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転生したらみんなが恋人いる謎の世界だった。どうして私だけいないの。  作者: まやまや
転生したら男でした。

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122話 子ども家庭庁のおねいさんとのクリスマスイブ

あれから何か月もたち、季節は十二月になっていた。


卒業まで、あと四か月。


しかし主人公は、いまだに国家試験を受けることができずにいた。


子ども家庭庁の担当のお姉さんが、どうしても受験許可を出してくれないのだ。


主人公が何度頼んでも、


「まだ準備が足りないから」


「もう少し経験を積んでからね」


「今受けても、たぶん難しいと思うよ」


と、そのたびに違う理由をつけて断られていた。


そして迎えた、クリスマスイブ。


夕方、主人公の携帯に担当のお姉さんからメールが届いた。


『今日は家にいてね。あとでタクシーが迎えに行くから』


続けて、もう一通。


『できるだけ、いい服を着てきてね』


「……何だこれ?」


目的も行き先も書かれていない。


主人公が両親にメールを見せると、二人は一瞬顔を見合わせた。


そして、なぜか慌ててクローゼットを開け始める。


「こっちのジャケットがいいんじゃないか?」


「ネクタイもしたほうがいいわ」


「いや、クリスマスイブに子ども家庭庁から呼び出される時点で、普通じゃないだろ」


主人公がそう言っても、両親はほとんど聞いていなかった。


約束の時間になると、家の前に黒塗りの大型タクシーが停まった。


運転手は白い手袋をしており、主人公の名前を確認すると、丁寧に後部座席のドアを開ける。


「どうぞ、お乗りください」


「……ますます嫌な予感がする」


タクシーは、そのまま都心へ向かった。


一時間ほどして到着したのは、この国でも有数の超高級ホテルだった。


巨大なシャンデリア。


磨き上げられた大理石の床。


見上げれば首が痛くなりそうなほど高い天井。


主人公は入口で思わず立ち止まった。


「……本当に、この服で大丈夫か?」


ロビーでは、担当のお姉さんが待っていた。


だが、いつもの仕事着ではない。


落ち着いた色の華やかなドレスをまとい、髪もきれいに整えている。


一瞬、別人かと思ったほどだった。


「メリークリスマス」


 お姉さんは、少し緊張したような笑顔を浮かべた。


「今日は私のこと、先生って呼ばなくていいからね」


「じゃあ、何て呼べばいいんですか?」


「……お姉さんでいいよ」


「いつもと同じじゃないですか」


「細かいことはいいの」


案内されたのは、ホテル最上階にあるレストランだった。


窓の外には、宝石を散りばめたような夜景が広がっている。


運ばれてくる料理も、主人公が普段食べているものとはまるで違った。


小さな皿に載せられた高級そうな肉。


名前を聞いても覚えられそうにない魚料理。


金色の粉が散らされたスープ。


そして、左右には何本ものフォークとナイフが並んでいる。


「……どれから使えばいいんだ?」


「外側から」


「特別授業より難しいですよ、これ」


お姉さんは小さく笑った。


だが、その笑顔はどこか硬かった。


食事の途中も、お姉さんは何度も主人公の顔を見ていた。


何かを言おうとしてはやめる。


口を開きかけては、また料理へ視線を落とす。


そんなことを何度も繰り返していた。


そして、最後のデザートが運ばれてきた。


白い皿の中央には、小さなケーキ。


その隣には、飴細工で作られた赤いバラが添えられていた。


主人公がケーキを一口食べた、そのときだった。


お姉さんが静かにスプーンを置いた。


「ねえ」


「はい?」


少しの沈黙。


そして――。


「私の旦那さんにならない?」


主人公の手が止まった。


「……はい?」


「君のことが好きなの」


お姉さんは、まっすぐ主人公を見ていた。


冗談を言っている顔ではなかった。


「ちょっと待ってください。今日、これを言うために呼んだんですか?」


「うん」


「高級ホテルも?」


「うん」


「この料理も?」


