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転生したらみんなが恋人いる謎の世界だった。どうして私だけいないの。  作者: まやまや
転生したら男でした。

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127話 子ども家庭庁のおねいさんの栄転(2)

子ども家庭庁における「子作り国家試験・試験監督」の仕事は、彼女の想像をはるかに超える地獄だった。


仕事内容だけを聞けば、それほど難しいものではない。


試験官が規則どおりに試験を進めているか。


受験者に対する説明は適切か。


不正や手順違反はないか。


制限時間は守られているか。


安全確認は行われているか。


それらを端末に沿って確認し、問題があれば記録する。


ただ、それだけの仕事――のはずだった。


しかし、大きな問題が一つあった。


子作り国家試験は、筆記試験ではない。


実技試験である。


つまり彼女は、朝から晩まで、その実技試験を監督し続けなければならなかった。


「これ……監督というより精神修行じゃない……?」


最初の一時間は、まだ仕事だと割り切ることができた。


二時間目も、なんとか耐えられた。


三時間目になると、端末に表示されるチェック項目の文字が、だんだん頭に入らなくなってきた。


《試験官は受験者に適切な説明を行ったか》


《不正行為がなかったか》


《試験時間を厳守したか》


《安全確認を実施したか》


彼女は端末を見つめたまま、小声でつぶやいた。


「知らないわよ……こっちは自分の精神状態の安全確認をしてほしいのよ……」


もちろん、監督中に席を外すことはできない。


よそ見も禁止。


居眠りなど、もってのほかだった。


監督者である以上、最初から最後まで試験の進行を確認しなければならない。


しかも――彼女には恋人がいなかった。


これが地味に、いや、かなり深刻だった。


仕事を終えて自宅へ帰るころには、妙に落ち着かない気分になっている。


今までは主人公で発散していたが、その感情を発散する相手は今はいない。


冷たいシャワーを浴びる。


激しい運動をする。


恋愛要素が一切ない番組を見る。


できるだけ色気とは無縁の番組を選んだ。


それでも駄目だった。


しかも、この世界には、独身者がそうした感情を紛らわせるための娯楽が、ほとんど存在しなかった。


成人向けの映像作品もなければ、漫画も画像もない。


この社会では、大半の人間が若いうちから恋人を持ち、そのまま結婚する。


そのため、一人で楽しむための成人向け文化そのものが、ほとんど発達しなかったのである。


動画配信サービスを検索しても、出てくるのは――。


《恋人と作る簡単ディナー》


《夫婦で楽しむ週末温泉旅行》


《今日から始める子育て講座》


《夫婦円満のための会話術》


そんな番組ばかりだった。


とうとう彼女は、端末に向かって音声検索した。


「成人向けの番組はないの?」


端末は、いつもの明るい声で答えた。


『独身の方には、国営恋人紹介サービスのご利用をおすすめします』


「今すぐどうにかしたいのよ! 将来の人生相談をしてるんじゃないの!」


さらに腹立たしいことに、この国営恋人紹介サービスは、とにかく料金が高かった。


民間企業による恋人仲介サービスは禁止されているため、独身者が正式に相手を探そうとすれば、ほぼこの制度を利用するしかない。


「しかも、高いのよ……」


彼女は以前にも何度か利用したことがあった。


条件のいい男性が登録されること自体、かなり少ない。


たまに容姿も成績も性格も良さそうな男性が掲載されると、一気に応募が殺到する。


そして応募者が多すぎる場合、紹介優先権は追加料金による入札方式になる。


実質的なオークションだった。


「この前なんて、紹介してもらうだけで何十万円まで上がったのよ!?」


当然、彼女は途中で降りた。


さらに彼女には、どうしても納得できないことがあった。


女性側の登録者一覧を見ると、なぜか美人ほど長期間残っているのである。


反対に、ごく普通の女性のほうが早く相手を見つけて退会していく。


「なんでなのよ!」


端末に向かって彼女は叫んだ。


