129話 軍隊に入隊した
高校生活も終わり、主人公と彼女は合同結婚式を済ませ、無事に夫婦となった。
そして高校を卒業すると同時に、主人公は軍へ入隊した。
主人公が希望した配属先は、空軍だった。
目的は一つ。
神の世界の全容を解明するためである。
――空からなら、神の世界を直接見ることができるかもしれない。
主人公は、そう考えていた。
前世で主人公は、神の世界にいる魔物たちに命を落としている。
今回も真相に近づこうとすれば、いずれ魔物たちと対峙することになるだろう。
そのためには、武器と戦闘技術が必要だった。
軍隊なら、前世で使われていたような銃やミサイル、あるいは魔物に対抗できる特殊な兵器が残されているかもしれない。
主人公は、そう期待していた。
入隊後、主人公は配属された基地の近くで暮らすことになった。
軍では、有事の際に隊員をすぐ基地へ招集できるよう、基地周辺に軍人とその家族向けの住宅が数多く整備されていた。
住宅は国が用意しており、家賃も無料だった。
主人公もその一つを割り当てられ、妻とともに新しい生活を始めることになった。
しかし――。
入隊して間もなく、主人公の期待は打ち砕かれることになる。
この世界の軍隊は、主人公が前世で知っていた軍隊と比べて、あまりにも弱体化していたのである。
訓練施設は小さく、兵士の数も少ない。
配備されている銃も旧式で、戦車や戦闘機などの大型兵器は最低限しか保有されていなかった。
訓練内容も、暴動の鎮圧、重要施設の警備、災害救助、行方不明者の捜索などが中心だった。
ある日の訓練中、主人公は教官に尋ねた。
「対戦車戦闘や対空戦闘の訓練はないんですか?」
教官は、不思議そうな顔をした。
「戦車や戦闘機を持っている敵が、どこにいるんだ?」
「外国の軍隊です」
「外国と戦争なんて起こらないぞ」
教官は、まるで当たり前のことを説明するように答えた。
この世界では、各国の力に大きな差が生まれないよう、人口や領土に応じて国が細かく分けられている。
さらに軍事力についても、国際機関によって厳しく管理されていた。
兵士の数。
保有できる兵器の種類と数。
戦車や軍用機の保有数。
そのすべてに上限が定められており、一つの国だけが強大な軍事力を持つことは禁止されている。
そのため、どの国にも他国へ大規模な侵攻を行えるほどの戦力はなかった。
この世界の軍隊に求められているのは、外国との戦争ではない。
国内で大規模な反乱が起きた場合の鎮圧。
災害時の救助活動。
そして、政府機関や重要施設の警備。
それらが主な任務だった。
かつては核兵器や長距離ミサイルも存在していたらしい。
しかし、長い平和の中で必要性が失われ、すべて廃棄されていた。
通常のミサイルや大型爆弾ですら、維持費が高いという理由から大幅に数を減らされている。
何十年もの間、大きな戦争は起きていない。
国内での大規模な反乱も、数十年以上発生していなかった。
平和な時代が続くにつれ、軍事予算は少しずつ削減され、兵士の数も減らされ、兵器も次々と手放されていった。
そして現在。
軍隊は、国を守るための巨大な戦力というよりも、武装した治安維持・災害救助組織に近い存在となっていた。
後日、主人公は武器庫を見学する機会を得た。
そこに並んでいたのは――
小銃。
拳銃。
防弾盾。
催涙弾。
手榴弾。
機関銃。
どれも、人間を相手にすることを前提とした装備ばかりだった。
主人公は武器庫の中を何度見回しても、巨大な魔物とまともに戦えそうな兵器を見つけることができなかった。
戦車はわずかしかない。
戦闘機も同様だった。
大型ミサイルに至っては、存在すらしない。
主人公は目の前の小銃を見つめながら、小さくつぶやいた。
「……これじゃ、あの魔物には傷一つつけられない」
もちろん、周囲の兵士たちはそんなことを気にしていなかった。
むしろ、この状況を誇りに思っている者さえ多かった。
戦争がない。
核兵器もない。
国同士が領土を奪い合うこともない。
軍隊が戦う必要すらない。
確かに、それは平和な世界の証だった。
主人公も、そのこと自体を否定するつもりはなかった。
平和であることは、間違いなく良いことだ。
だが――。
主人公だけは知っている。
この世界には、人間同士の戦争など比較にならないほど恐ろしい存在がいる。
神の世界にいる魔物たちだ。
そして、もしあの魔物たちが再び人類へ牙をむいたとき――。
今の軍隊では、何もできない。
主人公は武器庫に並ぶ装備を見つめながら、背筋が冷たくなっていくのを感じていた。
軍へ入れば、神の世界の全容を解明するための力が手に入る。
そう考えていた。
しかし、現実は正反対だった。
この世界は平和になりすぎた結果――
人類を守るための力そのものを、失いつつあったのである。




