124話 慌ただしい初めての記念日
主人公は彼女の両親と相談し、急いで初めて記念日の準備を始めた。
場所を決め、服も買い物に行き、友達にへ連絡した。
彼女も初めて記念日のことを知っていたため、話は驚くほどスムーズに進んだ。
両親のサポートの上、彼女と主人公中心で色々決めることになった。
「まず衣装を決める」
「セクシーのがいいけど?」
「今回は私が決めるから大丈夫」
「それ、大丈夫じゃない可能性が高いよな」
「次にホテル探し。それから家族とのパーティ。最後に二人で将来の誓約書を確認する」
「一週間で全部やるの?」
「あなたの試験が急に早まったからでしょう」
「俺のせいじゃない」
二人は放課後も休日も走り回った。
写真屋の予約。
衣装合わせ。
ホテルの確認。
記念日のための服選び。
準備は慌ただしかったが、主人公にとっては、これまでの特別授業とはまったく違う時間だった。
誰かに命令されて行うのではない。
彼女と話し合い、自分たちで決めていく。
そのことが、主人公には何よりもうれしかった。
そして迎えた「初めて記念」の日。
会場となったホテルには、これまで主人公を指導してきた子ども家庭庁のおねえさんも来ないかと思っていたが来てくれた。彼女は最後の仕事として、国家資格取得後に残されていた最終確認を行うことになっていた。
ところが、おねえさんは部屋にに入ったときから、ずっと泣いていた。
「まだ何も始まってないですよ」
主人公が苦笑すると、おねえさんはハンカチで目元を押さえながら答えた。
「だって……無事卒業し私から旅立つなんて」
「この前も同じことを言って泣いてましたよね?」
「この前とは違う涙なの!」
そう言い張ったものの、説明を始めても声は震え、タブレットを確認しても涙が落ち、最後の注意事項を伝えるころには、隣にいた彼女まで困った顔をしていた。
「先生、これでは私たちより緊張していますよ」
「緊張なんかしてないわよ。ただ、涙が出てきて」
おねえさんにとって、それは単なる最終試験ではなかった。
長い間見守ってきた自称恋人が、自分の手を離れ、大切な人と新しい人生へ進んでいく。その瞬間を見届ける、別れのための最後の授業だった。
すべての確認を終えると、おねえさんは二人の手を重ね、その上からそっと自分の手を置いた。
「これで、私の授業は本当に終わりです。合格、おめでとう」
その言葉を聞き、主人公は深く頭を下げた。
彼女も一緒に頭を下げる。
そして顔を上げたとき、おねえさんは二人以上に泣いていた。
「先生が一番泣いてどうするんですか」
主人公がそう言うと、会場にいた両親と友人たちから笑い声が上がった。
一週間で慌ただしく準備した、決して完璧とはいえない記念日。
それでも二人にとっては、生涯忘れることのできない、温かい門出の日になった。




