいないの。  作者: まやまや
転生したら男でした。

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136話 妻との初めて記念日

結婚してから初めて迎える「初めて記念日」。


この国には、その日だけは夫が妻に、自分の好きな服を着てもらえるという風習があった。


主人公はこの日のために、こっそりビキニを用意していた。


「せっかくの記念日だし、今日はこれを着てもらおう」


そんなことを考えながら、主人公は当日を少し楽しみにしていた。


ところが――。


初めて記念日の朝。


妻はなぜか、朝から妙に上機嫌だった。


「今日はホテルに行くわよ」


「ホテル?」


「そう。いいから、早く準備して」


「いや、なんでホテル?」


「着けば分かるわよ」


嫌な予感がしないでもなかったが、主人公は用意していたビキニをバッグに入れ、妻についていった。


やがて二人が到着したのは、街の中心部にある高級シティホテルだった。


大きなロビーを抜け、チェックインを済ませる。


そして妻に連れられ、予約していた客室へ向かった。


「ずいぶんいい部屋を取ったな……」


「今日は記念日だもの」


「まあ、それはそうだけど」


主人公は、このときまではまだ少し期待していた。


妻にビキニを着てもらって、記念写真でも撮って――。


そんな平和な未来を想像していたのである。


だが。


妻が部屋のドアを開けた瞬間――。


「……は?」


主人公は入口で完全に固まった。


部屋の中には、なぜか大量の衣装が用意されていた。


ワンピース。


メイド服。


チャイナドレス。


ナース服。


アイドル風のステージ衣装。


さらには、どう見てもアニメキャラクターを意識したコスプレ衣装まで並んでいる。


しかも――。


全部、女性用だった。


「…………」


主人公はしばらく無言で部屋を見回した。


そして、ゆっくりと妻を見る。


「……何これ?」


「服よ」


「それは見れば分かる!」


主人公の背中に、嫌な汗が流れ始める。


「なんで女性用の服がこんなにあるんだよ!」


すると妻は、満面の笑みを浮かべた。


「あんた、女の子でしょ?」


「その一言で、全部嫌な予感に変わったんだけど」


「だったら今日は、私が好きな服を着せてもいいよね?」


「よくない!」


主人公は反射的に叫んだ。


「今日は夫が妻に好きな服を着てもらえる日だろ!? 俺が楽しむイベントだよな!?」


「でも、あんた女の子でしょ?」


「夫でもある!」


「じゃあ、問題ないわね」


「何一つ解決してない!」


「私、女の子が好きなの。でも、男としか結婚できないでしょ? だったら、あんたが女の子になれば全部解決よ」


「何一つ解決してないから!」


妻は主人公の抗議を完全に無視すると、ハンガーから一着の衣装を取り出した。


「はい。まずはこれ」


「メイド服!?」


「次はチャイナドレスね」


「もう次が決まってるの!?」


「その次はアイドル衣装」


「待て待て待て!」


「そのあと、アニメのコスプレが三着」


「何着用意してるんだよ!」


妻は少し考えてから答えた。


「全部で十二着」


「多いわ!」


こうして――。


本来なら主人公が妻にビキニを着てもらうはずだった初めて記念日は、なぜか主人公の大撮影会へと変貌した。


「はい、着替えてー」


「嫌だ!」


「せっかくホテルまで取ったんだから」


「ホテルの使い方がおかしい!」


数分後。


主人公はメイド服姿で、部屋の中央に立たされていた。


妻は嬉しそうにカメラを構える。


「はい、笑ってー」


「笑えるか!」


カシャッ。


「次、ちょっとスカート持って」


「撮るな!」


カシャッ、カシャッ。


「今度はこっち向いて」


「完全に撮影会じゃねえか!」


その後も――。


チャイナドレス。


ナース服。


アイドル衣装。


アニメキャラクター風の衣装。


次から次へと着替えさせられ、そのたびに撮影された。


「はい、次はこのポーズ」


「なんでポーズ集まで準備してるんだよ!」


「昨日調べた」


「事前準備が完璧すぎる!」


しかも妻は、一着ごとに数十枚ずつ写真を撮っていく。


「もう百枚以上撮ってない?」


「まだ百八十七枚よ」


「数えるな!」


そして、何着目かの撮影が終わったところで――。


主人公はふと思い出した。


