133話 男の娘
彼女と結婚して暮らし始めて、しばらくたった。
最初のうち、主人公が女装させられるのは家の中だけだった。
しかし、それも少しずつ変わっていった。
やがて外出するときにも、彼女が選んだ女性ものの服を着せられるようになった。
気づけば、主人公に服を選ぶ権利はほとんどなくなっていた。
髪型も同じだった。
通う美容院は彼女が決め、予約するときに髪型まで美容師に伝えていた。
その結果、主人公は彼女の希望どおり、女性らしさのあるショートヘアにされてしまった。
もはや主人公の見た目は、少しずつ彼女好みに作り替えられていた。
医療脱毛にも通わされるようになった。
彼女は徹底しており、腕や脚だけでなく、ひげを含めた全身脱毛まで受けさせた。
処置中は思っていた以上に痛く、特にひげの脱毛では、レーザーが当たるたびに主人公は顔をしかめた。
「痛っ……! これ、本当に毎回やるのか?」
「当然。せっかくなら徹底的にきれいにしないと」
彼女は平然と言う。
こうして主人公の身体からは、少しずつ男性らしい体毛まで消えていった。
下着も、いつの間にか男性用のものが少しずつ姿を消していった。
その代わりに用意されるようになったのは、女性用の下着だった。
しかも、ブラジャーまで主人公の体に合ったサイズのものがきちんと用意されていた。
主人公がそれを着るのを嫌がると、彼女は露骨に拗ねた。
話しかけても無視され、しまいには食事まで用意してくれなくなる。
結局、主人公のほうが折れるしかなかった。
仕事のときだけは、それが少し厄介だった。
普段の勤務なら、ほとんど定時で帰宅できる。
基地で風呂に入ることもなく、着替えも家で済ませればよかったため、主人公が女性用の下着を身につけていることを同僚に知られる機会はなかった。
ところが、あるとき二泊三日の大規模演習が行われることになった。
当然、基地に泊まり込むため、着替えも持っていかなければならない。
演習初日の夜。
主人公が着替えていると、近くにいた隊員の一人がふとこちらを見た。
「……ん?」
その視線が、主人公の下着で止まる。
「お前、それ……女性用じゃないか?」
「……」
主人公は固まった。
しかも、一人に気づかれれば終わりだった。
「え、マジ?」
「ちょっと待て。ブラまでしてるぞ」
「見るな!」
慌てて隠そうとしたものの、すでに遅かった。
さらに主人公は、彼女の指定した美容院で女性っぽいショートヘアにされている。
顔立ちももともと整っていた。
そのため、周囲からは完全に勘違いされてしまった。
「もしかして、お前……女性になりたいの?」
「違う!」
「でも髪型もそれっぽいし」
「これは彼女にやられたんだ!」
必死に否定したものの、誰もまともに信じてくれなかった。
そして、それからが最悪だった。
数日後。
主人公が新しい制服を受け取りに行くと、係員から渡されたものを見て言葉を失った。
「……なんでスカートなんですか?」
用意されていたのは、なぜか女性隊員用の制服だった。
しかも、靴までヒールである。
「似合うと思って」
「軍の制服を『似合うと思って』で決めるな!」
だが、周囲の隊員たちは大笑いしていた。
「いいじゃん。似合ってるぞ」
「その顔なら、普通に女性隊員に見えるな」
「今度は化粧もしてみろよ」
「絶対やらん!」
ところが、主人公が嫌がれば嫌がるほど、周囲は面白がった。
髪型は女性っぽく、顔立ちも整っている。
さらに、以前の一件で女性用の下着を身につけていることまで知られていた。
そのせいで主人公は、いつの間にか基地の中で「女性になりたがっている隊員」だと勝手に勘違いされるようになってしまった。
もちろん、本人はまったくそんなつもりはない。
それどころか、必死に否定していた。
しかし、周囲は聞く耳を持たなかった。
ついには、女性隊員たちに化粧まで施されるようになった。
「せっかくだし、ちゃんと仕上げてあげるよ」
「いや、仕上げなくていいから!」
そう言いながら、女性隊員たちは面白がって主人公の顔にファンデーションを塗り、目元を整え、最後には口紅までつけていく。
「ほら、完成!」
「完成じゃない!」
周囲の隊員たちも、その様子を見て笑っていた。
だが、主人公本人はこの扱いを心底嫌がっていた。
化粧をされるたびに抵抗し、女性用の制服を着ることにも何度となく不満を訴えた。
「だから俺は男なんだって!」
そう何度言っても、周囲の隊員たちは面白がるばかりだった。
ところが、化粧をしたまま家に帰った日だけは、妻の機嫌が妙によかった。
主人公の顔を見るなり、目を輝かせる。
「かわいい。今度は私が化粧してあげるね」
「冗談じゃない。やめてくれ」
「基地の人だけずるいじゃん」
「何がずるいんだよ!」
主人公の必死の抗議とは裏腹に、基地での扱いは日に日にエスカレートしていった。
制服は女性隊員用。
靴も女性用。
身だしなみの基準まで、いつの間にか女性隊員とほとんど同じになっていた。
気づけば主人公は、基地の中で完全に女性隊員と同じような扱いを受けるようになっていた。
そして最悪なことに――。
それがあまりにも定着してしまったせいで、周囲の隊員たちまで、主人公を男性隊員として扱うことのほうに違和感を覚え始めていた。