「どうして美人な人ほど売れ残ってるの!? 普通なら逆でしょう!?」


『質問の意味を解析できませんでした』


「あなたに聞いてない!」


どうやら彼女自身も、過去に何度かこのサービスを利用したものの、結局マッチングまで進まなかったらしい。


当然ながら、端末に怒鳴ったところで何も解決しない。


では、繁華街へ行けば何とかなるのか。


それも無理だった。


この世界の繁華街には、一部「既婚者向け交流区域」と呼ばれる場所が存在する。


入場するためには、正式な婚姻記録があること。


さらに、配偶者が発行した電子許可証を所持していること。


この二つが必要だった。


ある休日。


彼女は駄目だと分かっていながら、試しに入口の認証ゲートへ個人端末をかざしてみた。


ピンポーン。


赤い警告表示が出る。


《入場資格がありません》


「見れば分かるわよ!」


さらに画面が切り替わった。


《理由――未婚》


「理由をそんなに大きく表示しないで!」


周囲にいた夫婦が一斉にこちらを振り返った。


彼女は顔を真っ赤にすると、その場から逃げるように立ち去った。


結果として、この世界は驚くほど健全だった。


成人向け文化はほぼ存在しない。


恋人がいなければ、基本的には我慢するしかない。


今までは――主人公がいた。


特別授業で毎日のように顔を合わせ、性欲も発散していた。


だが、今は主人公もいない。


目の前にあるのは、実技試験。


実技試験。


また実技試験。


「どうして私がこんな目に……」


数か月後。


ついに彼女は限界を迎えた。


担当責任者のところへ行き、真剣な顔で申し出る。


「お願いがあります」


「何でしょう?」


「試験監督ではなく、普通の試験官を担当させてください」


担当責任者は、きょとんとした。


「……なぜです?」


「見るだけより、実際に仕事をしていたほうが気が紛れると思うんです!」


担当責任者は怪訝そうな顔をしながら、彼女の人事情報を端末に表示した。


そして数秒後。


顔色が変わった。


「無理です!」


「まだ詳しい話をしてませんけど!」


「幹部候補の方を通常の試験官として配置するなんて、絶対に無理です!」


「私は今、試験監督をやらされてるんですけど!」


「監督と試験官では責任の重さが違います!」


「私の精神にかかってる負担の重さも考えてください!」


「万が一、幹部候補であるあなたに何かあったら、こちらの責任問題になります!」


「もう十分、私に何か起きてます!」


彼女は必死に訴えた。


しかし担当責任者は、何度も首を横に振った。


「とにかく許可できません」


「じゃあ元の部署に戻してください!」


「それも無理です」


「なんでよ!」


「あなたは将来、この庁を背負う人材なのです。さまざまな部署を経験していただくという上層部の方針です」


「だったら、こんな場所に送らないでよ!」


「上層部の決定ですので」


彼女の動きが止まった。


「……出た」


役所で最強の言葉。


――『上層部の決定』。


これを出されたら、現場の職員にできることはほとんどない。


「ずるいわよ、その言葉……」


「私に言われましても……」


結局、彼女は試験官になることも、元の部署へ戻ることも許されなかった。


そして翌朝。


彼女は死んだ目で監督室の座席に座っていた。


目の前の大型画面に、本日の予定が表示される。


《本日の実技試験予定数――42名》


「…………42人」


彼女はゆっくりと天井を見上げた。


「これ、謹慎より重い罰じゃない?」


もちろん、誰も答えてくれない。


代わりに、端末から無情な通知音が鳴った。


ピコン。


《第一試験、まもなく開始します》


続いて表示される。


《監督者は試験中、絶対に目を離さないでください》


彼女は数秒間、画面を見つめた。


そして、とうとう開き直った。


「はいはい! 見ますよ!」


立ち上がり、端末を握る。


《第一試験を開始します》


こうして今日も――。


子ども家庭庁の幹部候補でありながら、なぜか誰もやりたがらない子作り国家試験の監督室へ送り込まれた彼女の、地獄の一日が始まった。

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