「……そうだ!」


「何?」


「俺だって今日のために服を用意してきたんだからな!」


主人公は勢いよくバッグを開け、中から包みを取り出した。


ようやく反撃できる。


そんな気持ちで、主人公は得意げにビキニを取り出した。


「ほら!」


妻が目を丸くする。


「まあ」


主人公は少し照れながら言った。


「かわいい君に着てもらいたくて、今日のために用意したんだよ」


これでようやく、本来の初めて記念日に戻れる。


主人公はそう思った。


しかし――。


妻はビキニを受け取ると、しばらく眺めたあと――。


にっこりと笑った。


「かわいい!」


「だろ?」


「あんた、これ絶対似合うわよ」


「……は?」


嫌な予感がした。


本日二度目である。


「ちょっと着てみて」


「なんで俺が!?」


「だって、かわいいもの」


「君に着てもらうために買ったんだよ!」


「ありがとう。じゃあ、あんたが着てるところを私が楽しむわね」


「お礼の方向がおかしい!」


「ほら、早く」


「待て待て待て! これは妻用!」


「サイズ、合うわよ」


「なんで分かるんだよ!」


妻はビキニを主人公の胸元に当て、満足そうにうなずいた。


「うん。絶対かわいい」


「俺の計画を返せ!」


だが、その願いが聞き入れられることはなかった。


数分後。


主人公は、自分で買ってきたビキニ姿で、部屋の中央に立っていた。


「…………」


妻は、これまで以上に目を輝かせている。


「まあ、かわいい!」


「言うな……」


「予想以上よ!」


「俺は君が着てる姿を想像して買ったんだぞ……」


「でも、こっちのほうが似合ってるわよ」


「それが一番聞きたくなかった!」


カシャッ。


「撮るな!」


カシャッ、カシャッ、カシャッ。


「なんで今日一番撮ってるんだよ!」


「だって、一番かわいいもの」


「俺が自分で自分の罠を用意したみたいになってるじゃねえか!」


しかも妻は満足するどころか、さらに主人公へ指示を出してくる。


「はい、ちょっと横向いて」


「嫌だ!」


「次、窓際」


「グラビア撮影じゃないんだぞ!」


「今度はベッドに座って」


「本格的になってきた!」


結局――。


主人公が妻に着てもらうつもりで用意したビキニまで、主人公自身が着る羽目になったのである。


数時間後。


十二着すべての衣装を着終えた主人公は、ベッドの端にぐったりと座り込んでいた。


その周囲には、脱ぎ終えた大量の衣装が山のように積み上がっている。


カメラの写真枚数は、すでに五百枚を突破していた。


「…………」


主人公は虚ろな目で天井を見上げた。


妻は隣で、今日撮った写真を楽しそうに確認している。


「あ、これいいわね」


「…………」


「メイド服もかわいいけど、やっぱりビキニが一番かしら」


「…………」


「来年は水着をもう三着くらい用意しようかな」


主人公の目がカッと開いた。


「来年もやる気なの!?」


「もちろん。初めて記念日は毎年あるでしょ?」


「『初めて』とは!?」


主人公は頭を抱えた。


そして、心の底から思った。


――これって、夫が楽しむイベントだったよな?


なぜ俺が一番着替えて、一番写真を撮られて、一番疲れてるんだ。


その横で妻は、満足そうに携帯を眺めながらつぶやいた。


「いい記念日になったわね」


「誰にとってだよ!」


主人公の叫びが、高級シティホテルの客室にむなしく響いた。


そして、その夜。


妻は何気ない様子で口を開いた。


「それにしても、なかなか子どもができないね。早くできないかな」


「なんで、そんなに早くほしいの?」


「一人でも子どもができれば、その子が成人するまで、神の世界に行かなくてもいいでしょ?」


「そうだね……」


「そうしたら、あんたも正式に女の子になれるね」


「……やめて……」


「え?」


「……お願いだから……やめて……」


声は震えていた。


もう、何を言っても無駄なのかもしれない。


そう思うと、胸の奥が冷たくなった。


「俺は……女になりたくない……」


涙が頬を伝う。


「……嫌だ……。そんなの……絶対に嫌だ……」


震える声で、何度も繰り返す。


「俺は……俺のままでいたい……」


それが、もう自分に残された最後の願いだった。

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