「……うん」


主人公は思わず窓の外へ視線を向けた。


夜景はきれいだった。


だが、主人公の頭の中では警報が鳴り響いていた。


お姉さんは緊張した様子のまま、話を続ける。


「私ね、もうすぐ子ども家庭庁の幹部になれるの」


「幹部?」


「うん。ずっと、そのために頑張ってきたから」


お姉さんは一度息を整えた。


「幹部になると、いくつか特権が与えられるの」


「特権?」


「……神の世界へ行く義務を免除される」


主人公は顔を上げた。


お姉さんは、テーブルの上で両手を強く握っていた。


「普通の人は、最後には夫婦で神の世界へ行かなくちゃいけない。でも、一定以上の政府幹部と、その配偶者には免除される権利があるの」


「そんな制度が……」


「ほかに免除される方法は、国が認めるほどの著名人になることくらい」


そこで、お姉さんは主人公をまっすぐ見つめた。


「だから、私と結婚すれば、君も神の世界へ行かなくて済む」


「……」


「君はずっと安全に暮らせる。家族だって安心する。将来だって保証される」


そして、少し身を乗り出す。


「私なら、君を守れる」


主人公は何も答えなかった。


高級ホテル。


豪華な料理。


将来を保証してくれる相手。


そして何より――神の世界へ行かなくて済む特権。


普通なら、断る理由などないようにも思える。


けれど。


主人公の答えは、最初から決まっていた。


「大変ありがたいお話なのですが、お断りさせていただきます。」


 お姉さんの表情が固まった。


「……え?」


「結婚しません」


「どうして……?」


「助かるためだけに、好きでもない人と結婚するつもりはありません」


「でも……」


お姉さんの声が震えた。


「神の世界へ行かなくて済むんだよ?」


「それでもです」


「私、本当に君が好きなの」


お姉さんは必死に言葉を続けた。


「そのために、幹部になろうってずっと頑張ってきたの。私が幹部になれば、君を神の世界から守れると思ったから……」


「……それは、今日まで知りませんでした」


主人公は少しだけ言葉を選び、静かに続けた。


「でも、答えは変わりません」


お姉さんの目に涙が浮かんだ。


「私じゃ……駄目なの?」


「先生だからとか、年齢が違うとか、そういう問題じゃないです」


主人公は少し迷ったあと、はっきりと言った。


「神の世界へ行かなくて済むことを条件にして結婚を求められたら……断りにくくなるじゃないですか」


「……」


「だから、それは少しずるいと思います」


お姉さんは何も言えなくなった。


一粒の涙が頬を伝い、白いテーブルクロスの上に落ちた。


レストランには、静かなクリスマスの音楽が流れていた。


周囲の客たちは楽しそうに食事をしている。


その中で、お姉さんだけが俯き、声を押し殺して泣いていた。


主人公はどうしていいか分からず、目の前に残っていたケーキへ視線を落とす。


「……あの」


「……なに?」


「これ、食べてもいいですか?」


お姉さんは泣きながら、力なくうなずいた。


「……好きにすればいいじゃない」


「じゃあ、食べます」


主人公は残っていたケーキを、最後の一口まできれいに食べた。


それから二人は、ほとんど言葉を交わさなかった。


ホテルの玄関で別れるとき。


お姉さんは赤くなった目で主人公を見た。


「……明日からは、いつもどおりだからね」


「分かりました」


「特別授業も……いつもどおり」


「はい」


そこで、お姉さんは少し俯いた。


「でも……今日は、もうなし」


「はい」


その日。


主人公が一度も特別授業を受けなかったのは、三年間で初めてのことだった。


クリスマスイブの夜。


主人公は迎えのタクシーに乗り、そのまま無事に家へ帰った。


一方――。


担当のお姉さんは、主人公を乗せたタクシーが見えなくなったあとも、ホテルのロビーから動くことができなかった。


きらびやかなクリスマスツリー。


楽しそうに行き交う人々。


華やかな飾り付けに囲まれながら。


お姉さんは一人、しばらくその場で静かに泣き続けていた。


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