123話 卒業試験
クリスマスイブの翌日から、子ども家庭庁のお姉さんによる特別授業は、毎日ではなくなった。
しかも、それまで頑なに認めてもらえなかった国家試験を、すぐに受けられることになった。
それまでは放課後になると、必ずと言っていいほど呼び出しの通知が届いていた。
それが週に三回になり、二回になり――やがて、簡単な確認だけで終わるようになった。
あまりにも急な変化に、主人公はさすがに不思議に思った。
「急に授業が減りましたけど、大丈夫なんですか?」
主人公が尋ねると、お姉さんはタブレットから目を上げることなく答えた。
「もう教えることがなくなったから」
「先週まで、あと二か月は必要だって言ってませんでした?」
「予定は変わるものなの」
「ずいぶん都合よく変わりましたね」
「うるさい」
声はいつもどおりだった。
けれど、その目元が少し赤くなっていることに、主人公は気づいていた。
さらに数日後。
主人公は突然、国家試験を受けるよう告げられた。
「本当に受けていいんですか?」
「推薦書はもう提出した。実技も合格水準に達しているから、問題ない」
「推薦書って……先生が書いたんですか?」
「あなたの担当者は私だからね」
お姉さんは淡々と答えながら、試験に必要な書類を端末上で確認していく。
主人公には、何となく分かっていた。
お姉さんは、自分を一日でも早く特別授業から卒業させようとしている。
もう自分を近くに置きたくないからなのか。
それとも、自分の将来を守ろうとしているのか。
主人公には、最後まで判断できなかった。
そして、国家試験当日。
試験会場には、子ども家庭庁の正式な試験官が待っていた。
筆記試験に続いて、最後の実技試験が行われる。
担当のお姉さんから提出された推薦書と、これまでの特別授業の記録も事前に確認されていたため、試験は滞りなく進んだ。
お姉さん自身も監督者として、会場の隅から主人公の試験を見守っていた。
やがて、試験官が告げる。
「――以上で、最終試験を終了します」
「……終わった」
主人公は小さく息を吐いた。
そのときだった。
会場の隅から、
「……ぐすっ」
小さく鼻をすする音が聞こえた。
主人公がそちらを見る。
お姉さんが泣いていた。
「先生、何で泣いてるんですか?」
「泣いてない」
「いや、完全に泣いてますよね?」
「会場の空気が乾燥しているだけ」
「両目からそんなに?」
「そういう乾燥もあるの」
「初めて聞きましたよ」
お姉さんは顔をそむけた。
主人公も、それ以上は何も言わなかった。
試験結果は、その日のうちに端末へ送られてきた。
《国家試験結果――合格》
「……受かった」
主人公は、しばらくその文字を見つめた。
こうして主人公は、正式に国家資格を取得した。
そして同時に――
三年間続いた、お姉さんとの特別授業も、その日をもって終了した。
ずっと待ち望んでいたはずの卒業だった。
けれど、主人公の胸には、嬉しさだけでは説明できない妙な寂しさが残っていた。
とはいえ、立ち止まっている暇はない。
卒業までは、もうあとわずかだった。




