13話 転生したら世界平和だった。
夕食を終えた主人公は、リビングのソファに座り、ぼんやりとテレビを眺めていた。
『本日は全国各地で夏祭りが開催され、多くの家族連れでにぎわいました』
画面が切り替わる。
『続いてスポーツです。世界陸上で、日本代表選手が見事、金メダルを獲得しました!』
さらに画面が切り替わった。
『人気俳優夫妻が結婚十周年を迎え、記念イベントを開催しました』
主人公は小さく首をかしげた。
リモコンを手に取り、チャンネルを変える。
祭りや地域のイベント、スポーツ、新商品の紹介、動物の特集、芸能人の話題――。
どの局も、似たような明るいニュースばかりだった。
主人公はリモコンをテーブルに置いた。
「……あれ?」
そこへ、母がお茶を持ってやってきた。
「どうしたの?」
「戦争とか紛争とか、犯罪とか……そういうニュースはやってないの?」
母は少し不思議そうな顔をした。
「やってないわよ」
「え?」
「だって、そんなことはほとんど起こらないもの」
主人公は目を丸くした。
「じゃあ……犯罪を犯す人は?」
母は何でもないことのように答えた。
「犯罪なんて、誰もしないわよ」
「誰も!?」
主人公は思わず立ち上がった。
「本当に、一人もいないの?」
「一人も、とは言わないけれど……本当に珍しいことよ」
主人公は黙り込んだ。
少しためらってから、おそるおそる尋ねる。
「もし……犯罪を犯したら、どうなるの?」
母の表情が、ほんの少しだけ硬くなった。
「収容施設へ送られるそうよ」
主人公は息をのむ。
「それで……?」
母は静かに首を振った。
「そのあと、神の世界にある刑務所へ入れられるの」
「神の世界の……刑務所?」
「ええ。でも、そこから帰ってきた人はいないと聞いているわ」
部屋の空気が、一瞬にして冷えたように感じられた。
「神の世界って、何?」
母は主人公から目をそらし、低い声で答えた。
「……知らないほうがいいわ」
主人公はそれ以上、何も聞けなかった。
さっきまで明るく聞こえていたテレビの音だけが、静まり返った部屋にむなしく響いている。
このとき主人公は初めて知った。
この世界には――「神の世界」と呼ばれる場所が存在するのだと。
主人公は画面を見つめながら、小さくつぶやいた。
「……戻ってこない?」
母は少し心配そうに主人公を見る。
「でも、そんなことを心配する必要はないわ。この町で犯罪なんて、ほとんど聞いたことがないもの。」
主人公はうなずいたものの、胸の中には説明のつかない不安が残っていた。
テレビでは再び明るい音楽が流れ、夏祭りで笑顔の家族が映し出されている。
その平和な光景とは対照的に、「戻ってきた人はいない」という母の言葉だけが、主人公の頭の中で何度も繰り返されていた。




